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「小1の壁」~平成から令和へ、10連休の影響とここから気をつけたいこと~

平岩国泰放課後NPOアフタースクール代表理事
(写真:ペイレスイメージズ/アフロ)

5月になり、新しい令和の時代が始まりました。

平成最後の1か月となったこの4月、例年通りかそれ以上に「小1の壁」の悲鳴が聞こえました。

「小1の壁」とは、子どもが小学校に入ると仕事と家庭の両立が難しくなる社会問題を指しています。

主な要因は以下の3つです。

1.子どもの放課後の過ごし方への対応

2.子どもの小学校への適応

3.保護者の小学校への適応

この3つの要因に「保護者の多忙」という課題が掛け算されます。

解決の鍵は職場や社会がどこまでこの問題を理解し対応できるかにかかっています。

今年は時代の変わり目、10連休という特殊要因もありましたが、どんな影響があったか、また休み明けに気を付けるべきことは何でしょうか。

まずは実際の声を見てみましょう。

○「小1の壁」の悲鳴

「小1の長女の始業式が終わり、通常授業になった途端、次女が体調不良に。

長女は学校→学童のはしご、次女はお昼寝がなくなり疲れが溜まってのダウン。

私は年度初めの人事異動もあり、ずっと19時過ぎまで会社で、帰宅は20時に。

そこから夕飯、お風呂、寝かしつけ。

先に子どもたちでお風呂だけでも入ってくれたら助かるけど、結局子どもの就寝時間が22時超え。朝は6時過ぎに起こすから自然と疲れも溜まってしまう。

実家には頼れず、夫婦でこの試練を乗り越えるしかないのですが、なかなか意思疎通もできず、ストレスだけが溜まりまくります。

このまま仕事続けられるか、とても不安です。。」

この他にもこんな悲鳴もよく聞きます。

(小学校関連)

・保育園と大きく環境が変わる小学校への通学、体調管理

・先生とのコミュニケーション不足、担任の先生と会うのは1学期に1~2回

・学校のプリントが多く、読みづらい

・当たり前のように行われる平日行事、直前の告知も多い

・急に必要になる備品のハードルが高い(空のマヨネーズ、トイレットペーパーの芯など)

・PTAがよく分からない存在、プレッシャーが大きい

(放課後関連)

・慣れない学童保育へ通うプレッシャー

・4月初日から学童保育のお弁当が必要(保育園時代はなかった)

・習い事への送迎

・怪我、病院への通院などの負担

これだけでも相当に大変ですが、ここに4月ならではの職場の多忙さが重くのしかかるので、それはもう大変なわけです。

○時代の変わり目だった10連休の影響

今年度は色々と特殊な状況がさらに重なりました。保護者の仕事面では、まずは時代の変わり目がありました。平成最後の1カ月、色々と特殊な対応を迫られたこともあったでしょう。また、なんといっても10連休の前です。10連休に備えて4月にはかなり仕事をされた方が多く、残業も通常よりあったと思います。とても大変そうな悲鳴がSNSにたくさん見られました。また、この10連休中の予定の調整も大きな負担だった方も多いと思います。海外旅行に行くにも事前の手配は本当に大変です。長期の旅行がなくても、色々と休み中の計画を立てることも楽しいよりも大変そうに見えるご家庭がありました。

このようにジタバタだった平成最後の1カ月、なんとか終えてバタリと倒れるように休みに入ったご家庭も多かったと思います。

子どもたちの学校生活も例年以上に忙しない状況に見えました。授業の時間数確保に先生方が頭を悩ませていたり、絶対に授業の進行を遅らせまいという声も聞いたりしました。子どもたちにも大人の緊張感が伝わっていたように思います。

○気をつけたい10連休明けの対応

5月1日より新しい令和の時代に入り、もう少しすると連休も明けます。ここから子どもの生活面では気を付けておきたいことがいくつかあります。

1.子どもの生活リズム

最初に取り上げた保護者の声にもあったように、保護者の多忙さの影響もあり、子どもの睡眠時間が遅くなっているご家庭が多いように思います。各種データによると、小学生低学年でも22時ごろもしくはそれを過ぎて眠っている子どもが増えています。この10連休で朝起きないなどさらにリズムが崩れてしまっている場合は、元に戻していくことをしなければなりません。休み明けに備えてこの週末から少しずつ通常時間に戻していくことをお勧めします。

2.子どもの精神面

夏休み明けに子どもが学校に通うことにプレッシャーを感じて、最悪の場合は命を絶ってしまう課題があります。今回も10連休と長い休暇でしたので、同じような注意が必要です。このゴールデンウィーク、キラキラした過ごし方をした子もいる一方で、そうでない子もいます。学校に行ってその現実に気づくこともありますので、特に休み明けの1~2週間が子どもの様子に注意をして見ておいてほしいと思います。また、子どもがどうしても学校に行きたがらない場合は、焦らずにゆっくりと付き合ってあげてほしいと願います。

