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大阪の「新たな顔」JR西日本323系と大阪市営地下鉄30000系に込められた工夫とは?

伊原薫鉄道ライター
メーカーで行われたJR323系のお披露目式。大阪環状線の専用車両となる

先日、JR西日本と大阪市交通局で相次いで新型車両のお披露目が行なわれた。いずれも大阪の「新たな顔」となる車両には、利用者の立場に立ったさまざまな改良がなされている。今回はその内容を紹介しよう。

○時間帯によって照明の色が変わる、御堂筋線の新型車両

大阪市営地下鉄御堂筋線の30000系。今回、更なる快適性向上が図られた
大阪市営地下鉄御堂筋線の30000系。今回、更なる快適性向上が図られた

大阪市の中心部を走る、大阪市営地下鉄御堂筋線。2011年から新型車両・30000系が活躍しているが、今年7月に導入された第4編成はマイナーチェンジが行なわれ、さらなる快適性の向上が図られた。

車内に入ってまず気づくのは、その照明の色。白色をベースに、早朝・深夜は電球色、夕方は新開発された「しだれ桜色」など、時間帯によって5色に変化する。「地下を走っていても、一日の変化を感じられる演出を取り入れました」と、大阪市交通局広報担当の辻野聡さんは話す。

時間帯によって変わる照明。左上から時計回りに電球色・白色・昼白色・ソメイヨシノ
時間帯によって変わる照明。左上から時計回りに電球色・白色・昼白色・ソメイヨシノ
1人ずつ独立した座席。座り心地も改良された。座席下にも照明が設置されている
1人ずつ独立した座席。座り心地も改良された。座席下にも照明が設置されている

次に目を引くのが座席だ。これまでとは違い、1人ずつ独立した形状となった座面は低反発素材が使われ、「御堂筋線のような短時間乗車に最適なように改良しました」。ちなみにこのシートは、新幹線のグリーン車と同じ素材が使われているという。さらに、シートの足下部分にも照明を設置。暗いところをなくすことで、安心感を与える効果があるそうだ。床敷物は御堂筋をイメージしたイチョウ柄で、ところどころにギンナンも。イチョウは他にも車内のあちこちに見られる。

床はイチョウ柄。「御堂筋に舞い落ちたイチョウを踏みしめて歩く」イメージだとか
床はイチョウ柄。「御堂筋に舞い落ちたイチョウを踏みしめて歩く」イメージだとか

○女性専用車両は荷棚や吊り革を低く

一般車両(左)にくらべ、女性専用車両(右)は荷棚の位置が低い
一般車両(左)にくらべ、女性専用車両(右)は荷棚の位置が低い

ところで、御堂筋線では平日に女性専用車両が設定されている。今回導入された編成では、専用車両となる6号車で、壁紙や吊り革の色が一般車両と区別されているほか、吊り革や荷棚の高さも低くなっており、より女性が利用しやすくなっている。全車両に抗菌加工が施され、プラズマクラスター技術を利用した空気浄化装置も設置されるなど、いっそう快適になった新型車両は、早ければ今年の秋ごろからデビューする予定だ。

○最混雑車両だけの工夫が見られる、大阪環状線専用車両

新快速などで活躍する225系をベースとした323系。数々の「専用仕様」を備える
新快速などで活躍する225系をベースとした323系。数々の「専用仕様」を備える

一方、JR西日本が6月末にお披露目した大阪環状線用の新型車両・323系。駅施設のリニューアルをはじめとした「大阪環状線プロジェクト」の総仕上げと位置づけられた同車は、大阪環状線専用にカスタマイズされている。特定線区に特化した構造というのは全国的にも珍しい試みだが、具体的にはどんなところが「専用」なのか、車両設計を担当したJR西日本の大森正樹課長に聞いてみた。

最も混雑する8号車は、ドア横の立ち席スペースを拡大。クッションパネルがうれしい
最も混雑する8号車は、ドア横の立ち席スペースを拡大。クッションパネルがうれしい
ドア横の仕切りを斜めにすることで、肩部分にゆとりをもたせた
ドア横の仕切りを斜めにすることで、肩部分にゆとりをもたせた

「最大の特徴は、大阪駅で京橋寄りの先頭車となる8号車。ここは、大阪駅の御堂筋口、天王寺駅の中央口、新今宮駅の南海電鉄乗り換え口などがある位置で、8両編成の中でも一番混雑する車両です。そこで、少しでも混雑を緩和するため、他の車両より座席を少なくし、その分ドア横のスペースを広くして、乗降がスムーズになるよう工夫しています。また、そのスペースには腰部分にクッションパネルを取り付け、立っているお客様がもたれかかれるようにしています」

ちなみに、ドア横の座席にある仕切りにも工夫が。これまでは座席と直角に設置されていたが、323系では少し斜めになっていて、ひじ置きを兼ねるとともに肩が収まるようになっている。この構造、実際に座ってみると見た目以上に快適。座席のクッション性も改良され、とてもゆったりとした座り心地だ。

○すべての人に配慮された、数々の改良

取っ手を軽く引く(左)と突起が出て枠部分を押し(中)、軽い力で開けられる(右)
取っ手を軽く引く(左)と突起が出て枠部分を押し(中)、軽い力で開けられる(右)

車内には、他にも快適に使えるための工夫が随所に見られる。例えば優先座席は1席ごとに肘掛けを設置。立ち上がる際の手がかりとしても便利だ。また、車両間にある貫通扉は、取っ手を軽くひっぱるとテコの原理で簡単に開くように改良された。現在増備が続いている225系の改良車から採用された技術だが、この取っ手は既存車両にも簡単に取り付けられるようになっており、これから普及していくことだろう。さらに、ドアレール部分の水抜き穴には、女性のヒールがはまらないよう細い棒が取り付けられているなど、細かな配慮が嬉しい。

そして、さまざまな工夫は乗客のためだけではない。ドアレール部分の溝は端部がゆるやかに盛り上げられ、また荷棚を取り付けるボルトの凹みも指が入る大きさに。いずれも、清掃の際にゴミをかき出しやすくなっているのだ。検修作業などの際に角が当たってケガをしないよう、ドアステップの角も丸められているなど、作業員などのことも配慮された、やさしい車両となった。

(左)水抜き穴の奥に細い棒が見える (右)荷棚の取り付け部も掃除しやすくなった
(左)水抜き穴の奥に細い棒が見える (右)荷棚の取り付け部も掃除しやすくなった

これまでの車両には見られないさまざまなアイデアを取り入れて、大阪の中心部で新たに活躍を始める2つの車両。その快適性に、今から注目だ。

鉄道ライター

大阪府生まれ。京都大学大学院都市交通政策技術者。鉄道雑誌やwebメディアでの執筆を中心に、テレビやトークショーの出演・監修、グッズ制作やイベント企画、都市交通政策のアドバイザーなど幅広く活躍する。乗り鉄・撮り鉄・収集鉄・呑み鉄。好きなものは103系、キハ30、北千住駅の発車メロディ。トランペット吹き。著書に「関西人はなぜ阪急を別格だと思うのか」「街まで変える 鉄道のデザイン」「そうだったのか!Osaka Metro」「国鉄・私鉄・JR 廃止駅の不思議と謎」(共著)など。

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