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子どもに「学童に行きたくない」と言われたら? 夏休みの「小1の壁」問題を考える #こどもをまもる

平岩国泰放課後NPOアフタースクール代表理事
(写真:アフロ)

 子どもは夏休みの真っ最中、学童保育は毎日朝から開校しています。子どもが小学生になると仕事と子育ての両立が困難になる「小1の壁」 にとって夏休みは鬼門です。放課後NPOアフタースクールが実施したアンケートによると、子どもの小学校入学によって「子育ての負担や悩みが増えた」と57.3%が回答し、負担が増えたこととして「夏休みなどの長期休みのケア(73.1%)」が挙げられました。親子共に夏休みには悩ましい課題があります。

◎夏休みに広がる子どもの格差

「夏休みになると痩せる子がいる」という話があります。普段は出ている給食が夏休みは出ないので、栄養が不足して痩せていく子がいるという現象です。

「朝ごはんを食べていない」「昨夜から親が帰っていない」「お昼のお弁当はつくってもらえない」などの声が子どもたちから聞こえることもあり、学童保育のスタッフは日頃分かりにくい子どもの家庭ごとの生活格差に気づくことになります。

 夏休みは子どもの過ごし方も多様になります。旅行やキャンプなど様々なイベントがある子もいれば、何も予定がない子もいます。チャンス・フォー・チルドレンの調査によれば、年収300万円未満の家庭の3割は学校外の体験活動が1年間で「何もない」となっています。「何もない」には、当然夏休みも含まれ「夏休み格差」という言葉が生まれています。「経済格差が体験格差」となり、ひいては自己肯定感やチャレンジ意欲といった非認知能力、また学力の差まで生み出してしまうことが懸念されています。

◎夏休みならではの小1の壁

 格差以外にも夏休みならではの壁があります。それが「学童のお弁当問題」です。学童保育に昼食提供機能がなく、保育園でも経験していないお弁当づくりが始まることです。SNSでは「#学童弁当」というキーワードで投稿され、悲鳴が聞こえます。こども家庭庁によると、調査に返答した学童保育で昼食が提供できているのは22.8%しかありませんでした。お弁当をつくる保護者の負担はもちろんですが、この暑さですので衛生面でも大きな不安があります。学童保育では、子どもが持ってきたお弁当を朝に受け取りすぐに冷房のきいた部屋で保管するなどの対応を迫られます。自治体によるお弁当手配が少しずつ進んでいますが、一気に解決はしていません。このことを通しても、放課後や学童保育への自治体の関心の薄さや対応が後手に回る状況が見てとれます。

 夏休みの過ごし方も各家庭の悩みの種です。保育園の時代は考えなくて良かった40日前後ある日々をどう過ごすかは、どのご家庭でも戸惑うテーマです。 学童保育に期待をするところですが、人手不足の施設も多く、特段イベントなどもない学童保育も多くあります。そして7月26日には大変残念な事件も起きました。滋賀県の学童保育において、イベントで出かけたプールで小学1年生が溺れて命を落としてしまいました。子どもたちのために頑張って企画したイベントだったと想像しますが、このような事故が起きると、外出企画に誰もが消極的になります。外を引率するだけで熱中症になりそうな暑さの日が多いです。そうなると学童保育内の部屋でジッと過ごすしかなく、1日がとても長く感じてしまいます。

◎子どもが「学童に行きたくない」と言ったら

 このような状況のなか、「学童が楽しくない、、」「行きたくない、、」と子どもが訴える話を、昨今よく聞くようになりました。夏休みにそんなことを言われると、保護者はまさに頭を抱える状況になります。そんな時はどうしたらいいでしょうか。

(写真:アフロ)
(写真:アフロ)

<STEP1>まずは子どもの気持ちを受け止める

 保護者 としては焦ります。「そんなこと言わないで行ってよ」と思わず強く言い返してしまいそうですが、子どもにもそれなりの理由があります。そこを最初に否定されると心を閉ざしてしまうかもしれません。まずはその気持ちを受け止め、どうしてそう思ったか、などについて聞いてみるのが良いかと思います。子どもは気持ちを受け止めてもらえたことで安心して意見交換しやすくなります。ここで親の言いたいことをグッとおさえて、まずは子どもの気持ちを聞くことが大事なポイントです。学童の何が気になっているのかを深掘り することで、対策が見えてくるかもしれません。

<STEP2>どう過ごしたいか子どもと相談する

 もし学童に行かないと、現実的な選択肢は「留守番」です。その可能性について話し合うのが良いかと思います。小学1年生だとまだ難しい子も多いかもしれません。保護者の方の心配な気持ちも話してみると良いと思いますし、子どもも怖さがあると思います。留守番が難しい場合は、その他の可能性を探すことになります。やっぱり学童に行く、他の行き先を探す、保護者が在宅勤務の日を増やす、などが考えられますが、今日の明日で決まらないことも多いことは子どもにも分かってもらう必要があります。子どもの気持ちに寄り添いつつ、なるべく冷静に話し合うことが重要です。

