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抗菌薬の効果がなく発熱が長引く『咽頭結膜熱』が、RSウイルス感染症の影で増えてきています

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
(写真:アフロ)

RSウイルス感染症が各地で大きな流行の波を作っていることが、報道されるなか、ウイルス感染症である『咽頭結膜熱』が静かに流行してきています[1]。

[1]咽頭結膜熱の流行状況(東京都感染症情報センター)

咽頭結膜熱の流行状況(東京都感染症情報センター)より
咽頭結膜熱の流行状況(東京都感染症情報センター)より

実はそれでも、咽頭結膜熱の流行の波は例年より低めです。

しかし、RSウイルス感染症が大きく注目されるなかに、この感染症がまぎれてくることが問題です。

そこで今回は、咽頭結膜熱に関して、かんたんに解説したいと思います。

咽頭結膜熱は、『アデノウイルス』による感染症で、多くは子どもで起こる感染症です

写真:PantherMedia/イメージマート

咽頭結膜熱は、多くは子どもがかかるウイルス性のかぜの1種です[2]。

そして、その型が50種類以上もあるとされています。

その型に応じて

①扁桃炎・咽頭炎といったのどの感染症

②結膜炎などの目の感染症

③肺炎など気道の感染症

④ 胃腸炎など消化器の感染症

⑤膀胱炎など泌尿器の感染症

といった、さまざまな症状を起こします。

このうち、目の症状(結膜炎)のみなら『流行性角結膜炎(はやり目) 』、結膜炎だけでなくのどの症状(扁桃炎・咽頭炎)がある場合は『咽頭結膜熱(プール熱) 』とよばれています

そしてアデノウイルス感染症で最も多いタイプが咽頭炎で、現在流行してきているのはそのタイプです[3]。

感染してから発症するまでの潜伏期間は、アデノウイルスの型により差がありますが2~14日です[4](多くは5~10日間[2])。これは一般的なかぜよりも少し長めで、新型コロナの潜伏期間に近いですね。

咽頭炎・扁桃炎タイプのアデノウイルス感染症は、のどや扁桃腺に炎症を起こし、場合によっては扁桃腺にべったりとした膿のようなもの(白苔;はくたい)がみられるようになり、痛みがでてきます。

一般的な『かぜウイルス』による発熱は、数日以内に熱がさがることが多いのですが、アデノウイルスによる咽頭結膜熱は高熱が平均5.9日続くとされています[5]。ここがご家族がもっとも心配される点ですね。

目の症状(結膜炎)があるときには、その腫れを抑える薬や細菌感染症予防の目薬を処方することがありますが、アデノウイルスそのものに抗菌薬は効果はなく、直接効く薬はありません

もちろん、のどの炎症を起こす感染症には、他にもさまざまあります。

喉の痛みや発熱がある場合は、A群溶血性レンサ球菌(溶連菌)の場合もあり、溶連菌に対しては抗菌薬の効果があります。その確認のために、小児科に受診することをおすすめします。

[2]咽頭結膜熱について(横浜市)

[3]Pediatr Infect Dis J 1990; 9:636-41.

[4]Adenovirus Infections(AAP)

[5]Eur J Pediatr 1989; 148:423-5.

咽頭結膜熱に、どのように対応すればよいでしょう

写真:アフロ

基本的に、咽頭結膜熱の多くは自然に改善していきます

十分に休息をとり、水分を十分に摂るようにしましょう。

のどが痛くなりやすいので、熱すぎないおじやや、 柔らかい食べ物(とうふ、うどんなど)、ゼリーなどを食べさせるのが良いでしょう。場合によっては、解熱鎮痛薬で熱を一時的に下げたり、喉の痛みを和らげたりすることも考えていきます。

アデノウイルスは、くしゃみや咳で飛び散った唾液や、手や顔に付着した分泌物などが、接触することで広がっていきます。

タオルの共用はさけ、こまめな手洗いやおもちゃやその他の物は、清潔に保っておくことが大事でしょう。

咽頭結膜熱は熱が下がり結膜炎の症状がおさまってから 2日間出席停止となります。

発熱期間が長めなうえにさらに2日間が必要ですのでご家族も辛いですね…

このように感染症が同時に流行してくると、病床は逼迫してきます

写真:Paylessimages/イメージマート

連休中は、多くの救急施設は混み合うことが予想されます。

7月20日に、Twitterで小児医療に関わっておられる医療者に『小児科病床が逼迫しているか』という質問をしたところ、3分の2が逼迫しているというお答えでした

このような感染症の波をすこしでも低くするためには、感染予防策(手洗い、マスクなど)を続けながら、(アデノウイルスに対する予防接種はありませんが)接種可能な予防接種は積極的に接種しておくことが望まれます。

たとえば、10月ごろから始まるインフルエンザの予防接種なども考えていただくと助かります。

RSウイルス感染症の流行の波が収まらないまま連休に入りますが、この記事がなにかのお役にたてばと願っています。

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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