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予防接種を接種した箇所を、『揉む』『揉まない』どちらが良いですか?

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
(写真:ロイター/アフロ)

先日、集団接種会場に赴いたときのことです。

予防接種後に、接種した箇所を揉もうとする方が少なからずいらっしゃって、『揉まなくても良いですよ』と声をかける場面がありました。

接種をうけたご年配の方が、『そうなんですか?』と、やや怪訝そうな顔をされていたことが印象に残っています。

予防接種後には、揉む方がいいのでしょうか?

それとも揉まないほうがいいのでしょうか?

今回は、このテーマに関して簡単に解説したいと思います。

予防接種後に『揉む』『揉まない』で比較した、古い研究があります。

写真:アフロ

この、『揉む』『揉まない』問題に関する研究は、1995年の研究報告にさかのぼることができます。

Hsu医師らは、DPT(ジフテリア・破傷風・百日咳)ワクチンを乳児327人に摂取した後、注射部位を揉むグループと揉まないグループにわけて、接種した箇所の副反応や抗体の産生量を比較しました。

すると、摂取した箇所の痛みや発熱といった副反応は揉んだグループの方が多かったものの、抗体の産生量は高くなった(有効性が高くなったと推測される)という結果となりました(※1)。

しかし、ややこしいことに、同じ研究グループが1999年に報告した、乳児808人に対しDPTワクチン接種後に、揉むグループと揉まないグループ群にわけて比較したところ、接種した箇所の痛みや腫れなどは揉むグループの方がより多く見られ、さらには抗体の産生量に差はなかったそうです。

さらには、揉む程度が強いほど、接種した箇所の副反応が多かったという結果でした(※2)。

1990年代後半にはすでに、予防接種をしたあとに揉むことに関しては否定的な研究結果がでているということです。

(※1)Pediatr Infect Dis J 1995; 14:567-72.

(※2)Acta Paediatr Taiwan 1999; 40:166-70.

現在は、ワクチンの接種後に『揉まない』が基本になっている

写真:ロイター/アフロ

最近のガイドラインには、『以前は接種後に接種部位を揉んでいましたが、免疫獲得への影響に差がないこと、強く揉むと皮下出血をきたすことがあることから、近年はあまり推奨されていません軽く圧迫する程度にとどめておけばよいとされています』とのみ書いてあります(※3)。

『以前』は、接種時に揉むことを推奨していたようですが、現在は揉まないになったといえます。

そういえば、医師になったばかりの頃は、『揉む』と先輩医師から指導を受けたこともあったような…と思い、この記事を書くにあたり、手持ちにあった2000年の教科書をひっぱりだしてみました。

すると、『「揉む」ことを積極的に指導していた場合は、軽く「もむ」期間をおいて「揉まない」ほうへ移行するという方針でもよい。』と書かれていました(※4)。

つまり、20年以上前にはすでに過渡期になっており、揉まない方針に変わりつつある時期だったと言えそうです。

(※3)予防接種に関するQ&A2020

(※4)小児内科 2000; 32:1560-61.

ではなぜ、昔は『接種した箇所を揉む』としていたのでしょうか?

提供:RURI_BYAKU/イメージマート

柔らかい針を血管に挿入する『点滴』が一般的でなかった時代、抗菌薬が筋肉注射で使用されることもありました。

そして、いくつかの抗菌薬の添付文書には『硬結(しこり)を防ぐため、注射直後に局所を十分に揉むこと』と記載されています(※5)。

そして予防接種をするときにも、『注射部位を揉むことにより、しこりを予防したり、良い免疫獲得効果が得られたりする』と考えられ、揉むことが推奨されていたようです。

ここから先は個人的な考えもはいりますが、おそらく抗菌薬を筋肉注射していた時代、しこりを減らす目的でおこなわれていた『接種した箇所を揉む』という方法が、予防接種時にも使用されるようになったものの、実際には副反応が多くなることがわかって、現在の『揉まない』という方針に変わってきているのだと考えています。

『揉まずに、軽く押さえる程度にとどめておけばよい』ということですね。

ただし、血をサラサラにする薬を飲まれている方は、『接種後に2分間以上、しっかり押さえる』必要がありますので、気になる方はかかりつけ医に事前に相談されるとよいでしょう(※6)。

多くの会場で工夫を重ねながら接種が行われており、接種率が上がってきています。

皆さんの懸念が、よりすくなくなって、スムーズに接種が進むことを願っています。

(※5)日本医事新報 2014:60-2.

(※6)新型コロナワクチン予防接種についての説明書

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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