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学童保育はなぜ足りないか

平岩国泰放課後NPOアフタースクール代表理事
(ペイレスイメージズ/アフロ)

11月から12月にかけて、多くの自治体で翌年度の学童保育の申し込みが始まりました。学童保育は小学生の子どもたちの放課後を支えるインフラです。共働きが急速に増えている社会の中で存在感が増してきています。

そんな学童保育ですが、来春に小学校に入学するお子様をお持ちの保護者から不安の声が聞こえます。

「学童保育に入れるのだろうか?」

「毎日学童保育に行く生活で子どもは大丈夫だろうか?」

「習い事などもしたいけど、できるだろうか?」

「夏休みなどはどうするの?」

「そもそも学童保育ってどんなものだろう?」

学童保育をめぐる環境は近年激変してきました。そして残念ながら学童保育の数が十分に足りているとは言えない状況です。なぜ学童保育は足りないのでしょうか?学童保育が必要な数まで増えない理由を考えていくと、「保育園で有効だった勝利の方程式が機能しない」ことがあげられます。

そもそも学童保育とは?

学童保育とは、主に日中保護者が家庭にいない小学生児童(=学童)に対して、授業の終了後に適切な遊びや生活の場を与えて、児童の健全な育成を図る保育事業の通称である。法律上の正式名称は「放課後児童健全育成事業」で、厚生労働省が所管する。事業を実施する施設は「学童クラブ」「放課後(児童)クラブ」「学童保育所」などと呼ばれるが、自治体や設置者によって名称が異なる。略称は「学童」。 (Wikipediaより)

「学童保育」は小学生の放課後の預かりをする施設です。対象の子どもは自治体により異なります。以前は小学校1年生から3年生までとするところが多かったのですが、昨今小学校6年生まで全てを対象とするところが増えています。これは学童保育の法的根拠である「児童福祉法」に記載されていた以下の言葉の改正によります。

(児童福祉法第6条3の第2項)

この法律で、放課後児童健全育成事業とは、小学校に就学している児童であつて、その保護者が労働等により昼間家庭にいないものに、授業の終了後に児童厚生施設等の施設を利用して適切な遊び及び生活の場を与えて、その健全な育成を図る事業をいう。

この中の「小学校に就学している児童」は以前は「おおむね10歳未満の留守家庭の小学生」と記載されていました。10歳は小学校4年生で迎えますので、多くの学童保育が小学3年生までになっていました。2015年4月より「おおむね10歳」の文言がとられ、これをもって「小学生すべてが対象」と切り替えた自治体が多かったのです。

学童保育の待機児童

共働きの拡大とともに学童保育の利用者は増え続けていました。そこにさらに法改正が重なり、学童保育の対象は一気に広がりました。しかし、すぐに施設は対応できるわけではありません。結果的に待機児童の急増を招きました。

学童保育と保育園の待機児童数
学童保育と保育園の待機児童数

上記の表が学童保育の待機児童数(青字)と保育園の待機児童数(赤字)を比較したものです。「全国学童保育連絡協議会」の本年度の発表によると、学童保育に申し込んだものの入れなかった待機児童数は把握できただけで1万6929人、近年ずっと右肩上がりに上昇しています。

ちなみに保育園の待機児童数は2万6081人、こちらも大変な問題ですが、たびたび話題になり懸命に対策もされていることがあり、一進一退の状況です。一方の学童保育の「待機児童」は話題になることも少ないですが、保育園の待機児童数と大差のない水準です。小学生の放課後は保育園と比べて、塾や習い事や民間学童保育などの選択肢が色々とある分、「早々に学童を諦めて他の選択肢を取る」保護者も多いため、「学童の待機児童数は保育園と同水準かそれ以上では」という指摘もあるほどです。

「小1の壁」という言葉はこのような状況から生まれました。保育園をようやく乗り切った保護者が、子どもが小学生になって仕事と生活の両立が難しくなるケースです。その要因は主に「放課後の過ごし方」なのです。

