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目の不調から胃がん判明をバレー日本代表藤井選手が公表、目からくる体の病気とは

平松類眼科医
(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 バレーボール男子日本代表の藤井直伸選手が胃がんのステージ4であることを発表されました。ステージというのはがんの進行度を表していて0から4まであります。0であれば非常に限られた範囲にだけがんがある状態をさしますが、ステージ4となると離れた臓器にまで転移している状態となります。そのため、今回藤井選手は目の不調からこの胃がんが発見されたという事です。目の不調からがんがわかる、なんてことがあるのでしょうか?

〇 物は目ではなく脳で見ている

 まして今回の藤井選手の場合は目に転移があったわけではありません。確かに目の不調を訴えたのですが実は転移があったのは脳という発表です。脳が悪くなって目が不調を感じたのです。私たちはものを見る時目で見ていると思っています。しかし、実際には目に入ってきた信号が神経を通って脳でキャッチすることで物は見えています。つまりしっかり見えているというのは目が正常なだけではなくて神経が正常で脳も正常である必要があるのです。

 今回のように脳に腫瘍の転移というのは多くはないものの、脳梗塞・脳出血というのは比較的ある事です。目の調子が悪くなる脳梗塞や脳出血とはどういうものでしょうか?後頭葉といって脳の後ろ側の部分にダメージが起きた時に目の不調を感じます。なぜならば後頭葉には「視覚野」といって目の見る機能をつかさどる場所があるからです。そしてその後頭葉に異常が出た場合は神経のつながり上両目に異常が出てくることが多いです。そして最も多い症状は視野欠損です。視野が欠ける場合、2分の1とか4分の1のように大幅に欠損します。視野が4分の1も欠ければ気づきそうなものですが意外と患者さんに話してみると「特に感じない」といいます。なぜでしょうか?

提供:イメージマート

〇 脳による目の不調は気づきにくい

 私たちは普段の生活の中では両目を開けて生活をしています。片目づつ見るという事をしません。視野が4分の1欠ける場合、右目で4分の1、左目で4分の1欠けたとしても両目を開けて見ていればお互いに補い合えます。そのため視野が欠けていることにさえ気づきにくいのです。また多少の視野の欠損は脳が見えているかのように補ってくれます。これは便利な機能ではあるものの、そのため見えていないことに気づきにくいのです。視野検査の結果を見せても患者さんは「私は見えているのですが」というのです。

 また、視野が欠けていれば視力が落ちるかというと視力は落ちません。視力は1.0見えているという事が一般的です。つまりは運転免許試験も通るし視力も問題ない。けれども実は視野が欠けているという事になります。なので気づかずに事故を起こしてしまう、車をこすってしまうという事がおきます。それでも患者さんが感じる不調は「何となく見にくい」という程度なのです。

 見えていない時の検査というのは視力検査・そして空気が出てきて目の固さを測る眼圧などが基本的な検査になります。その上で目に異常がないか細隙灯顕微鏡というのを用いて黒目(角膜)に傷がないか?白内障がないか?目に炎症がでていないか?網膜には異常がないか?視神経が見た目上問題ないか?というのをチェックします。それらに異常がないが視覚に異常がある場合さらにMRIなどで目の奥を調べます。今回はお若くしてこのような病気であったので主治医の先生はかなりしっかり調べられたのかなと推察されます。

〇 「白血病・糖尿病・クラミジア・リウマチ」目に来る意外な病気

 目に体の病気からの不調が来るというのは意外とあります。一番代表的なのは糖尿病網膜症です。糖尿病網膜症とは糖尿病によって引き起こされる目の病気です。目の血管から出血をしてきて、ひどくなると失明してしまう病気になります。糖尿病網膜症は初期の頃から目の奥に出血を起こします。しかし、出血量がすくないため、全く自覚がないです。そのため糖尿病がある人は定期的に眼科にも通わなければいけません。目の奥の網膜に出血をきたす病気としては白血病もあります。このように目の奥の網膜の血管の異常というのは色々な体の病気から起こります。高血圧・腎臓の病気・動脈硬化なども目の血管異常を引き起こします。

 目に対する感染症もあります。代表的なのは風邪などと関連するウイルス性の結膜炎です。アデノウイルスというウイルスで「はやり目」ともいわれています。とても感染しやすいウイルス性の結膜炎は風邪症状を引き起こして熱・咳・だるさなどを発症します。性行為感染症としても知られているクラミジアの場合も目に感染することがあります。目と性行為感染症は別のものと思われがちですが、汚れた手でコンタクトのつけ外しをしたり、目をこすったり、はたまた特別な趣味によって目に感染しやすい状態を作る方もいます。

 リウマチのように体全体の不調とも関連するものもあります。リウマチというと関節が痛むという印象はあると思います。これはリウマチ因子というものが関節を攻撃してしまうという事が関連しています。同じように目にも攻撃してしまって目に炎症を引き起こすという事が起きるのです。

 また甲状腺の病気も目に来ることがあります。甲状腺眼症といわれ、目についている筋肉に沈着物がつくことによって眼球突出(目が出て見える状態)や眼球運動障害、視力低下や目の乾きなどを生じる事があります。

 目も体の一部です。一般的には知られていないものの体の不調と目の不調というのは関連することがあるという事を知っていてたかが目と思わずに不調を感じたら眼科を受診していただければと思います。

眼科医

医師・医学博士・眼科専門医・昭和大学兼任講師。海外および全国(北海道から沖縄まで)から患者さんが集まっている。登録者6万人以上のYouTube「眼科医平松類チャンネル」にて日々目の健康情報を発信。日経Goodayなどに連載。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌等メディアにても情報発信をおこなっている。著書に「1日3分見るだけでぐんぐん目が良くなる!ガボール・アイ」「緑内障の最新治療」など多数あり、累計50万部以上。

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