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新型コロナのワクチンは、アレルギーの病気を持っていると接種できないの?

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
(写真:WavebreakMedia/イメージマート)

新型コロナワクチンは、アレルギーの病気があると接種できない?

私はアレルギー専門医ということもあり、普段からアレルギーの病気を持っているお子さんを多く診療しています。そうすると、『コロナのワクチンって、アレルギーがあると打てないんですよね?私(患児の保護者さん)もアレルギーを持っているのですが、接種してはいけないんでしょうか?』という質問を受けることがあります※。

はたして、アレルギーの病気を持っていると、コロナのワクチンは接種できないのでしょうか?

決してそうではありませんので、その経緯を説明しましょう。

『アレルギーの病気』は、決して少なくありません。

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例えば食物アレルギーは、全年齢を通して1~2%程度のひとが持つと考えられていますし、それこそ、国民病ともいえるスギ花粉症は、半数近くの成人がもつ時代になってきています。

▷鼻アレルギー診療ガイドライン2020年版(改訂第9版)

食物アレルギーの診療の手引き2017

つまり、アレルギーがあると接種できないとなると、多くの方が接種できなくなってしまいます。しかし、コロナのワクチン接種における推奨は、『アレルギーの病気を持っている人が打てない』にはなっていません

『アレルギー疾患のある人への接種は見合わせ』は、すでに変更されている

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確かに、12月上旬に医療従事者2人にアナフィラキシーが認められたことから、重篤なアレルギーの病気を持っている方に対する新型コロナのワクチンの使用は、一時的に中止されていました。

Raine J. Confirmation of guidance to vaccination centres on managing allergic reactions following COVID-19 vaccination with the Pfizer/BioNTech vaccine. MHRA press release, 9 Dec 2020.

日本でもそれを受けた報道もありました。

しかし、それ以降の続報がほとんど報道されていないため、現在も『アレルギーのある人は接種できない』と思われている方もいらっしゃるようです。

しかし、英国・北米で100万回以上接種された結果、2020年12月30日にその見解が修正されました。

そこでは、重症のアレルギーがある(もしくはあった)としても、コロナのワクチンそのものに対するアレルギーや、その成分に対するアレルギーを起こしたことがない限りはワクチンの接種を妨げるものではないとされています。

Update on MHRA decision re: Pfizer COVID-19 Vaccination 30.12.20

つまり、簡単にいうと、

1) 1回目のコロナのワクチンを接種してアナフィラキシーを起こした

2) アレルギーを起こしやすいと考えられている成分(下記)でアレルギーを起こしたことがある(1回目のワクチンで明らかになるケースが多いと思われます)※※

場合に、接種を控える必要性がでてくるということであり、アレルギーの病気を持っているひとがすべて控えないといけないわけではないということです。

コロナのワクチンに含まれる成分で、アレルギーを起こしやすいものは分かっている?

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今のところ、ファイザー/ビオンテック社のワクチンに含まれているポリエチレングリコール(polyethylene glycol; PEG)が、アナフィラキシーの原因のひとつとして推測されています。そして類似した(科学的には“交差した”と表現します)成分であるポリソルベートが注意するべき成分と考えられています。

▷Br J Anaesth. 2020 Dec 17:S0007-0912(20)31009-6. doi: 10.1016/j.bja.2020.12.020. Epub ahead of print. PMID: 33386124.

つまり、過去、新型コロナのワクチン接種でアナフィラキシーを起こした方、そしてポリエチレングリコールやポリソルベートにアレルギーがある方以外は、接種可能と考えられているということです。

なお、ポリエチレングリコールは本来、安全性の高い成分であり、さまざまな医薬品にも含まれる成分です。

そもそも『アナフィラキシー』って何?『ショック』を起こすこと?

アナフィラキシーとは、『アレルゲンの侵入により、複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され、生命に危機を与えうる過敏反応』とされています。

複数臓器、というのがわかりにくいですね。

臓器、というのは体のそれぞれのパーツと考えるといいでしょう。そして、

1)皮膚(じんましん、赤くなるなど)

2)呼吸器(咳やぜいぜい、呼吸が苦しくなるなど)

3)消化器(何度も吐く、つよい腹痛など)

といった、ふたつの臓器にわたり、症状が急に広がるのがアナフィラキシーです。

さらに簡単にいうと、『とても重篤なアレルギー反応』と考えると良いでしょう。

そして、『アナフィラキシーショック』とは、『アナフィラキシーに血圧低下や意識障害を伴う場合』とされています。

たとえば、じんましんがたくさん出て、同時に呼吸が苦しくなった(=2つの臓器に症状があり、全身に広がった)場合はアナフィラキシーですが、血圧が下がったり意識状態がしっかりしていればアナフィラキシーショックではないということになります。

よく、『ショックを起こさなかったからアナフィラキシーではないですよね?』と言われる方もいらっしゃいますが、そういうわけではないということです。

コロナのワクチンで、アナフィラキシーはどれくらい起こる?

