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コンタクトレンズの品薄・価格高騰だけじゃない。ロシア・ウクライナ情勢が医療に与える影響とは?

平松類眼科医
(写真:アフロ)

〇コンタクトレンズが手に入りにくい事がニュースに

一部のコンタクトレンズが品薄になっているという事がニュースになりました。

https://news.yahoo.co.jp/articles/6b7a8436df1599cbdaae30ad457f6ba105cd4e03

 コンタクトレンズのみならず多くの商品が品薄に。その理由の一つとしてロシアウクライナ情勢の事が示唆されています。

 まずコンタクトレンズの品薄に対する対処としては、以前もお伝えしたように対処法があります。まずは、コンタクトレンズがなくなった場合「同じ度数でほかのメーカーのものを使えばいい」と思わない事。コンタクトレンズというのは度数が同じでも全く違うものです。コンタクトレンズというのは目に直接装用する道具であるために、度数のみならずベースカーブなど多くの要素がそれぞれのメーカーによって違うからです。ベースカーブとはコンタクトレンズの曲がり度合いの事を言います。カーブがきつめのコンタクトレンズもあれば、弱めのコンタクトレンズもあります。これがあっていないと、ずるずる落ちてしまう事もあれば、きつすぎて目が痛くなることもあります。

 だからこそ自分の使用しているコンタクトレンズがもうすぐなくなってそのレンズが手に入りにくい場合は新しいレンズを装用してみてコンタクトレンズの状態が目に良い状態で装用できているか眼科医に確認してもらう必要があります。だからこそ「もう明日にはなくなるから沢山もらう」というのはよくないのです。なくなるギリギリではなくて早めに受診する必要があります。

 実はコンタクトレンズ以外にも医療現場に与えている影響があります。それは薬剤や医療材料の品薄と価格上昇です。

写真:イメージマート

〇ロシア・ウクライナ情勢が医療現場に与える影響

 ロシアのウクライナ侵攻とコンタクトレンズというのはいかにも関係がなさそうなのになぜ?というと輸送の問題があります。ヨーロッパから日本にコンタクトレンズが輸入されているのです。その輸入経路が使えないところが出ているために輸入に遅延が生じ、コンタクトレンズの供給が間に合わないという事があるのです。そのため、国内生産などの商品であれば、対応が可能となっています。ならいいか、と思われがちですが事はコンタクトレンズだけではありません。

 コンタクトレンズのみならず手術の時に使う薬剤、人工のレンズなど眼科の分野では多くの医薬品の輸入が難しい状態なのです。人工のレンズというのは白内障手術の時に使われます。医療の現場でも業者さんから「〇〇が使えなくなるので対応お願いします」と軽くいわれ、対応に追われている現状です。代替のもので何とか対応はしているものの、通常とは違う薬剤の使用など医療の現場では治療に制限がかかっています。さらには薬剤の高騰もおきています。

 「でも、特にお薬が高くなったと聞かないけれども?」そう思うかもしれません。確かに私たちが日々医療の現場で診断を受け処方を受けているお薬の値段は据え置きです。それは国が薬価といってお薬の値段を決定しているからです。日用品であれば、エネルギー価格の高騰があればパンの値段があがったり、多くの商品の値段が上がりニュースになります。しかし、医薬品は一般の方に値段が転嫁されないのです。それは日々治療を受けていく中では安心ですし、「特に問題ないのでは?」と思われがちです。医療機関は大変になるかもしれませんが、そこは病院の努力に任せればとも思ってしまいます。しかし一つ大きな問題があるのです。それは新薬です。

〇新薬の開発が滞り日本では治療が受けられない?

 そもそも日本は諸外国に比べて新薬が承認されるのが遅いというのが元からいわれていました。日本の場合は新薬の承認プロセスが煩雑であり手間がかかるためです。そこにさらにロシア・ウクライナ情勢による価格上昇の問題がでてきました。日本国内で開発されたお薬の場合はいいのですが、多くは海外で開発されたお薬を日本で承認するという事が多いです。その場合はすでに海外である薬を輸入して国内で使用して「日本人にも問題がない・効果がある」ことを確認しなければいけないのです。そして新薬であれば海外の価格で輸入しなければいけません。円安の影響も強く受けます。だからこそ、この薬剤価格の高騰の影響を強く受けてしまうのです。新薬開発のための費用がかさんでしまい撤退を余儀なくされることがあります。

 例えば脳卒中の新薬です。海外では使われている新薬があり日本で導入するために2021年に始まった「T-FLAVOR試験」というのがあります。日本脳卒中学会の働きかけにもかかわらず、製薬会社が動いてくれないために医師が主導して行われた研究です。当初1本輸入するのが30万円だった薬が160万円と5倍以上の価格になってしまったのです。このままでは断念せざるをえないのか?という事で現在クラウドファンディングなどを使って多くの人の協力を募っています。

https://readyfor.jp/projects/tflavor

 もしこのような研究が立ち行かなくなれば、海外では命を無くさなかったであろう人がなくなったり、麻痺が残らなかったであろう人が麻痺を残ってしまうという事になりかねないとして世界に日本が取り残されていう事、不幸な人が増えてしまう事が懸念されます。もちろんロシアウクライナ情勢の現場はより深刻ではありますが、このように日本の医療現場にも影響があり、より良い形で一日も早い情勢の安定がもたらされればと考えられます。

眼科医

医師・医学博士・眼科専門医・昭和大学兼任講師。海外および全国(北海道から沖縄まで)から患者さんが集まっている。登録者6万人以上のYouTube「眼科医平松類チャンネル」にて日々目の健康情報を発信。日経Goodayなどに連載。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌等メディアにても情報発信をおこなっている。著書に「1日3分見るだけでぐんぐん目が良くなる!ガボール・アイ」「緑内障の最新治療」など多数あり、累計50万部以上。

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