学童保育は増えているのか

以下が近年の学童保育の数と利用者数の表になります。(赤の棒グラフが施設数、青の折線グラフが児童数)

学童保育の数と利用者数
学童保育の数と利用者数

上記表のように学童保育はもちろん増えています。この20年で学童保育の数も利用者数も3倍超になりました。しかしながら待機児童は一向に減りません。保育園の利用者数が増えている昨今、ますます学童保育の利用者も増えるので、今後も待機児童が減らないことが予測されます。頑張っていますが追いついていません。

学童保育が足りないのはなぜか?

このように学童保育が利用者増に追いつかずに待機児童数が増え続ける要因を保育園との比較で考えてみます。保育園は増え続ける待機児童に対して、保育園数を拡大するために、様々な作戦がとられています。「人・場所・金」にわけて整理してみます。

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このように人・場所・金の施策が実施され、待機児童対策を行ってきました。まだまだ対策は道半ばですが、結果も出しながら進んでいます。

これを学童保育も加えて見てみるとどうでしょうか。

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上記表のように、なかなか対策が進みづらい現状があります。人・場所・金に分けて考えると以下のようになります。

◯人

学童保育には保育園のような多様な担い手確保が難しい状況です。

保育園に対しての幼稚園のような活用次第で力になる可能性のある存在もおりません。時々、保育園が「卒園児の学童も実施する」というケースを見受けますが、スペースにそこまで余裕はないので、それほど多くの児童を預かることは難しい状態です。

また、補助金規模の小さい学童保育では株式会社の参入も積極的とは限りません。学童に参入する株式会社でも予算の大きい都市部に集中したり、また自社で高額な民間学童保育を経営したりする傾向にあります。

◯場所

次に場所です。ここが特に保育園と違う難しさがあります。

保育園では、企業内保育所の設置が促進されています。ところが学童保育ではこの手が通じません。理由は簡単です。企業内保育所は保護者が朝に子どもを連れて出勤するわけですが、学童保育は小学生が学校から授業終了後に通う必要があります。つまり「学校のそばにないといけない」のです。保護者がお勤めの企業が子どもの小学校のそばにあるケースは稀でしょう。従って、企業内保育所の手段が通用しません。

もうひとつ保育園では、「小規模保育所」という手段が機能しています。これは文字通り19人以下の小規模で行う保育で、比較的小さなスペースを使って少人数で預かりを行います。大規模な設備整備が必要ないので、小回りのきく施策として機能しています。しかしながらこちらも学童では難しい状況があります。学童保育に通う小学生は体も大きくなり、行動範囲も広くなります。従ってたとえ少人数であっても小さな部屋に毎日閉じこもることは難しいです。また小学生ともなると声も大きくなり、アパートなどの部屋を借りるにも「迷惑施設扱い」されてしまうこともあり、なかなか場所を借りるのにも苦労します。

このように学童保育では、保育園で通用した多様な場所の確保手段が通用しにくいのです。

◯金

最後にお金の面です。

子育てに関する国庫補助の投入額は拡大しています。先の選挙でも「幼児教育・保育の無償化」が争点となり、現在骨子案が作られています。しかしながら国庫補助の優先は保育園対策にあります。なかなか学童まで回ってきません。

全国学童保育連絡協議会の資料によると学童保育では約8割が非正規職員で、半分以上が年収150万円未満の待遇、ということが書かれています。業界の方々も努力され、もちろん少しずつ公金投入も拡大していますし、待遇改善に向けての動きもありますが、なかなか保育園の問題ほどは認知がされずに改善のスピードは緩やかです。