最近、ファイザー社のコロナワクチンは、189万回中21件、モデルナ社のコロナワクチンは約400万回中10人にアナフィラキシー反応があったと報告されています。

▷JAMA. 2021 Jan 21. doi: 10.1001/jama.2021.0600. Epub ahead of print. PMID: 33475702.

Allergic Reactions Including Anaphylaxis After Receipt of the First Dose of Moderna COVID-19 Vaccine — United States, December 21, 2020–January 10, 2021

そして今のところ、報告されているコロナワクチンに対するアナフィラキシーは、アドレナリンというアナフィラキシー時の薬剤など、適切な対応によって全員が回復されています。

コロナのワクチン接種後のアナフィラキシーは、頻度は高くなく、適切な処置が行われるならば比較的安全であるといえるでしょう。

これらのコロナのワクチンに対するアナフィラキシーは、大部分が30分以内、一部が数時間以内に起こっています。

ですので、接種後30分は医療機関内で、接種後しばらくは医療機関の周辺で受診できるようにしておくと、より心配が少ないと思われます。

では、コロナのワクチンのアナフィラキシーは多い方なのでしょうか?

米国のデータベースにおける、従来のワクチン接種約2500万回を検討した報告では、アナフィラキシーの発生率はワクチン 100 万回あたり 1.31回と推定されています。

▷Journal of Allergy and Clinical Immunology 2016; 137:868-78.

そして、よく使われるセファロスポリンという抗菌薬に対してのアナフィラキシーの頻度は、100万人あたり1人~1000人(幅が広いのは研究ごとに差があるからです)、解熱鎮痛剤に対するアナフィラキシーの頻度は、100万人の過去1年あたりで考えると30~500人程度ではないかと考えられています。

▷New England Journal of Medicine 2001; 345:804-9.

▷Current Treatment Options in Allergy 2017; 4:320-8.

新型コロナのワクチンには世界の注目が集まっており、その副反応の情報収集はより丁寧に行われており、『最大限の情報がひろいあげられている』可能性が高いですので、新型コロナのワクチンが、特別にアナフィラキシーが多いとはいえないでしょう。

はやめの『アドレナリン』がアナフィラキシーへの対応として重要

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アナフィラキシーショックを起こしていなくても、アナフィラキシーに対しては『アドレナリン(エピネフリン)』という筋肉注射の薬剤がはやめに使われることが望まれます。

というのも、アナフィラキシーには二相性反応といって、一旦収まったと思っても遅れてアナフィラキシーを起こす現象が知られており、はやめにアドレナリンを使用すると、その二相性反応を減らす可能性があるからです。

▷ J Allergy Clin Immunol Pract 2017;5:1194.

予防接種だけでなく多くの医薬品は、その性質上、アレルギー症状を完全に避けることはできません。そして、アナフィラキシー自体が、コロナのワクチンに限らず増えているという報告もあります。

▷ J Allergy Clin Immunol 2015; 135:956-63.e1.

ですので、アナフィラキシーに対する対応は、すべての医療機関で適切にできることが求められています

医療機関が参考にする、予防接種をするための手引きである『予防接種実施要領』では、『アナフィラキシーショックやけいれん等の重篤な副反応が見られたとしても、応急治療ができるよう、救急処置物品(血圧計、静脈路確保用品、輸液、エピネフリン・抗ヒスタミン剤・抗けいれん剤・副腎皮質ステロイド剤等の薬液、喉頭鏡、気管チューブ、蘇生バッグ等)を準備すること』と記載されています。

定期(一類疾病)の予防接種実施要領

予防接種を実施する際、『アレルギー症状に対応すること』が適切に行えるように指示がでているのですね。つまり、予防接種を実施している医療機関には、基本的にアドレナリン(エピネフリン)などの応急処置をするための物品は常備されているでしょう。

コロナのワクチンに限らず、予防接種に対するアレルギーが心配な場合にはかかりつけ医に相談してみてくださいね。

※)2021/1/24現在、16歳未満への新型コロナのワクチンは接種できません。あくまで臨床試験が16歳以上で実施されていたからであり、必ずしも16歳未満だから危険という意味ではありません。

※※)2021/1/24 18時 表現を修正しました。

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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