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コロナ禍で売り上げ7割減のラーメン店が仕掛けたハイブリッドな弁当屋とは?

井手隊長ラーメンライター/ミュージシャン
ラーメン店が弁当屋を立ち上げる狙いとは? (写真:まんてんごはん提供)

コロナ禍でラーメン店がテイクアウトやデリバリーに力を入れているという話を多方面から聞く。

今や「Uber Eats」「出前館」で簡単にラーメン店のメニューが注文できる時代になったが、今回取材したのはなんとコロナ禍でラーメン店が始めた“弁当屋”である。その一歩踏み込んだ取り組みはウィズコロナの飲食店の新たな形を示している。

まんてんごはん (写真:筆者撮影)
まんてんごはん (写真:筆者撮影)

2021年10月30日、墨田区立花に『まんてんごはん』がオープンした。

その外観からは地域密着の弁当屋に見えるが、実はここはラーメン店が手掛けるテイクアウト専門店兼セントラルキッチン兼バーチャルレストランという珍しい店舗である。

この店を手掛けるのは都内近郊に6店舗のラーメン店を展開する株式会社クロコ。ラーメン店のほかにフレンチやイタリアンレストラン、カフェなど多数のお店を手掛ける企業である。

満天トウキョー (写真:筆者撮影)
満天トウキョー (写真:筆者撮影)

同じ墨田区には、株式会社クロコの手掛ける油そば専門店『満天トウキョー』(墨田区押上1丁目)がある。

『満天トウキョー』のある押上エリアは東京スカイツリーに訪れる観光客の需要が大きい。外国人観光客も多く訪れるエリアだ。

しかし、新型コロナウイルスの影響で外出自粛となり、観光客が激減。『満天トウキョー』の売り上げは一気に7割減まで落ち込んだ。

「街からは観光客が全くいなくなり、このままでは確実にお店が潰れてしまう勢いでした。一方で、集客に力を入れる空気は全くない。

そうなると、売り上げが落ちた分をテイクアウトで補うしかありませんでした」(『満天トウキョー』店長・三橋元気氏)

『満天トウキョー』の油そば (写真:筆者撮影)
『満天トウキョー』の油そば (写真:筆者撮影)

会社としては、テイクアウトはどうしても店内で食べるよりもクオリティが落ちるため、もともとは否定的だった。しかし、このままでは店は続かない。まさに今やるしかない状況だった。

そこで、2020年4月から店頭でご飯もののテイクアウト販売をスタートした。まだ油そばには手を付けず、チャーシュー丼や唐揚げ丼、カレーなどを提供していた。

常連客からも好評で、当然ながら「油そばもやってほしい」という意見が多く集まった。

ある程度の売り上げが見込めたため、今度はテイクアウト用の油そばのメニュー開発に着手。ラーメンはテイクアウトだとどうしても麺が伸びてしまう問題があるが、油そばは“汁なし”のため、テイクアウトには比較的向いているメニューだ。同年6月から提供を開始した。

テイクアウトが軌道に乗ってきたところで、デリバリーアプリ「menu」と契約し、デリバリーをスタート。すると月30万円の売り上げが上がった。ここで売り上げは通常の8割にまで戻ってきた。

さらに10月からは「Uber Eats」でのデリバリーをスタートさせる。「Uber Eats」に関しては特に研究に研究を重ねたという。

「Uber Eats」のサイト (写真:満天トウキョー提供)
「Uber Eats」のサイト (写真:満天トウキョー提供)

「ウェブ上に新しいお店をオープンさせる感覚で、テストを重ねながら成功に近づけていきました。

綺麗な写真や適切な価格設定、わかりやすい商品説明はもちろん、リスティング広告や割引キャンペーンなどいろいろ試しながらベストを探っています」(三橋氏)

サイト上でお店をどうやって見つけてもらうか、そしてお客さんに注文したいと思わせるページをどうやって作るかを徹底的に研究し、売り上げを伸ばしていった。「Uber Eats」の成功で、『満天トウキョー』はようやく前年並みの売り上げに戻すことができたという。

「テイクアウトとデリバリーで何とかここまで繋いできました。

コロナ禍の売り上げ比でいくと、5:5(店内:テイクアウト、デリバリー)で推移しています。緊急事態宣言中は逆転して4:6になっていましたから」(三橋氏)

会社としては『満天トウキョー』の成功を次に繋げたい。

油そばに固執せず、バーチャルレストラン(ゴーストレストラン)の形で様々なメニューに対応できる環境を作ろうという企画が持ち上がった。『満天トウキョー』とは別の屋号で、実際の店とは異なる店をデリバリー上でのみ展開する考えだ。

もともと『満天トウキョー』には仕込み用のセントラルキッチンを借りる計画があったが、資金的に厳しく見送りになっていた。三橋氏は、店の近場で物件を見つけて、そこでバーチャルレストランのメニューを作りながら、『満天トウキョー』の仕込みもできたらベストなのではないかと考えた。

セントラルキッチン兼バーチャルレストランとして物件を借りるならば、採算が合うのではないかという考えだ。

早速、墨田区立花にある元小料理屋だった物件を見つけ、契約にこぎつける。

『満天トウキョー』のデリバリーのエリアデータを見ると、店よりも北の八広や向島方面からの注文が多かった。立花はちょうどこのエリアにあたり、デリバリー需要が大きいことはわかっていたので、テイクアウト用の店舗としても機能させることにした。

テイクアウト専門の弁当屋としてオープン (写真:まんてんごはん提供)
テイクアウト専門の弁当屋としてオープン (写真:まんてんごはん提供)

こうして『まんてんごはん』がオープンした。美味しい米「越宝玉」を使った弁当メニューを多数開発し、テイクアウト専門の弁当屋としてスタートした。プレオープンの10月29日はオープンから地域のお客さんが行列を作っていた。

紆余曲折を経て、『まんてんごはん』は

  • テイクアウト専門の弁当屋
  • 『満天トウキョー』のセントラルキッチン
  • 今後展開するバーチャルレストラン

の3つを兼ね備えたハイブリッドな店舗として誕生したのである。

『まんてんごはん』のから揚げ弁当 (写真:筆者撮影)
『まんてんごはん』のから揚げ弁当 (写真:筆者撮影)

今後は『まんてんむすび』『まんてんカレー』など『まんてん』グループのバーチャルレストランという見せ方でデリバリーにさらに注力していく予定だ。

「外食が減ったからといって、ご飯を食べる量や回数が減ったわけではありません。何らかの形で入り込む余地はあると思って、試行錯誤してきました。

地域とともに店を運営していくことに変わりはありませんが、時代に合わせて店も変わらなくてはならないことをコロナ禍で勉強させてもらいました」(三橋氏)

お店は東あずま本通り沿い。地元密着のお店を目指す (写真:筆者撮影)
お店は東あずま本通り沿い。地元密着のお店を目指す (写真:筆者撮影)

売り上げ7割減からの苦難のスタート。ウィズコロナの飲食店の一歩も二歩も踏み込んだ取り組みとして注目していきたい。

ラーメンライター/ミュージシャン

全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター。東洋経済オンライン、AERA dot.など連載のほか、テレビ番組出演・監修、コンテスト審査員、イベントMCなどで活躍中。 自身のインターネット番組、ブログ、Twitter、Facebookなどでも定期的にラーメン情報を発信。ミュージシャンとして、サザンオールスターズのトリビュートバンド「井手隊長バンド」や、昭和歌謡・オールディーズユニット「フカイデカフェ」でも活動。本の要約サービス フライヤー 執行役員、「読者が選ぶビジネス書グランプリ」事務局長も務める。

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