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大雪など荒天時は特に過信厳禁! 「自動ブレーキ」が作動しない原因とは?

平塚直樹自動車ライター
衝突軽減ブレーキなど先進安全装備は荒天時に作動しない時もある(写真:写真AC)

先進安全装備が作動しない時と予防法

今シーズンの冬は特に寒く、2022年1月には東京でも4年ぶりに大雪が降りましたよね。暦の上ではもう春ですが、まだまだ大型寒波の到来などは続くようで、2月に入っても油断はできないようです。

そんな中、クルマの多くに搭載されるようになった、いわゆる「自動ブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)」などの先進安全装備は、大雪など荒天時にはきちんと作動しない場合もあることをご存じでしょうか? 

雪国のドライバーであれば、そんな経験をした人も多いかもしれません。一方、あまり雪が降らない大都市圏などのドライバーの場合、大雪が降った時にシステムを信用し過ぎて運転をすると、思わぬ事故を招くこともあるので注意が必要です。

そこで、ここでは、実際に筆者が経験した事例も交えながら、先進安全装備が作動しないことがある状況や原因、対処や予防法などを紹介しましょう。

衝突軽減ブレーキには作動する速度域がある

ご存じの方も多いと思いますが、自動ブレーキとか衝突被害軽減ブレーキと呼ばれる機能は、車載のカメラやセンサーを使って、他車や歩行者、障害物などを検知し、衝突する危険がある場合には、まず音や警告灯などでドライバーに注意を喚起。

それでもブレーキ操作などの回避操作がない場合には、自動でブレーキが作動して、衝突による被害を軽減する装置です。

衝突被害軽減ブレーキは、車載のカメラやセンサーで他車や歩行者などを検知し、衝突の恐れがある場合に作動する(画像はイメージ 写真:写真AC)
衝突被害軽減ブレーキは、車載のカメラやセンサーで他車や歩行者などを検知し、衝突の恐れがある場合に作動する(画像はイメージ 写真:写真AC)

一般的には、よく自動ブレーキと呼ばれますが、最近、自動車メーカーなどでは「自動」という言葉は使わず、衝突被害軽減ブレーキとか、衝突軽減ブレーキと呼んでいます。

なぜなら、このシステムは、完全に自分で動く「自動運転車」のような機能ではないため。あくまで、ドライバーが衝突の回避や被害の軽減を行うことを支援するもので、一定の条件が揃わないと作動しないからです。

例えば、システムが作動する場合の速度域なども、メーカーや車種によって違います。筆者は、2021年8月にホンダの軽商用バン「N-VAN」を購入したのですが、このクルマの場合、独自の予防安全装備「ホンダセンシング」が標準装備されており、合計10もの機能が搭載されています。

筆者が乗るホンダ・N-VAN(筆者撮影)
筆者が乗るホンダ・N-VAN(筆者撮影)

それらのうち、ホンダが「CMBS」と呼ぶ衝突軽減ブレーキは、クルマの速度が約5km/h以上になるとカメラやセンサーが検知を開始。自車との速度差が約5km/h以上ある車両や歩行者と衝突の恐れがあるときに作動します。

また、対向車、停止車両、歩行者に対しては、速度が100km/h以下で走行中のときに、衝突の恐れがある場合に作動するようになっています。

つまり、「5km/h以上で100km/h以下」の速度でないと作動しないようになっているのです。

ホンダのCMBS作動イメージ(ホンダ・ヴェゼルの場合 写真:本田技研工業)
ホンダのCMBS作動イメージ(ホンダ・ヴェゼルの場合 写真:本田技研工業)

もちろん、別の機能で、高齢ドライバーなどの重大事故が社会問題となっている、いわゆる「ペダル踏み間違い」にも対応しています。

こちらは、「誤発進抑制機能」や「後方誤発進抑制機能」というもので、停車時や約10km/h以下で走行中の不注意や操作ミスに対応。車のほぼ真正面、またはほぼ真後ろの近距離に障害物があるにもかかわらず、アクセルを踏み込んだことで衝突の恐れがある場合に、エンジンの出力を抑制し、急発進を抑制します。

このように、先進安全機能は、同一車種でも機能によって作動する速度などに違いがあるのです。

また、先述したように、メーカーや車種によっても変わってきます。自分の愛車に装備されている機能は、どんな条件下できちんと動くのか、取り扱い説明書などで事前に知っておく必要があるのです。

大雪時に体験した機能の不作動

さらに、やはり前述の通り、大雪など悪天候時にも作動しないことがあります。以下に、筆者の体験をご紹介しましょう。

2022年1月6日に、東京でも雪が降ったときのことでした。ちょうど、その時は、昼頃にクルマで片道30分程度の自宅近所に用事があり、雪の予報はでていたもののまだ降っていなかったため、午前中に出かけました。

ところが、用事を済ませ、午後に帰路へつく途中で、雪が降り出し、徐々に大雪に。すると、クルマのメーター(マルチインフォメーションディスプレイ)に

「運転支援システムの一部が使用できません レーダーが汚れています」

という警告が! 

