Yahoo!ニュース

子どもはプールに入って大丈夫? アトピー性皮膚炎や喘息に良いか悪いか解説

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
(写真:アフロ)

最近、夏にしては涼しい気候が続いていますが、もう少しすれば夏本番になってきます。

そして夏になると、アトピー性皮膚炎や気管支喘息があるお子さんの保護者さんから、「プールには塩素が入っているし、消毒になってアトピーにはいいのでは?」「スイミングは喘息にいいんですよね?」という質問を良くお聞きします。

さて、アトピー性皮膚炎や気管支喘息がある場合、プールにはいることは良いのでしょうか?悪いのでしょうか?

最近の研究結果から考えてみましょう。

アトピー性皮膚炎に、プールは悪化要因になりますか?

出典:イラストAC
出典:イラストAC

アトピー性皮膚炎のお子さんがスイミングをすると皮膚が痛んでしまう可能性は確かにあります。

たとえば、幼稚園30施設の5歳~6歳の358人について検討すると、アトピー性皮膚炎がある状態で水泳をした場合にはアトピー性皮膚炎の有病率が2.72倍上昇したと報告されています(※1)。

(※1) Chaumont A, et al. Environmental research 2012; 116: 52-7.

そしてこの報告では、プールの水に含まれている塩素の化合物が皮膚を傷つけるのではないかと推測されています。

すなわちアトピー性皮膚炎がある場合、プールは悪化要因になるといえるでしょう。

さらにプールの水は、塩素以外にも多くの化学成分や汚染物質を含んでいます(※2)。

(※2) Richardson SD, et al. Environmental health perspectives 2010; 118(11): 1523-30.

これらも、アトピー性皮膚炎に悪い作用があると考えられます。

このような報告から考えると、アトピー性皮膚炎が悪化している時にプールに入ることには注意を要しますし、場合によってはプール参加を制限したほうが良いかもしれないといえるでしょう。

アトピー性皮膚炎があったらプールは禁止なのでしょうか?

出典:イラストAC
出典:イラストAC

では、アトピー性皮膚炎がある場合、プールは禁止なのでしょうか?

いえいえ、アトピー性皮膚炎の多くは治療により改善させることができます。

私は、「皮膚状態が安定すればプール参加も可能となりますから、スキンケアを頑張っていきましょう」と説明しています。

そしてアトピー性皮膚炎は皮膚のバリア機能が下がる病気です。

ですので、皮膚を安定させたうえで塩素や汚染されているプールの水をシャワーで十分洗い流す、プール前・後に保湿剤を塗布するなどの対策をしておくと、さらに良いと考えられます。

ただし、その場合、何を塗ると良いのかはよくわかっていません。

とはいえ、ローションタイプや化粧水タイプの(塗りやすい)保湿剤を事前に塗ってもプールに入ると簡単に流れてしまいますね。

ですので、油タイプの保湿剤の方がプール前の皮膚のガードには向いていると思います。

例えばワセリンは、皮膚の抗菌作用とバリア機能を改善させるという報告があります(※4)。

(※4) Czarnowicki T, et al. J Allergy Clin Immunol 2016; 137:1091-102.e1-7.

ですので、私は基本的には「プール前」にはワセリンの塗布を勧めています。

もちろん、「プール後」は水で流れてしまいませんから保湿剤は塗りやすいもので(ローションタイプや化粧水タイプでも)良いでしょう。

喘息に対するスイミングの影響はどうでしょう?

出典:イラストAC
出典:イラストAC

では、スイミングと気管支喘息の関係はどうでしょう?

一般には、「スイミングは喘息を改善させる」と考えている保護者さんが多いように思います。

でも実はその点に関しては、「良い」という研究結果も、「悪い」という研究結果も両方あるのです。

例えば、ランダム化比較試験という質の高い研究8研究(5歳から18歳の喘息患者262名)をまとめた研究では、スイミングは、運動能力や肺機能を有意に改善したと報告しています(※5)。

(※5) Beggs S. J Evid Based Med 2013; 6:199.

一方で、頻回の水泳は喘息に悪影響かもしれないという報告もあります。

例えば、10種類の吸入アレルゲン(ダニやカビやペットの毛といったアレルゲン)に対する皮膚プリックテスト(アレルギーの検査)を行った11歳から12歳の子ども1652名に対する研究をご紹介しましょう。

この研究では、プールへの参加が週に平均して1回以上の子どもと、プールへの参加が平均して週1回未満の子どもで喘息の重症度を比較しました。

すると、吸入アレルゲンに対しアレルギーがある(感作されている)子どもは、屋内プールでのスイミングに参加すると喘息のリスクが上昇したそうです(※6)。

(※6) Andersson M, et al., Environ Health 2015; 14:37.

「アレルギー体質のある子ども」では、喘息の悪化に繋がる可能性があるということですね。

一般に、喘息のある子どもさんは、ダニなどの吸入アレルゲンに感作されている(アレルギーの値があがる)ことが多いですから、すこし心配ですね。

これらの研究結果を見てみると、プールやスイミングが、喘息に「良い」とする報告も「悪い」とする報告もあるということで困ってしまいます。

屋内プールでのスイミングと喘息の関係をまとめた報告の結果は?

出典:写真AC
出典:写真AC

こういった両方の結果があり結論が出しにくい場合、「研究結果をまとめて」検討されるケースがあります(メタアナリシスという証拠レベルが高い研究手法です)。

そして最近、小児期の屋内プールの消毒薬にさらされることと喘息の関係をみた5851人に対する7研究のメタアナリシスが報告されました。

すると、スイミングへの参加と喘息の有病率に有意差はないという結果でした(※7)。

スイミングと喘息は全体で眺めると関係はなさそうということですね。

(※7)Valeriani F, et al. Pediatrics international 2017; 59:614-21.

このメタアナリシスでは、プールの塩素濃度が気管支喘息への影響に差をもたらしている可能性があるものの、塩素濃度を全ての研究で測定されていないということが研究の限界だったとされています。

すなわち、プールの塩素濃度によっては良い結果になるか悪い結果になるか予想できません、ということです。

プールとアトピー性皮膚炎・気管支喘息の関係をまとめると?

出典:イラストAC
出典:イラストAC

結局、スイミングがアトピー性皮膚炎や気管支喘息に影響するかどうか?という疑問に対して、まだまだはっきりしたことを言える研究は出そろっていないようです。

しかし、アトピー性皮膚炎に関しては「悪化時には控えた方が良いが、しっかり治療して安定したらプールは可能」「可能であればプール前後にスキンケアをした方が良い」とまとめられそうです。

そして気管支喘息に関しては、「塩素の濃度に応じて悪化する可能性が指摘されているものの、”良いとも悪いともいえない”」と言えそうです。

それぞれきちんと治療に向かうことでプールに行くことは可能といえると私は考えています。

ですので、今のうちにアトピー性皮膚炎や喘息の治療をしっかりおこなって、楽しい夏休みを迎えてくださいね。

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

堀向健太の最近の記事