<STEP3>落としどころを探す

 留守番ができそうな場合は、家での過ごし方を決めていくことになります。時間の使い方や防犯のルール、また最低限の家事はやってもらう方がいいでしょう。親としてどうしてもやってほしいこと・やってほしくないことはしっかりと伝え、それができないのであれば留守番は難しいことも理解してもらわねばいけません。

留守番が難しい場合やすぐの対応策がない場合は、学童に行くことを続けてもらわねばなりません。ポイントとしては、学童に完全に行くor行かない、だけではなく、「この日までは行く」「週の半分は行く」「お昼まで行く」などの落としどころを見つけることだと思います。

なにしろ最も重要なことは、子どもが納得することです。それがないと一時的には我慢しても、また同じことを言う可能性が高いです。子どもとしっかりと話すにあたり、<STEP1>でまず子どもの気持ちを受け止めることが重要であります。

◎夏休みの心構え

 今まで書いてきたこともふまえて、保護者にとって夏休みはどんな心構えでいると良いのでしょうか。

①無理をしない

 「特別な思い出を!」なんていう宣伝が目に付くと焦るところですが、特になにもなくゆっくりするのもまたいいものです。お金をかけたり、どこかに出かけたりしなくても、おうちで小さい楽しみがあるだけでも良いと思います。1日の出来事をいつもよりゆっくり話す、アイスを食べる、謎解きをする、親子で一緒にやるとどれも楽しいものです。 こうしたふとしたことが案外記憶に残るものです。

通常の生活ルールを少しだけ緩めるのも良いと思います。寝る時間が遅くなるのはオススメできませんが、ゲームの時間、お菓子のルール、夏ということで少しだけ緩めるのは良いのではないでしょうか。

②周囲に頼る

 特に共働きのご家庭にとって夏休みはなかなかの難題です。ですので、自分たちだけで解決しようとせずに、自分の親・親戚、友人のご家族など頼れるところのお世話になると良いと思います。小学校の中学年以上になれば悩みも少なくなるはずで、その時に恩返しするような気持ちで、小学1・2年の間は遠慮し過ぎずにお世話になってしまうのが良いかと思います。職場で理解が得られそうならば、率直に話してみて、在宅勤務を増やしてもらうなどの相談も良いでしょう。

③子どもの自立を鍛える

 小学生は夏を超えると成長します。「ピンチはチャンス」と考え、少しでもできることを増やす期間にできると有意義です。自分の生活をつくる力、自分で楽しむ力、計画を立てる力、留守番する力、家事ができる力、色々と力がつきそうなポイントがあります。力がつくベースになるのは、子どもが納得してその時間を過ごすことです。どう過ごしたいか、何を選びたいか、なるべく子どもに委ねて、そのためには守るべきこと・やるべきことがある、という順で話すと良いのではないでしょうか。夏の始まりと終わりで子どもの様子を観察して、少し成長した姿が見られれば、保護者も「夏休みがあって良かった」と満足度があると思います。

 以上、保護者の方の対応を中心に書いてまいりましたが、忘れてはいけないのは「学童になぜ行きたくないのか?」ということについての対応を社会的に進める必要性です。忖度のない子どもが言っていることはある意味では「真実」です。環境面、人員配置面、企画面、その全てのベースとなる予算不足の面、色々と足りていないことで、学童が子どもの居場所になれないのは課題です。ぜひそれは改善していきたいところです。

 また「厳しい状況におちいっている子を社会的に救う」ことも重要です。日頃知らず知らずのうちにセーフティネットになってくれている学校がありませんので、大人の目が抜けてしまいます。食、生活、体験、と子どもたちには色々なものが必要ですが、十分に届いていない子がいます。「夏休みが楽しみでない子もいる」ということを忘れずに、社会全体で親子を応援してあげたいと願います。

小1の壁、夏休み格差、という言葉が少しでもなくなるようにみんなで力を合わせていきたいと願います。

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【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

放課後NPOアフタースクール代表理事

放課後NPOアフタースクール代表理事。1974年東京都生まれ。1996年慶應義塾大学経済学部卒業。株式会社丸井入社、人事、経営企画、海外事業など担当。2004年長女の誕生をきっかけに、“放課後NPOアフタースクール”の活動開始。グッドデザイン賞4回、他各種受賞。2011年会社を退職、教育の道に専念。子どもたちの「自己肯定感」を育み、保護者の「小1の壁」の解決を目指す。2013年~文部科学省中央教育審議会専門委員。2017年~渋谷区教育委員。2019年~新渡戸文化学園理事長。著書:子どもの「やってみたい」をぐいぐい引き出す! 「自己肯定感」育成入門(2019年発刊)

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