【国民審査】投票前に確認「罷免したい裁判官とそうでない裁判官」元最高裁判事が語る舞台裏とは?

対象の裁判官は7名 関わった判決は?(TOKYOMXモーニングCROSSより)

衆院選の投開票日まで残り二日。今朝、私がキャスターを担当するTOKYOMX「モーニングCROSS」では、もう一つの国民のジャッジ「最高裁 国民審査」に着目し、対象となる7名の裁判官がこれまでにどのような判決に関わってきたのかを分析しました。

さらに、元最高裁判事の濱田邦夫さんにインタビュー。最高裁は時の政権に対して「忖度」を働かせることなどはあるのか、国民審査の結果は裁判官にどのような影響を与えるのかなどその舞台裏を聞きました。投票所に行く前にぜひ一度読んでみてください。そんなに長い文章ではありません。番組での説明を元にこちらであらためてみなさんと情報を共有しておきます。

■最高裁判所 国民審査とはどのような制度か

画像提供:TOKYOMX「モーニングCROSS」
画像提供:TOKYOMX「モーニングCROSS」

最高裁国民審査は、明後日の衆院選の投開票と同じ日・同じ場所で、私たち有権者が投票する重要な制度です。しかしみなさんは国民審査とはどのような制度なのかご存知でしょうか。

最高裁の裁判官は全部で15人います。その構成は、次の通りです。

最高裁の裁判官は必ずしも裁判官としてキャリアを積み上げてきた人とは限りません
最高裁の裁判官は必ずしも裁判官としてキャリアを積み上げてきた人とは限りません

15名のうち、前職が裁判官だった人の枠が6名、前職が弁護士だった人の枠が4名、そのほか官僚や検察官、学者出身の枠として5名、というのが最高裁判所裁判官の構成です。裁判官としてキャリアを積み上げてきた人たちばかりではないのですね。

最高裁判所長官は内閣が指名し、天皇が任命。そのほか14名の判事は最高裁判所長官が裁判官を人選し、その人を内閣が任命しています。

画像

「国民審査」とは、その任命された最高裁の裁判官が職責にふさわしいか、有権者が投票で審査する制度です。

対象は前回の衆院選以降の新任者で、10年毎に再任審査を行います。

実際の投票方法は▼辞めさせたい裁判官がいれば指名の上に「×」を記載します。▼何も記入しない場合は「信任」とみなされます。信任だからといって「○」を記入したりすると無効になります。総務省の説明によると「投票用紙に「×」以外の事項を記載した投票は無効」となるといいます。▼過半数以上の「×」が付くと罷免、つまりその裁判官はクビになるという制度です。

過去23回の国民審査で実際に罷免された(クビになった)裁判官はいません。しかし、私たちにとってこれはとても重要な制度であることには変わりありません。

画像

最高裁は、司法の最終判断を担い、その判例が地裁や高裁に大きな影響を与えます。裁判官は内閣によって任命されますので、内閣に都合の良い人選が行われる可能性も決して否定できません。つまり、最高裁「国民審査」は私たちが、最高裁の裁判官を唯一、罷免(ジャッジ)できる重要な制度です。

では、実際に「最高裁による内閣への忖度」などはこれまであったのでしょうか。

■時の内閣に対する「忖度」はあるのか 元最高裁判事が語る

画像

2001年から2006年までの5年間、最高裁判事をつとめた弁護士の濱田邦夫さんはこう指摘します。

Q.

時の内閣から裁判官は任命されます。実際に判決に対して忖度はあるのでしょうか。

A.

それが、非常に有名な今回の安保法制でも問題になった「砂川判決」という、米軍の日本への駐留が憲法違反かどうかという問題にあたって、時の最高裁長官の田中耕太郎という大変有名な立派な法学者で、私もかつては尊敬をしていたのですが、彼がアメリカの大使と密かに打ち合わせをして「違憲判決を書かないようにします」という大変なスキャンダルがありました。そういうことが、何十年も経ってからわかったことですが、例えば現に進行している裁判について(仮にこうした事件が)発覚するということがあれば、国民審査にチェック機能が出てくる可能性はありますよね。

Q.

濱田さんが最高裁の裁判官をされていた頃に行政からの無言の圧力を感じることはありましたか?

A.

私が5年つとめた間では、そういったことはありませんでした。ただ一つ、光華寮事件というのがありまして、京都にある台湾や中国人の学生が利用する学生寮の帰属(所有権)が、台湾と中国本土のどちらにあるのか争われた事件で、それについては長いこと判決が出ませんでした。

日本では三権分立で行政府、立法府、司法府は独立しているのですが、中国政府からすると裁判所というのは共産党の下にあると。裁判所が独自に判断したとしても日本政府の判断ととられるということもあり、にわかに判断をしづらいというのがあり、私の在任中は判決が出ませんでした。

それは政府から何かを言われるということではなく、まさに最高裁の裁判官の方で、政治的な、国際的な影響を考えて忖度の問題ですよね。それに対して時の政府から何か言われてというのはありませんでした。裁判所の方も司法部の判決が国際的な関係にどのような影響を与えるのか考慮するということはありえます。

忖度というのは日本の司法は強いのではないかという説を述べる専門家もいます。アメリカのようにはっきりと「憲法に違反する」と堂々といろいろなレベルの裁判官が意思表示するのは少ないというのは残念です。やめた元裁判官として現役の裁判官に対してあれやこれや言う立場にはありませんが、日本国民、一市民という立場から言うと、裁判所には三権分立の役割をしっかりと果たして欲しいというのはあります。

