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『アナフィラキシー』ってなに?どのように対応すればいいの?

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
写真AC

『アナフィラキシー』という言葉を耳にすることが増えています。

たとえば、新型コロナワクチンの接種が始まった頃に報道で、そして最近、歌手の方がアナフィラキシーのために入院され、心配される声をSNSでも見かけました。

そこで今回は、アナフィラキシーに関し簡単に解説したいと思います。

『アナフィラキシー』とは?

アナフィラキシー(anaphylaxis)は、防御の意味の『phylaxis』に、”反対の”という意味の『ana』をつけた言葉です。

では、アナフィラキシーとはどういう病気なのでしょうか?

ちょっと難しい言葉もでてきますが、大事なことですのでちょっとお付き合いくださいね。

アナフィラキシーの定義は、『アレルゲン等の侵入により、複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され、生命に危機を与え得る過敏反応』とのことです[1]。

難しいので、すこし簡単にすると、

『アレルゲン等が体にはいってくることで、ふたつ以上の臓器に、そして全身にアレルギー症状が起こる、いのちに危険がおよぶ可能性のある過敏な反応』のことです。

では、ふたつ以上の臓器、というのはどういうことでしょう。

臓器、というのは体のそれぞれのパーツと考えるとわかりやすくなります

イラストACより筆者作成
イラストACより筆者作成

つまり、

1)皮膚の症状(じんましん、赤くなるなど)

2)呼吸器の症状(咳やぜいぜい、呼吸が苦しくなるなど)

3)循環器の症状(血圧が下がったり、意識障害を起こす)

4)消化器の症状(何度も吐く、つよい腹痛など)

といった、それぞれの症状のうち、ふたつ以上の臓器にわたり、症状が急に広がるのがアナフィラキシーということです(実は、もっと詳しい基準があるのですが、それは別の記事を御覧ください[2]。

そして、さらに症状が進み、血圧が下がったり、意識状態が悪化してくると『アナフィラキシーショック』と言います(アナフィラキシーは、必ずしもアナフィラキシー”ショック”ではないということです)。

イラストACより筆者作成
イラストACより筆者作成

アナフィラキシーの誘引となるアレルゲンはさまざまです

写真:アフロ

医薬品(抗菌薬や解熱鎮痛薬、レントゲン検査時などに使用する造影剤)、昆虫(ハチなど)、そしてさまざまな食物も原因となります。

そして、アナフィラキシーを重症化させたり、増強させたりするさまざまな原因が知られています[1]。

たとえば食べ物や薬剤として、

1)アルコール

2)睡眠薬

3)βアドレナリン遮断薬(高血圧、狭心症、不整脈などに使用される)

4)ACE阻害薬(血圧を下げる作用がある)

などを内服していると、悪化する可能性が高くなります。

そして、

1)運動をしているとき

2)風邪をひいているとき

3)生理のとき

などがあると、普段はアレルギー症状が軽くとも、強く症状が出現する可能性が高くなります

そして、もともとの病気として、安定してない喘息やアレルギー性鼻炎などが関係します。

普段からきちんとこれらの治療をしておいたほうが良いでしょうし、食べ物などで症状があるかもしれないと感じている方は、普段の薬や生活に留意しておいたほうが適切でしょう。

予想外にアナフィラキシーを起こす状況もあります

アレルギー症状を起こす食べ物があったとしても、食べただけでは症状がでないのに、食べて運動をするとアナフィラキシーを起こすという病態があります。

それが食物依存性運動誘発アナフィラキシーです。

イラストACより筆者作成
イラストACより筆者作成

食物依存性運動誘発アナフィラキシーの原因はさまざまですが、最も多いものが小麦、そして甲殻類が知られており、最近は果物の報告も増えています

食物依存性運動誘発アナフィラキシーは、解熱鎮痛薬を内服した後はとくに症状がでやすく、たとえば頭痛などのために鎮痛薬を内服されたときなどは注意が必要です[3]。

なお、『食物によるアナフィラキシーが心配』として、『疑わしい病歴なしに』スクリーニングとして多くのアレルギー検査を事前にすることは基本的に勧められません[4]。

米国小児科学会も、『10個の賢い選択』として、『Don’t perform screening panels for food allergies without previous consideration of medical history.(事前に決めた食物をセットにした検査は、病歴を考慮せずに行ってはいけません)』と紹介しているくらいです。

アナフィラキシーがあったときに、適切に対応するために

写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

日本で、アナフィラキシーの既往を有する児童生徒の割合は、小学生0.6%、中学生0.4%、高校生0.3%とされています[1]。

決して少なくはありません。

適切な対応を知っておく必要があるのですね。

ガイドライン[1]によると、

1) バイタルサイン(意識状態、呼吸、脈拍などの徴候)の確認

2) 周囲に助けを呼ぶ

3) アドレナリン(エピペン)の筋肉注射

4) 患者を仰向けにする(30cmていど脚を上げる、嘔吐があるようなら顔を横に向ける)

5) 酸素投与

6) 静脈ルート(点滴)の確保

7) 心肺蘇生

8) バイタル測定

と記載があります。

実際は、薬がない場合が多いでしょうから、1)~4)までがまず救急対応としてできることでしょう。もちろん、薬剤がある場合、特にエピペンは有効です。

文部科学省では、アナフィラキシー時の対応を動画で紹介しています。

エピペンの使い方も、分かりやすく解説されています。

アナフィラキシーに関して、さらに詳しく知りたい方は日本アレルギー学会の運営する『アレルギーポータル』に情報がありますので参考にしてみてください[5]。

アナフィラキシーは、周囲の対応で多くは適切な治療へ結びつけることができます。

多くの方の共通認識になっていくことを願っています。

[1]アナフィラキシーガイドライン(日本アレルギー学会)

[2]『新型コロナワクチンで17人のアナフィラキシー』、リスクの高いワクチンなのですか?

[3]特殊型食物アレルギーの診療の手引き2015

[4]Choosing Wisely(AAP)

[5]アレルギーポータル

※2021/11/10 21時、後半を少し修正し、迷走神経反射の動画を削除しました。

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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