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上皇さま緑内障手術から学ぶ緑内障最新手術「MIGS」とは

平松類眼科医
(提供:イメージマート)

 「9月25日上皇さまが東大病院で白内障手術および緑内障手術を日帰りで受けられた。」というニュースが流れました。具体的な手術方法は不明ですが、「緑内障って手術があるの?」と思った人もいるでしょうし、緑内障手術をかつて受けたことがある人ならば「日帰りで手術が出来るの?」という驚きがあったでしょう。緑内障とは何か、手術の目的そして最新の緑内障手術について眼科医が解説します。

〇 緑内障とはそもそも何?

 緑内障という病気は日本人の中途失明原因の第一位の病気です。40代以上の20人に1人、70代以上の10人に1人がかかる病気でもあります。とはいえ「あまり周りできかないな」と思う人もいるでしょう。なぜならば緑内障は初期症状がほとんどないために、8割の人が緑内障であることに気づいていないということがあるからです。

 緑内障であることに気づかずに病気が進行してしまい、末期になって初めて見にくくなってきたという自覚が出てきます。しかし、緑内障という病気は進行を食い止めることが出来ても治すことが出来ない病気です。そのため、緑内障と気づかずに末期にまでなってしまうと失明の危険性が高くなるという病気です。そのために定期的に眼科でチェックを受ける、または眼底カメラという検査を検診の際などに定期的に受けることが自身を守るすべとなります。とくに近視のかたや血縁者に緑内障の人がいる場合はリスクが上がるので注意が必要です。

 では進行を食い止めるというのはどういうことか?というと「眼圧(がんあつ)」が重要となります。眼科で空気を目に当てられた経験がないでしょうか?ちょっとびっくりする検査ですが何をしているかあまり説明を受けてこなかったかもしれません。あれが眼圧検査になります。空気を当てることによって眼球がへこみます。そのへこみ具合を見ることによって眼球がどのぐらい硬いか柔らかいかということを見ているのです。すごく眼球が硬い状態を「眼圧が高い」眼球が柔らかい状態を「眼圧が低い」といいます。

 この眼圧が低いほうが緑内障が進行しにくいということがわかっています。そのため眼科の治療として眼圧をさげる治療を行います。まずは点眼で治療するのですが進行してしまう場合はレーザーや手術を行います。では手術を行えば治るのでしょうか?

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〇 緑内障手術の目的

 残念ながら緑内障の手術は、やったからと言って治るものではないです。あくまで眼圧をさげるというのが目的です。なのでいきなり手術をするというよりはリスクの低い目薬で眼圧をさげます。しかし目薬だけでは効果が不十分な人がいます。毎日欠かさず目薬をしているのにどんどん目が悪くなっていきます。具体的には視野と言って見える範囲が欠けていきます。そうなってしまうと失明へと向かってしまうので、失明を防ぐためにはレーザーや手術を行います。レーザーは手術と比較してリスクが低いですが効果も低く、手術の方がリスクが高いですが効果も高くなります。

 緑内障手術は濾過手術(トラベクレクトミー)というのが主流です。この手術は眼圧をさげる効果がかなり高い手術で緑内障の進行を食い止める効果も高い。けれどもリスクも高く、感染症のリスク、視力低下のリスクなど様々なリスクがあります。また、手術をしてすぐに安定するわけではないので入院して手術をすることが多いです。緑内障学会が行った「第一回緑内障診療実態調査アンケート結果」によれば入院で濾過手術をしている施設が8割ということで、入院治療が一般的です。それだけ負担も大きく、リスクも高いため行いにくい部分もありました。しかし、近年最新の手術治療としてMIGS(ミグス:低侵襲緑内障手術)という概念が出てきて緑内障治療が変わりつつあります。

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〇 最新の緑内障手術「MIGS(ミグス)」とは

 MIGSは低侵襲緑内障手術、つまり今までの手術よりはダメージの少ない治療であるということなのですがこれは手術名ではありません。具体的な手術名は「iStent・Kahook dual blade ・マイクロフック・suturelotomy・トラベクトーム」など様々な方法があります。これらの低侵襲な治療を総称してMIGSと言っています。

 濾過手術と比較すると効果は落ちるもののリスクが低いというのが特徴的です。そのため入院ではなくて日帰りで行うのが一般的となっています。またリスクが低いために「目薬をやってそれでもすすむ厳しい状態に手術をする」というように状況が限定されなくなってきました。目薬を何種類かやっている。目薬を減らしたい。そんな中、白内障手術のタイミングなので同時に緑内障手術をすることで目薬の本数を減らす、またはなくすという方向性に持っていきたい。そういう思いで手術をすることがあります。

 もちろん手術なのでリスクが低いからと言って「ない」わけではないので安易に行われる手術ではありません。しかし、緑内障に手術があるということさえ知らない患者さんは多く、また白内障手術の時に同時に出来るということも知らない方が多いです。

 今回どのような手術をお受けになったのかはわかりません。いち早い術後の回復と状態の安定をお祈りします。また、今回の件から一つの選択肢としてこのような方法があるということが一般に周知され多くの方の緑内障治療がより良いものになればと思います。

眼科医

医師・医学博士・眼科専門医・昭和大学兼任講師。海外および全国(北海道から沖縄まで)から患者さんが集まっている。登録者6万人以上のYouTube「眼科医平松類チャンネル」にて日々目の健康情報を発信。日経Goodayなどに連載。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌等メディアにても情報発信をおこなっている。著書に「1日3分見るだけでぐんぐん目が良くなる!ガボール・アイ」「緑内障の最新治療」など多数あり、累計50万部以上。

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