■今回の国民審査「罷免したい裁判官、信任したい裁判官」とは

今回私達がジャッジする裁判官の方々は7人。それぞれどのような判決に関わってきた人物なのか表にまとめました。まず3人です。

画像

元東京高裁長官の小池裕裁判官(66)は、「第4次厚木基地騒音」訴訟で飛行機差し止めを「認めない」、つまり自衛隊機の飛行を可能と判決した裁判長です。

この判決については、モーニングCROSSのコメンテータとしてもお馴染みの、田上嘉一弁護士が記事にしています。昭和51年に第一次訴訟の提訴がなされてからちょうど40年。これほどの長きに渡って法廷闘争が続けられてきましたが、結果的に東京高裁が認めた自衛隊機の運航差止め認容を覆すという、原告側の逆転敗訴判決となった裁判でした。(Yahoo!ニュース個人「厚木基地訴訟から考える司法の役割とは」

元東京高裁長官の戸倉三郎裁判官(63)は、「一票の格差」を合憲とした多数意見に賛成しています。

この裁判は「一票の格差」が最大3.08倍だった去年7月の参院選を巡って、二つの弁護士グループが選挙無効を求めた訴訟で、最高裁は「合憲」との統一判断を示しました。最高裁は2010年、13年と最近2回の参院選を「違憲状態」と判断しており、合憲判断は2017年選挙以来となるものでした。毎日新聞の記事が今でも読めますのでリンクを貼っておきます。

元弁護士の山口厚裁判官(63)は、捜査対象者の車にGPSを付ける捜査手法について、「令状がなければ違法」と判決を下した裁判に関わっています。

令状なしのGPS捜査について初めて最高裁が判断したもので、判決では「プライバシーを侵害し、令状が必要な強制捜査にあたる」と認定。現行の刑事訴訟法の令状で行うことには疑義があるとして「新たな立法措置が望ましい」と指摘しました。当時、テロ等準備罪(共謀罪)の議論などともあいまって、警察による捜査権をどこまで拡大させるのかに注目が集まっていたこともあり、私たちのニュース番組でも大きく取り扱った判決でした。

続いて4名です。

この画像では菅野氏の読み仮名が(すがの)になっていますが正しくは(かんの)です。
この画像では菅野氏の読み仮名が(すがの)になっていますが正しくは(かんの)です。

元大阪高裁長官の菅野博之裁判官(56)は、普天間・辺野古飛行場移転問題を巡り、「翁長知事の埋め立て承認取り消し」を「違法」とした判決に関わっています。この判決で国を訴えた沖縄県側の敗訴が確定。沖縄県の翁長知事による埋立ての承認取り消しは「問題のない前知事の承認を、違法として取り消したもので違法だ」と結論づけています。

※読み仮名は(かんのひろゆき)です。画像の(すがの)は誤りです。

元大阪高裁長官の大谷直人裁判官(65)は、森友問題で、学園側と財務省との交渉記録の証拠保全を求めた裁判で「棄却」とした判決に関わっています。

この裁判はNPO法人「情報公開クリアリングハウス」が「交渉記録の電子データがパソコンなどに保存されている可能性がある」として保全を申し立てたものです。時事通信によると、東京地裁は目的物が特定されておらず不適法と判断。その後、対象データの日付を限定しましたが、東京高裁は「交渉記録と選別できる指標が示されたとは言えない」と退け、最高裁もこれに続きました。

元法務省の人権擁護委員の木沢克之裁判官(66)は、学校や病院近くの風俗店の営業を禁じた京都府の条例について「合憲」とした判決の裁判長です。

この裁判は去年の12月に判決が出ました。当時の毎日新聞の記事が詳報しています。

元内閣官房副長官補の林景一裁判官(66)は、「一票の格差」を合憲とした判決に同意した裁判官です。ただし「合憲ではあるが、多数意見が言うように違憲状態と言うのには、ためらいがある」とかなり控えめに“違憲”側に配慮した補足をしています。

最高裁判所裁判官国民審査公報」には、事細かく、各裁判官について「どんな判決を下したか」などが書かれています。一度、見てみて下さい。

■今まで「罷免はゼロ」国民審査の結果は裁判官に影響を与えるのか?

国民審査による結果は、各裁判官にどのような影響を与えるのでしょうか。元最高裁判事の濱田弁護士はこう語っています。

Q.

国民審査をご自身もお受けになった。いかがでしたか?

A.

小さなことですけどリストの並べ方、これはあいうえお順などではなく、くじで決めるのですが、一番最初のトップに来た人が罰をつけられやすいという統計的な傾向があったりしますものですから「一番でなくてよかった」という裁判官の間でのジョークもありました。

やはり国民との少ない貴重な接点という意味で真剣に自分の職責、裁判というものに対する基本的な考え方、国民と向き合う場ということで真剣に対処しようという心構えでやりました。

Q.

審査の結果によってバツが多いと、今後の裁判の心情にも影響がありますか?

A.

今まではないですよ。理論的にはありうるでしょうけど、個人の良心に従って裁判をすることになっていますので。ただし、将来の問題として、こういうことが起きると困りますけど、時の内閣の意向に沿ったような形で司法の運営がなされるような極端な評決をする人が出てきた場合には、(国民の側で)チェックできる可能性がある。そういう意味ではポテンシャルがある、いい制度だと思います。

明後日22日は衆院選の投開票日、そして国民審査の投票日です。期日前投票とあわせてぜひ皆さんの意思でジャッジをしてもらえたらと思っています。

私も当日夜7時58分からTOKYOMX「選挙CROSS」のキャスターを担当します。一緒に私たちの国の今と未来を考えていきましょう!