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海外では凄まじい騒音事件が起きている! 日本の事件との相違点とは、あるいは未来像か

橋本典久騒音問題総合研究所代表、八戸工業大学名誉教授
(写真:ロイター/アフロ)

 アメリカといえば銃社会、最近でも銃乱射による大量殺害事件がたびたび報道されている。『米疾病対策センター(CDC)がこのほどまとめた推計によると、2021年は銃が原因で死亡した米市民が約4万8000人と過去最高を記録した。プラスは2年連続で、過去最多となった1年前からさらに8%増えた。』(日本経済新聞)。何とも凄まじい数字であるが、こんな銃社会のアメリカでは、騒音トラブルによりどんな事件が発生しているのだろうか。調べてみると騒音事件に関しても銃の存在は大変に大きく、小さなトラブルが重大な事件に繋がっている。代表的な事例をいくつか紹介する。

1.地獄から来た隣人

 アメリカでは住宅について次のような格言がある。「真の邸宅といえるための最も重要な3つの条件がある。それは1にロケーション、2にロケーション、3にロケーションである」という。外国では、住宅の周囲の環境を何より大切にするため、このように言われるのであろう。しかし、今は違うという。今、最も重要な3つの条件は「1に隣人(neighbors)、2に隣人、3に隣人」だそうである。これは、近所付き合いや人間関係を大事にしたいという肯定的な話ではない。性質(タチ)の良くない隣人がいれば、生活の質(QOL : Quality of life)が保てなくなるだけでなく、悪ければ生活自体が破壊されてしまい、邸宅どころの話ではないということだ。アメリカ国民がまさにそれを実感した事件がニューヨーク、ブロンクスで発生した。事件の加害者はコーリー・ギャンブル(28歳)、無職。人は彼をNeighbor from hell(地獄から来た隣人)と呼んだ。

 ユニース・ヤンガー(76歳)は上品さの漂う老女であり、すでに中年の域に入った2人の子供、グロリア・ワトソン(53歳)、リッキー・ヤンガー(44歳)とともに、3人でブロンクス地区パークチェスター街バーシャル通りのアパートの2階に住んでいた。土曜の午後4時を回った頃、下の階に住むコーリー・ギャンブルが部屋を訪ねてきた。グロリアとリッキーが応対に出たが、隣人とあって追い返すわけにもいかず、いやな感じがしたがやむなく扉を開いた。その直後、ギャンブルはピストルを取り出し、驚いて悲鳴をあげるグロリアの眉間をめがけて至近距離から発砲、グロリアは背後に吹っ飛んで倒れた。今度は、逃げようとするリッキーを追いかけ、後ろからリッキーの後頭部に発砲、銃弾を撃ち込んだ。部屋の奥にいたユニースは発砲音で異常に気がつき思わず窓際まで逃げたが、そこへギャンブルが駆け込んできた。ユニースを見るとゆっくりと近づいてゆき、髪の毛をわしづかみにし、顔を窓ガラスに押し付け何か大声でわめき散らした。ユニースは恐怖で泣き叫び助けを求めたが、ギャンブルはそのまま部屋の中央にあった長椅子までユニースを引きずってゆき、そこに座らせると頭の真上から弾を撃ち込んだ。更に、入り口に取って返し、念を入れたのか、倒れているグロリアの頭に向かってピストルを1発撃ち込んだ。その間わずか1、2分の、いささかの躊躇も見られない惨劇であった。ほんの僅かのうちに、一家3人が皆殺しにされたのである。犯行後、ギャンブルは現場から逃げ去ったが、次の日に警察に自ら出頭し、騒音がうるさくてやったと供述した。

 事件発生の1年前、ギャンブルはヤンガー一家が住むアパートの1階に引っ越してきた。以前は訪問看護の助手をしていたが、当時は無職で職を探していた。ギャンブルが下の階に入居してすぐに、ヤンガー家に対する苦情が始まった。騒音がうるさいという苦情だった。特にユニースの孫たちが遊びに来て騒いでいたときなどは、かなりの剣幕で文句を言ってきた。また、お湯を大量に使うからその音がうるさいとも言われた。ギャンブルは、時にはバスケットボールを天井にぶつけ、アパートの管理人によると嫌がらせで2度もヤンガー家の電話線を切り、些細な騒音で何度も警察に電話をかけて苦情を言いまくったという。事件の1週間前には、リッキーがギャンブルからただではおかないと脅しをかけられたが、その後、その脅しの通り一家3人は惨殺された。事件の1年半後、この残忍な事件の判決が言い渡され、第1級および第2級の殺人罪によりギャンブルには仮釈放なしの終身刑が言い渡された。

