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映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』を観てSaaS事業のヒントを得た話。

小川浩株式会社リボルバーCEO兼ファウンダー。
ハンバーガーチェーンの雄、マクドナルド(写真:ロイター/アフロ)

しばらく前にマクドナルド・ハンバーガーチェーンの”創業者”レイ・クロックの自伝的映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』を観ました。起業家あるいは経営者なら是非見るべき映画ですが、同時に、ファストフードというビジネスモデルが成熟し、成立していく様を丹念に描いた傑作でもあります。

ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ

主人公であり、実在のマクドナルドの”ファウンダー”であるレイ・クロックは、多くの事業を手がけては、それなりの成功をおさめ、不自由のない暮らしをしていましたが、”それなり”・”そこそこ”ではなく、正真正銘の”大成功”を手に入れるという野望を捨て切れず、新しい商機を見つけては手を出し、また撤退する、というループの中で喘いでいました。

はたから見れば裕福な暮らしを享受しているようにみえても決して満足しないレイ・クロックは、52歳の時、あるハンバーガーショップを経営する二人の兄弟との運命的な出会いを果たします。その兄弟こそ、注文から30秒で商品を提供するという超効率的厨房システムを考案したマクドナルド・ハンバーガーの創始者マクドナルド兄弟でした。

レイ・クロックはマクドナルド兄弟を口説き落としてフランチャイズする権利を得ます。そして全米にフランチャイズチェーンを広げ、世界最大のハンバーガーチェーン”マクドナルド帝国”を作り上げていきます。その間にマクドナルド兄弟を追い出し、事業そのものを簒奪する冷酷さを見せるのですが、その是非はここでは問いません。

注文を受けてから30秒でハンバーガーを提供するという効率的な厨房≒生産システムを作ると同時に、あまり売れていない商品を売るのをやめて極度に商品点数を絞ったり、ナイフやフォークといったカトラリーを廃して紙で包んだバーガーを手で食べさせるといった手法を生み出すことで、とにかく徹底して合理的かつシンプルなハンバーガーショップを作ったのは確かにマクドナルド兄弟でした。しかし、マクドナルド兄弟は、そのシステムをスケールさせ、全米に広げることができるとは夢にも思わなかった。

実際、マクドナルド兄弟がその画期的な厨房を見せたのはレイ・クロックだけではなく、中にはすっかりパクって別のハンバーガーショップを作った食わせ者も結構いたそうですが、彼らはことごとく失敗したと言います。

レイ・クロックがフランチャイズする過程でも、多くの店舗は勝手に商品を増やしたり、ナイフやフォークを提供してしまったりと、(ファストフードの概念にまだ慣れていない)お客様の要望に応えようとするあまりに効率的でシンプルなシステムを破綻させてしまうことがよくありました。効率的なシステムを維持するためには、どんなことがあってもルールを徹底しなければなりませんが、人は時として目先の利益や人情に流され、ついルールを破ってしまう。それをマクドナルド兄弟はよく知っていたのです。

しかし、その難しさに敢えて挑戦し、スケールさせたのは他ならぬレイ・クロックでした。30秒で商品を提供する効率的なシステムを全米各地で再現し、スケールさせることを同時に成立させることこそが、ファストフードの本義なのです。その意味で言えば、ファストフードの原点を作ったのはマクドナルド兄弟ですが、完成させたのはレイ・クロック。つまりレイ・クロックこそが、マクドナルド・ハンバーガーチェーンの創業者=ファウンダーである、と言えるのです。

(ちなみに、レイ・クロックは自分の成功を、マクドナルドという名前=ブランドそのものにあると考えていた、という描写が映画の中にあります)

ファスト●●と名付けられたビジネスモデルは、ファストフード、ファストファッションが有名ですが、それら全てに共通して言えることは、

01. 最新の流行を採り入れている。

02. 低価格に抑えている。

03. 短期間(短いサイクル)で大量生産(=スケール)できる

という3つの要素が必要ということです。ファストフードでいえば、美味しくて、安くて、フランチャイズできることが大事だし、ファストファッションでいえばオシャレで安くて世界中で買えることが大事です。

『ファウンダー』という映画は、レイ・クロックの冷酷なまでの執念を中心に描いていますが、ファストビジネスがなんであるかをきっちり教えてくれる、という意味で、良い教科書になる映画です。

ファストマーテク(ファストマーケティングテクノロジー)とは?