3.夏休みにかけてのの過ごし方

子どもの怪我の月別統計によると「5月が最も怪我が多い」というデータがあります。怪我というのは少し新生活に慣れてきた頃が危ないのでしょう。運動会が5月末~6月頭にある学校も多く学校生活もますます忙しくなり、子どもたちも疲れてきます。また徐々に季節は梅雨に入り、外遊びなどが出来なくなります。そして酷暑にも注意です。昨年は6月中に史上最速で梅雨明けし、その後熱中症で命を落とす子も出ました。過ごし方に制限が出て色々と子どもの心にストレスがかかる状況になるといじめや不登校などの問題も発生するリスクが高まります。

○「小1の壁」も最大の山場、夏休みへ

ここから夏にかけては保護者の「小1の壁」も大きな山場を迎えます。4月には見えなかった子どもの生活面の課題が出てきたり、「学童保育に行きたくない」と言い出す子も出てきたりする可能性があります。

そして、酷暑の中での子どもたちの体力の心配が大きくなります。暑さに慣れるまでの梅雨明けは特に注意です。酷暑を避ける過ごし方を考えておかねばなりませんし、やはりしっかりと睡眠をとることも大事でしょう。

そして「小1の壁」の最大の山場である夏休み問題に向き合うことになります。まずはどう過ごすかの計画に悩みます。毎日学童で良いのか?旅行や帰省はどうする?何か夏ならではの体験もさせてあげたい?など悩みはつきません。そして学童保育に行くにも毎日のお弁当づくりがまた復活します。

「夏休みなんてなくていい」という声を昨年はだいぶ耳にしました。ぜひ早めに夏の過ごし方にも頭を切り替えることもお勧めいたします。

そういう意味でも今回の10連休、4月からの息抜きに大変ありがたかった一方で、5日間×2にして、6月あたりに休みをとっておきたかったのも本音でしょう。

○新時代は「小1の壁」を崩そう

平成の30年は日本が本格的な共働き社会に移行する時代でした。まだまだ社会の仕組みが追い付かずに、多くの保護者や子どもたちや行政や子育て事業者が苦労しながら、仕事も家庭も両立できることを目指してきました。

まだまだ大変なことも多いのですが、その多くの方々の努力もあり、先日潮目の変わることを感じる記事を見ました。

「平成31年4月現在 待機児童ゼロを達成しました!」(東京都港区)

東京では子育て世帯の流入により、子どもの人口が増えているエリアもあり、港区も0~5歳の人口が平成26年から31年にかけて5年で2割増えました。それに対し、平成22年から31年の10年間で保育園の定員枠を2.6倍に増やしました(3,200名→8,400名)。結果、平成22年にピークで300名近く存在した区内の待機児童がゼロになった、とのことでした。もちろんこれで完全に達成ではなく、「ただし、区の就学前人口は今後も増加すると推計しており、引き続き、区立認可保育園の整備や改築、私立認可保育園の誘致などにより、更なる定員の拡大を図ります。」と港区のコメントもありますが、担当者としても意気上がるところだと思います。

あれだけ大変だった「保育園の待機児童」も時間をかけながら少しずつ解消に向かい始めている事例を見ると勇気づけられます。

「小1の壁」はまだまだこれから頑張らねばならない社会課題で、まずは社会の理解醸成から始めないといけません。子どもが小学生になると本当に大変なことが多いのです。いわゆる短時間勤務については、3歳までが事業主の義務で、努力義務として小学校入学まで短時間勤務等の措置が求められていますが、ぜひ多くの企業が子どもが小学校に入っても短時間勤務が取れるようにしてほしいと思います。

「子どもが小学生になったから安心ね」というのは昭和の概念です。

「子どもが小学生になってますます大変ですね、頑張りましょう」と声をかけていくことが令和の概念です。

ぜひ多くの方が「小1の壁」を課題認識してくださり、この時代に課題解消に向かっていくことを切に願っています。

放課後NPOアフタースクール代表理事

放課後NPOアフタースクール代表理事。1974年東京都生まれ。1996年慶應義塾大学経済学部卒業。株式会社丸井入社、人事、経営企画、海外事業など担当。2004年長女の誕生をきっかけに、“放課後NPOアフタースクール”の活動開始。グッドデザイン賞4回、他各種受賞。2011年会社を退職、教育の道に専念。子どもたちの「自己肯定感」を育み、保護者の「小1の壁」の解決を目指す。2013年~文部科学省中央教育審議会専門委員。2017年~渋谷区教育委員。2019年~新渡戸文化学園理事長。著書:子どもの「やってみたい」をぐいぐい引き出す! 「自己肯定感」育成入門(2019年発刊)

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