 このようなアメリカの事件を眺めていると、相手を人間とさえ見ていないような、まるで家畜を屠殺するような無機的で冷徹な不気味さを感じる。その所業に人間的な感情のかけらも感じられないのは、銃というものの存在によるものであろうか。いずれにしても、転居や引越しをする場合には、その場所の環境や、周りにどのような人が住んでいるかを十分に調べてから決断すべきである。それでも、後からやって来られた場合にはどうしようもないが。

2.マイアミ、日曜朝のパーティ殺人事件

 フロリダ州マイアミ・ビーチ地区。日曜朝に、ホームパーティをやっていたグループに、騒音がうるさいと男が激怒。自宅から拳銃を持ち出してグループに発砲し、3人を射殺、2人に重症を負わせる事件が発生した。死亡した3人は何れも南米からの移民であり、パトリシオ・エルネスト・フォンドビア(33歳)とルイス・アルバート・レデスマ(34歳)の男性2人はアルゼンチンからの移民、女性のエリザベス・フェレイラ(39歳)はブラジル移民であった。

 マイアミ・ビーチに面するアパートの1階に、南米からの移民たちが集まっていた。彼らは何かに付けてよく集まりパーティを開いたが、当日はフォンドビアの妻の27歳の誕生日を祝うパーティだった。時間は朝の4時ごろになっていたが、そこへ2階に住むケビン・エバース(41歳)が現れ、音楽がうるさいのでボリュームを絞って静かにするように頼んだ。しかし、フォンドビアたちはこれに取り合わず口論となった。エバースはその場をはなれ、そのまま玄関前の道路端の縁石に座り、部屋の窓のほうを眺めていた。しばらくして、部屋を見ているエバースに気がつき、フォンドビアが近づいて行ったとたん、エバースは腰のベルトから口径9mmのセミオートマチック拳銃を取り出し、歩いてきたフォンドビアを撃ち倒した。その後、アパートに入って拳銃を撃ちまくり、中にいた2人を射殺、2人に重傷を負わせた。怪我をした1人の女性は赤ん坊を抱いており、弾は赤ん坊の頭をわずかにそれて母親の肩に当たった。血の海と化した部屋には、ハッピー・バースデイと書かれた垂れ幕がむなしく揺れていた。

 近所の人の証言によれば、拳銃は10発か11発発射されたという。犯人のエバースは、現場から歩いて立ち去り、マイアミ・ビーチから北に数キロ行ったところにある彼の両親の家まで行き、その日の夕方、そのまま両親の自宅で逮捕された。使用した銃は、エバースの父が所有していたものを黙って持ち出したものであり、母親は、「父親が銃を持っていたことも知らなかったし、エバースも精神的に何の問題もなかった。何でこんなことになってしまったのか分からない。」とマスコミに答えていた。その後、エバースは3件の第1級殺人と2件の殺人未遂で起訴された。

 マスコミはこの事件を大々的に取り上げ、大音量の音楽をかけて騒いでいたパーティ騒音が3人の殺害に繋がったと報道した。ブラジリアンやアルジェンティーノなどの南米の人は、リオのカーニバルに見られるように情熱的でお祭り好きである。自国では普通のことでも、お国柄の違いによってはトラブルも発生してくる。これは多様性社会が成立するために背負わなければならない重い荷物のようなものなのであろう。事件の数日前には、フォンドビアは父に電話をし、故郷に戻ってアルゼンチン・スタイルのバーベキュー・レストランを開きたいと話していたという。また、フォンドビアの妻は、犯人が自分の命をもって罪を償うまで、私に平和は訪れないと声を震わせて話した。

 アメリカでの騒音事件は枚挙にいとまがない。東洋人ダンサーのアパートの騒音がうるさいと、扉の外から11発の弾丸を撃ち込み、中の住人を射殺したが、実は部屋を間違えて発砲していたという、笑うに笑えない事件まで発生している。銃社会というものが事件を重大にしていることは否めないが、それよりも、他者に厳しい西洋人特有の感性が、騒音事件の発生を後押ししている面があるように思える。

3.静かにニュースを聞かせてくれ!