マルチインフォメーションディスプレイに表示された警告(筆者撮影)
マルチインフォメーションディスプレイに表示された警告(筆者撮影)

また、タコメーター内にある警告灯には、上で紹介したCMBS(衝突軽減ブレーキ)と、「路外逸脱抑制機能」が作動できない旨の表示が出ていました。

ちなみに、路外逸脱抑制機能とは、クルマが車線をはみ出しそうになると、ディスプレー表示とハンドルに振動を与え警告するとともに、車線内に戻るようにハンドル操作を支援する機能。車速が約60〜100km/hの時に作動します。

N-VANの場合、これら機能は、フロントウインドウにあるカメラと、フロントバンパーのロアグリル奧に設置されたレーダーセンサーで検知します。

カメラは、ワイパーを動かしていたため、雪でも前方を検知していましたが、問題はセンサー。走行中にフロントバンパーへ雪が付着したことで、「汚れている状態でセンサーが検知できない」とクルマが判断したようです。

雪が付着したN-VANのフロントバンパー(筆者撮影)
雪が付着したN-VANのフロントバンパー(筆者撮影)

そこで、安全な場所で一旦クルマを停車し、エンジンを停止。車外へ降りて、フロントバンパーの雪を手で払ってみました。その後、エンジンを再始動すると、警告は消えたので一安心。ところが、しばらく走っているとまた同じ警告が! 

再び、安全な場所で停車すると、またもやフロントバンパーに雪がついていたことで、センサーが検知できなくなっていたのです。

その時は、きりがないので、細心の注意を払い帰宅しましたが、徐々に降雪量が増えて、視界も悪かったのでヒヤヒヤものでした。もし、警告灯に気づかずに、安全装備を信じきって走行中に、歩行者に気づかないような不注意をしていたら……ぞっとします。

システム不作動の原因は雪だけじゃない

こうしたシステムが作動しない悪天候は、ホンダの取り扱い説明書によれば、雪だけでなく、雨や霧などでも起こる場合があるといいます。

また、センサーは、リヤバンパーにも装備されていて、先述の後方誤発進抑制機能で、真後ろにある障害物を検知するために使われます。そのため、前後バンパーが泥などで汚れている場合にも、システムが作動しないケースがあるのです。

さらに、フロントウインドウのカメラは、やはりウインドウが汚れている場合は検知できません。さらに、逆光やトンネルの出入り口、木、建物の影などで明るさが変化したときなど、周囲の明るさや太陽光の向きによっても検知しないことがあるといいます。

N-VANのカメラ(筆者撮影)
N-VANのカメラ(筆者撮影)

このように、天候や走行中の状況によっては、安全機能がきちんと作動しないケースがあることは、十分に知っておく必要があるでしょう。あくまでも、ドライバーの操作をサポートする機能だと捉え、過信しないことが重要なのです。

ちなみに、前後バンパーやウインドウなどを、こまめに洗車することも機能が不作動になることを未然に防ぐ効果があります。愛車をきれいにするのは気持ちがいいことですしね。

本稿を執筆中(2022年2月6日現在)の天気予報では、週半ばから後半にかけて、再び大寒波が訪れ、関東地方でも大雪のおそれがあるとの報道がでています。また、2月は、関東で最も大雪が降るといわれています。

もし、再び大雪が降って、クルマで出かける必要があるときは、冬タイヤやチェーンといった装備はもちろん必須です。

ですが、それらだけでなく、近年購入したクルマの場合は、こうした先進安全装備についても、事前に知識を持ち、絶対に過信しないようにすることも大切だといえるでしょう。

【2022年2月7日一部修正】

自動車ライター

自動車系出版社3社を渡り歩き、自動車、バイクなどの専門雑誌やウェブメディアの編集者を経てフリーランスとなる。自動運転や自動車部品、ITなどのテクノロジー分野から、クルマやバイクにまつわる身近な話題、キャンピングカーや福祉車両など、幅広い分野の記事を手掛ける。一般人目線の「分かりやすい文章」を信条に日々奮闘中。

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