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K-POPの方程式にならうマーケティング

小川浩株式会社リボルバーCEO兼ファウンダー。
アメリカ ビルボード200チャートで初登場1位韓国史上初の快挙を果たしたBTS(写真:ロイター/アフロ)

韓国では、音楽や映画などのエンターテインメントコンテンツを大きな輸出産業として戦略的に育て上げており、大きな成果を生んでいます。特に音楽は独特の手法で急速にグローバル化され、K-POPとして一つのジャンルとして世界中で認知されつつあります。

Netflixのオリジナル作品(動画メディアVox制作)の「世界の”今”をダイジェスト」はさまざまな社会現象を幅広く取り上げる20分程度の短めの動画でまとめるニュース番組ですが、その中でいまや世界中の若者を熱狂させているK-POPの歴史と成長の方程式をわかりやすくまとめてくれています。

Netflixの「世界の”今”をダイジェスト」

世界中の若者を熱狂させるK-POPとは

K-POP(韓国の流行音楽)という言葉と、J-POP(日本の流行音楽)という言葉が、どちらが先に生まれたものなのか、寡聞にして僕は知りません。しかし、比較するならば、いまやK-POPは世界市場で通じ、J-POPは日本国内にのみ通じる非常なガラパゴスな呼称になってきている、と僕は思います。

どちらのクオリティが高いか、ということではなく、産業としての志が全くもって異なっている、そういう違いであるともいえます。最初から世界を狙っているか、いないか、というスタートからの違いは、実に大きいのです。

”今の”K-POPは、基本的に

・アイドル性が高く、非常にヴィジュアルがいい。男性はみな背が高くいわゆる細マッチョ系だし、女性たちもスタイルがよくセクシー系とキュート系をうまく分けている。

・オーディションで選別した特別な素材を、数年かけてトレーニングしてからデビューさせている。だから歌もダンスもとてもうまい。

・MVにとてもお金をかけていてゴージャス。YouTubeなどの動画市場をプロモーションの場として強く認識している。

という特徴がありますね。

韓国の音楽といえば、昔は「釜山港へ帰れ」で有名なチョー・ヨンピルさんに代表されるように、叙情的・演歌的な楽曲が多かったわけですが、いまのK-POPはそれとは全く違っていて、非常に優れたビジュアルとダンサブルな楽曲で、要はポップ・ミュージックそのものです。

Netflixの「世界の”今”をダイジェスト」によれば、K-POPの音楽的特徴の一つは、ヒップホップやEDMなどその都度トレンドとなっているさまざまな曲調を1曲の中に巧みに取り入れているマッシュアップ的な作りなのだそうです。実に商業的かつ大衆的で、芸術性に乏しいとも言えるかもですが、売れたもの勝ちだし、アンディ・ウォーホル以来ポップアートは大量消費されてなんぼです。

また、グループ名はハングル語でしか通じないネーミングではなく、英語ベースで世界中どこでも覚えてもらいやすい形にどんどん変化していると言います。

例えば「少女時代」は国内ではソニョシデ=少女時代のハングル読み、日本向けには少女時代、世界的にはGirls' Generation(ガールズ・ジェネレーション)というように使い分けていました。彼女たちのメインターゲットは(世界で見て奇跡的にCDがまだ売れていた頃の)日本市場だったから、そういうスタイルになったのでしょう。最近でも低迷する日本市場以上に米国や中国(を含むアジア圏)を狙って、漢字と英語を両方持つグループも少なくないですね。

最新アルバム『LOVE YOURSELF 轉'Tear'』でアメリカ ビルボード200チャートで初登場1位を獲得して、韓国人アーティスト史上初の快挙を果たしたBTSも、防弾少年団という漢字名を持っています。

Netflixの「世界の”今”をダイジェスト」はさらに、彼らの楽曲が巧みに英語の歌詞を取り入れているし、そもそも英語や日本語などへの翻訳バージョンも同時に出すなど、海外進出を頭にいれたスタイルを徹底していると説明します。

その結果、いまではK-POPは世界中の若者を熱狂させ、巨大な産業へと変貌しているのです。

かつて10代の若者の占有物だったアイドル文化はその後、2000年代にアイドル育成システムが定着。大手芸能プロダクションによるビジネス化を経て、韓流ブームをけん引する文化コンテンツに成長した。

 韓国コンテンツ振興院の統計によると、韓国音楽産業の市場規模は2005年の売上高約1兆8000億ウォン(2018年6月現在のレートで1,825億円)から15年には約4兆8000億ウォン(同・4,868億円)に増加した。

(筆者注:円建ての計算は執筆時点でのレートで換算)

出典:japanese.yonhapnews.co.kr

BTS

BTS公式サイト

ターゲット市場別に最適化されたメンバー構成

最近日本国内でも大ブレイクを果たしたK-POPグループといえば、TWICEでしょうか。

彼女たちの代表曲の一つ「TT」は、インスタグラムで流行った下を指差すようなポーズ(=悲しい気分を示す(T T)をかたどったもの)をうまく歌詞と歌名に取り入れたもの。実に今っぽい。

YouTubeやInstagram、Twitterを巧みに利用するだけでなく、ソーシャル上でバズるトレンドをすぐさまコンテンツ化する。最初からそうしよう、と狙っているからこそタイムラグなしに取り入れられるのです。このスタイルがK-POPの凄さの一端であると僕は思います。

TT by TWICE

さらに彼女たちの特徴は、オーディション番組で選抜された9人のメンバーのうち、5人は韓国人、3人は日本人、1人台湾人というアジア多国籍軍スタイルであるということ。

この方程式は、ターゲットとする市場進出を助けるものとして、他のグループでも適用されていて、クールなダンスと激しいラップで人気を博すガールズバンド BLACKPINKでも、4人の美女のうち金髪のLISAはタイ出身、さらに残りの3人は韓国系とはいえウチ1人はオーストラリア出身です。

日本でもモーニング娘。が中国籍の女の子をメンバーとしていたように記憶しますが、K-POPのそれとは違って、長期的な戦略眼で徹底する、というところまではいってないように思います。

同じことであっても、ちょっとやってみようというのと、徹底してみようというのはやはり大きく違うのはないでしょうか。

BLACKPINK

K-POPは音楽業界のファストファッション?

結論ですが、「世界の”今”をダイジェスト」で紹介された”K-POP”は、ファストファッション的なムーブメントなのだと僕は思っています。

それはポップアートに通じる、大量消費に対応するため大量生産できるメソッドを持つものです。一過性なトレンドでいいからとにかくキャッチーで”今”を感じさせる”ファッション”をタイムラグなく提供する。タイムレスな傑作を作る必要はなく、今売れればいい、10年後の価値なんてどうでもいい、どうせ流行なんて変わっちゃうんだから、と割り切って作る。それがK-POPの方程式なのだと僕は思います。

つまりは、K-POPのような考え方を適用することが、マーケティングの世界においても重要なのかな、そんなふうに考えている次第です。

株式会社リボルバーCEO兼ファウンダー。

複数のスタートアップを手がけてきた生粋のシリアルアントレプレナーが、徒然なるままに最新のテクノロジーやカッティングエッジなサービスなどについて語ります。

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