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咳止め『コデイン』が子どもに使用できなくなった理由は?

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
(写真:イメージマート)

さまざまな感染症が流行しており、咳に苦しんでいらっしゃる方も多いことでしょう。

そのような中、12歳未満の子どもに処方が禁止された咳止めがあることをご存知でしょうか。

それがリン酸コデイン、略して『コデイン』という咳止めです。

そこで今回は、子どもへのコデインの処方が禁止された理由に関して簡単に解説してみたいと思います。

『麻薬性』の咳止めがある

提供:イメージマート

鎮咳薬、いわゆる咳止めは、首にある大きな神経『延髄』にある咳中枢の働きを抑えることで咳を鎮める、『中枢性鎮咳薬』が多く使われています

さらに中枢性鎮咳薬は、『麻薬性』と『非麻薬性』に分類されます。

麻薬性と言われるとびっくりされるかもしれませんが、麻薬性の咳止めはモルヒネという麻薬成分と同じような構造を持つものがあるのですね。

そのうち、麻薬性中枢性鎮咳薬のひとつが、リン酸コデイン、一般には『コデイン』と呼ばれる咳止めです。

子どもに対するコデインは使用が制限されるようになった

写真:イメージマート

コデインの扱いに関し、世界的に子どもへの使用の禁止の流れとなり、2017年にはFDA(米国食品医薬品局)から、12歳未満の子どもには使用すべきではないという警告が発せられました[1]。

というのも、副作用として呼吸抑制(呼吸が遅くなったり難しくなったりすること)の危険性があると指摘され問題視されたのです。

国内でもその頃、重篤な副作用と考えられるような子どもがいらっしゃった、気をつけましょうという報告が続きました[2][3][4]。

そのため、日本でも2019年度より薬局などで購入できるような製品も含めてコデインが含まれた医薬品は、12歳未満の子どもへの使用を段階的に制限するという通知が厚労省から発せられたのです[5]。

コデインの問題点とは

提供:アフロ

コデインの副作用、呼吸抑制は特殊な酵素『CYP2D6』の働きの程度が関わっています

その酵素は、体の中でコデインがモルヒネに変換されるために必要なものです。その酵素の遺伝子の型によって、モルヒネの血中濃度が上がりやすい方がいることがわかっているのです[6]。

すなわち、副作用が起こりやすいかどうかには個人差があるということです。

ただ、もちろんのことながら、そういった遺伝子の型は、事前に知ることは難しいですよね。

すなわちリスクを予想することができないので、コデインは、作用が問題になりやすい子どもに制限されたということなのです。

さいごに

写真:イメージマート

個人的にはほとんど子どもに処方をしたことはありませんが、コデインは比較的効果が高い咳止めとして知られていました

ですので、コデインを使いたいという方が中にいらっしゃるかもしれませんけれど、このような事情があり、子どもには使用が制限されているのです。

さて今回は咳止め『コデイン』が、小児への使用が制限されているという話をさせていただきました。

ドラッグストアで、『前は使えていた薬が使えなくなっている』というトラブルがおこらないよう、この記事がなにかのお役に立つことを願っています。

この記事は、筆者が音声メディアVoicyで2022年8月17日に放送した内容を、文字起こし・加筆・修正して作成しました。

コデインという咳止めの話【子どもに使われなくなった理由】

参考文献

[1]FDA Drug Safety Communication: FDA restricts use of prescription codeine pain and cough medicines and tramadol pain medicines in children; recommends against use in breastfeeding women

2022年12月20日アクセス

[2]日本集中治療医学会雑誌 2016; 23:454.

[3]日本小児科学会雑誌 2017; 121:1914.

[4]日本小児臨床薬理学会雑誌 2018; 30:147.

[5]コデインリン酸塩等の小児等への使用制限について(案)(厚生労働省)

2022年12月20日アクセス

[6]Medical Genetics Summaries. Bethesda (MD): National Center for Biotechnology Information (US); 2012.

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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