このように、人・場所・金全ての面で保育園で通用した勝ちパターンの施策が学童保育の世界ではなかなか機能しないのです。

これからどうすべきか

まず大事なことは現状を社会課題として認識することだと感じます。

〇学童保育も保育園同様の待機児童が発生していること

〇学童保育にも保育園同様に支援の輪を広げていかないといけないこと

小学生の放課後に対して、時々このように言われます。

「小学生をなぜ預かる必要があるのか?」

「昔は子どもだけで地域で遊んでいた」

「今時の子どもはゲームばかりでけしからん!」

私も昭和の時代の小学生です。なので昔の放課後の姿がよくわかります。あの頃は特に何も施策がなくても、「小学生になったら子どもだけで遊ぶ」というのがなんとなくの常識としてありました。共働き家庭の子はいましたが、学童保育は今ほど存在感を発揮しなくても大丈夫でした。「地域に預かり機能があった」とも言えます。

ですので、その時代のイメージの方々は「なぜ学童が必要なのかわからない」と仰る場合もありますが、現代の保護者はそのような感覚は持ち得ません。日本全国で起こる子どもが襲われる事件や登録すれば携帯に頻繁に届く不審者情報を見ていると、「どこか安全なところで放課後を過ごしてほしい」と思うのは当然のことです。

このような社会を作ってきたのは私たち大人であり、また時計の針を昔に戻せるわけではありません。

「現代の子育て環境をふまえてどうするか?」

まず意識の壁を乗り越え、このように考えないといけないところです。

その上で、次に考えることは「どこで学童保育を行うか」です。文部科学省・厚生労働省の連名で出された「放課後子ども総合プラン」では以下の指針が出ています。

◯新たに開設する放課後児童クラブの 約80% (2019年度末)を小学校内で実施

学童保育の場所として小学校が期待されています。全国学童保育連絡協議会の資料によると、学童保育が実施されている場所は下記のようになっています。

 ・学校:55.7%(+1%) *( )内は前年比

 ・児童館:11.4%(-0.8%)

 ・学童専用施設:7.0%(+0.2%)

 ・その他公的施設:7.5%(-0.3%)

 ・法人施設:6.6%(0%)

 ・民家・アパート:5.9%(-0.1%)

少しずつですが、学校の中の学童保育は増えている状況と言えますが、学校内の余裕教室の状況に変化もあり、急速に増えているとは言い難い状態です。また「学校ですべて放課後が完結する」ことや「学童保育を学校で行うことで大規模化する」ことへの懸念の声もあります。学校に学童を作ったらすべて解決、というわけではなさそうです。

場所だけでなく、人とお金の問題も当然続きます。担い手をどのように増やしていくか、そしてそのための資金をどのように調達するのか、この点も課題が山積状態です。保育園同様に議論を深めて対策をしていかねばなりません。

私たちの時代の放課後は子どもたちに自由がありました。行動範囲は狭かったけど、どこに行くか、何をするか、みんなで話して決めたものです。年齢を重ねるごとに行動範囲も広がり、放課後の選択肢も増えました。

しかし今はこのように学童保育も足りないし、他の選択肢も含め、子どもたちが自由に放課後の過ごし方を選べる世の中ではありません。

学童保育の充実、他にも公園、児童館、図書館、空き地、野山など子どもの過ごすフィールドは本来もっともっとあるべきです。

「放課後を子どもたちの手に戻す」

それがこの時代に生きる私たちの責務なのかもしれません。

放課後NPOアフタースクール代表理事

放課後NPOアフタースクール代表理事。1974年東京都生まれ。1996年慶應義塾大学経済学部卒業。株式会社丸井入社、人事、経営企画、海外事業など担当。2004年長女の誕生をきっかけに、“放課後NPOアフタースクール”の活動開始。グッドデザイン賞4回、他各種受賞。2011年会社を退職、教育の道に専念。子どもたちの「自己肯定感」を育み、保護者の「小1の壁」の解決を目指す。2013年~文部科学省中央教育審議会専門委員。2017年~渋谷区教育委員。2019年~新渡戸文化学園理事長。著書:子どもの「やってみたい」をぐいぐい引き出す! 「自己肯定感」育成入門(2019年発刊)

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