さて。

僕はいまリボルバーというベンチャーを経営しているのですが、この「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」という映画を観たことで、自分の事業においてとても重要なヒントを得ることができました。

僕たちはファストフードに対して、ファストマーケティングテクノロジー、ファストマーテクというべき存在を目指すべきだという考え方です。

ファストマーテクというのは、最先端のマーケティング戦略を実現するテクノロジーをリーズナブルなコストで提供し、迅速かつ継続的に機能をやすみなくアップデートしていくことであり、マーケティングテクノロジーをサービスとして提供し続けることです。つまり、SaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)でなければなりません。

マクドナルドはハンバーガーにフォーカスしたファストフードですが、リボルバーはコンテンツマーケティングにフォーカスしています。

コンテンツマーケティングとは、読者(オーディエンス)にとって有益なコンテンツを作り、それを伝達することによって、ファンとの関係性を作り上げること。そしてその関係性を維持することによって最終的には利益に結びつく行動を促すことを目的としたマーケティングです。

コンテンツマーケティングの命はコンテンツですが、そのコンテンツを再利用可能な形で蓄積するために、オウンドメディア(≒自社運営のWebメディア)を必要とする場合が多く、そのための必須マーテクとしてCMS(コンテンツマネジメントシステム)と呼ばれるソフトウェアの選定からスタートすることが多くなります。

そこでリボルバーは、CMSを中心としたマーテク(dino と名付けました)を開発したのです。

ここまでなら、当社はコンテンツマーケティングを軸としたマーテク企業であっても、ファストマーテクを名乗るわけにはいかないのですが、dinoは100%ピュアなSaaSであり、お客様は当社とご契約いただければ、サーバーを用意する必要も新たにネットワークサービス(例えばデータセンター)と契約する必要もありません。CMSを利用するには、メディアの構築から運営まで、高いITスキルを持つ人を雇う必要がでてきますが、dinoはそうしたスキルの持ち主は不要です。誰でも簡単に運用できるよう、シンプルで使い勝手が良いインターフェイスと機能を揃えているのです。

逆に言えば、誰もが使えて、拡張性があって、どこまでもシンプルで簡単でなければ、ファストなCMSとは言えない、と我々は考えているのです。

ファスト(フード, ファッション, マーテク)。相違点は?

ファストフードのパイオニアであるマクドナルドは、”注文を受けてから30秒で商品を出す(Efficiency)” x "全米に同じビジネスモデルを拡大させる(Scalability)"を両立させました。

ファストファッションの代表格であるZARAは、"世界的なファッション業界の流行を取り入れ迅速に商品化する(Efficiency)" x "手頃な価格で大量に販売する(Scalability)"を両立させました。

ファストマーテクも同様で、”世界的なマーケティング・プロモーション・広告業界の流行を取り入れ迅速に技術化する(Efficiency)”と"手頃な価格で大量に販売する(Scalability)"を両立させねばなりません。

それには、トレンドをいち早くキャッチするトレンドセッターとしてのセンスと、それらの流行を型紙に落とし込む、速い製造工程が必要です。

ファストマーテクを実現するには、マーケティングの在り方を常にウォッチして、それらをパッケージ化していち早く提案するための開発体制がなくてはならないのです。同時に、作った開発物をプラットフォームとしてSaaSで提供できるようにしなければ、低価格を担保できないことになります。

つまり、ファストマーテクには、非常に速く新しいマーケティングテクノロジーを取り入れて製品化していくエンジニアリングチームとクリエイティブチームが不可欠になるのです。

そうしたリソースの考え方においては、ファスト(フード, ファッション, マーテク)に差はないかもしれません。しかし、最大の相違点は、ファストフード、ファストファッションはB2C(消費者向けビジネス)であるのに対して、ファストマーテクはB2B(企業向けビジネス)である、ということです。

クライアントは企業であり、常に時代に合ったマーケティングやプロモーションをしたいと考えています。そのクライアントに最適な、トレンドに即してキャッチーなマーテクと その利用方法を戦略・戦術として提案していくのが、ファストマーテク企業になると考えています。

株式会社リボルバーCEO兼ファウンダー。

複数のスタートアップを手がけてきた生粋のシリアルアントレプレナーが、徒然なるままに最新のテクノロジーやカッティングエッジなサービスなどについて語ります。

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