 ギリシャはヨーロッパの中で最もうるさい国と言われている。筆者の経験では、イタリアのナポリの方がよほどうるさいように感じたが、OECD(経済協力開発機構)が以前に発表した調査結果では、首都アテネの都市地域人口311万人のうち、約60%の住民が75dB以上の騒音に晒されているとのことであった。75dBというのは大変な数値であり、うるさいのはもちろんのこと、高血圧などの身体的影響や攻撃性などの精神的影響が現れてくるといわれるレベルである。そんなギリシャでこの事件が起こった。

 ギリシャ西部、イオニア海に浮かぶザキントス島に住むランブリノス・レコーレシス(78歳)は、すでに農業をリタイヤし悠々自適の生活を送っていた。彼の引退後の唯一の楽しみは、夕方、家のベランダのアームチェアーに座り、ラジオから流れるイブニング・ニュースをゆったりと聞くことであった。しかし、ここ数ヶ月はそれもままならない日々が続いた。ランブリノスの自宅の横にはアパートがあり、その1階に住む主婦(40歳)が大きな音で音楽をかけながら家事をするようになったためである。窓を開けているため、その音はランブリノスのベランダまで聞こえ、どうにも落ち着かなかった。音は決して耳をつんざくような大きな音というわけではなかったが、ラジオのニュースに重なってくるその音楽は、無性に邪魔に感じた。ランブリノスは二度ほど主婦を訪ね、夕方のニュースを聞く時間は音楽をとめてくれるように頼んだが、主婦は全く聞く様子もなく、最初に頼んだ時からすでに数ヶ月が過ぎていた。

 事件当日の夕方も、ニュースを聞いていると、やはり音楽が流れてきた。テンポの速いリズミックな音楽である。ランブリノスは部屋に入ると、棚にあった狩猟用のライフルを取り出し、不自由な足を引きずりながら隣のアパートへ向かった。玄関のチャイムを鳴らすと、主婦が扉を開いた。その主婦に向かって、至近距離から3発、ライフルを発砲した。即死であった。中から飛び出してきた息子にも1発撃ち込んだ。

 ランブリノスは殺人の罪で終身刑を言い渡され、今、イオニアにあるギリシャ最大の刑務所で毎日静かにイブニング・ニュースを聞いている。現地の新聞は、ランブリノスの事件は極端な事例ではあるが、ほんの些細な音が生活の安寧を破壊してしまうこともあるのだということを十分認識して、騒音防止に努めなければならないと報じていた。

犯罪心理にも東西の違い

 外国の騒音事件に見られる残忍な犯行様態や事件の多発、いずれも日本の騒音事件の現状よりは遥かに過激である。それは、拳銃が生活の中に根付いてしまっているということが一つの原因と言えるであろうが、もう一つ、日本での事件との違いに気がつくことがある。それは、外国での騒音事件は、確信犯的な犯行が多いということである。日本の場合には、口論の末、突発的に犯行に至るというケースが多く見られ、これは残虐な行為には違いがないが、ある意味では人間的である。しかし外国の事件を見ていると、殺すと決めて、そして躊躇なく犯行に至るという例が極めて多い。この思いっきりのよさは一体なんであろうか。

 音に対する脳の認知メカニズムが日本と西洋で異なるという話があるが、このような犯行様態にもその違いが表れるのかも知れない。騒音トラブルが発生し、それが事件発生に繋がる心理的なプロセスは、既往記事「韓国でのマンション騒音殺人事件は典型的なケース、他国の話とスル―できない訳」で詳述したが、外国の場合には、これと少し異なった心理メカニズム、心理プロセスがあることも考えられる。すなわち、怒りや敵意の段階的プロセスを辿らず、怒りからいきなり攻撃性に移るような短絡的なメカニズムが、西洋人特有の心理として存在しているのかも知れない。騒音はいろんな場面で必ず発生してくる。その騒音に対し、口論に至る付き合いさえもない状態で犯行が行われることを考えると、改めて騒音事件の不気味さを感じさせられる。人間関係の希薄化が進む日本の現状を考える時、外国でのこのような現実が日本の未来像ではないとだれが断言できるであろうか。

騒音問題総合研究所代表、八戸工業大学名誉教授

福井県生まれ。東京工業大学・建築学科を末席で卒業。東京大学より博士(工学)。建設会社技術研究所勤務の後、八戸工業大学大学院教授を経て、八戸工業大学名誉教授。現在は、騒音問題総合研究所代表。1級建築士、環境計量士の資格を有す。元民事調停委員。専門は音環境工学、特に騒音トラブル、建築音響、騒音振動、環境心理。著書に、「2階で子どもを走らせるな!」(光文社新書)、「苦情社会の騒音トラブル学」(新曜社)、「騒音トラブル防止のための近隣騒音訴訟および騒音事件の事例分析」(Amazon)他多数。日本建築学会・学会賞、著作賞、日本音響学会・技術開発賞、等受賞。近隣トラブル解決センターの設立を目指して活動中。

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