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世間が知らない“送料無料”の裏側「積荷5000個を手で積み降ろすトラックドライバーたち」

橋本愛喜フリーライター
1つ1つ手でトラックに積み込まれた荷物(読者提供)

このコロナ禍の中でも店に行けば当然のように商品が並び、家から出ずとも指1本でほしいものが翌日届く昨今。

それらがどのようにやってくるのかを意識することなく、「送料無料」という謳い文句に目を輝かせる消費者に、知っておいてほしいトラックドライバーの現状がある――。

消費者と接点のないトラックドライバーたち

我々消費者と直接接点のあるトラックドライバーといえば、いわゆる「宅配」の配達員だ。

コロナ禍でひっ迫する彼らに話を聞くと、荷物の受け取り客から「ありがとう」とねぎらわれたり、中には缶コーヒーなどの差し入れを受けることが増えたという声が多く聞こえてくる。

しかし、物流を支えているのは、宅配の配達員だけではない。

「メーカーから物流倉庫」、「物流倉庫からスーパー」など、消費者と直接的な接点のない「BtoB輸送」を担うトラックドライバーたちも、同じように社会インフラとして日本各地を走っている。割合的には、むしろ彼らのほうが輸送量も車両数も圧倒的に多い。

30kgの米袋800個の手積み降ろし

トラックドライバーの主な業務内容は、世間のイメージ通り「発荷主から着荷主のもとに安全・無傷・定時を守って荷物を届けること」だ。

しかし、BtoB輸送の現場には、この広義な業務内容を都合よく「荷物を積み降ろし、棚に入れるまでがトラックドライバーの仕事」、「運賃はただのコスト」と考える荷主がおり、多くのトラックドライバーたちが、契約にない「荷役(荷物の積み降ろし作業)」を対価を受けることなく強いられている現状がある。

しかもこの荷役において、フォークリフトを使って一気に積み降ろす効率的な方法があるにもかかわらず、荷主の中には、ドライバーに荷物を1つ1つ手で積み降ろす「手荷役」をさせるところが数多くあり、運送業界に多くの影響をもたらしているのだ。

これまでに現役トラックドライバーから多く集まった「手荷役」の事例を一部紹介しよう。

「昔某大手運送企業で、東京発大阪行の荷物を5000個積んでいました」(50代長距離トレーラー)

「食品を10トン車に積めるだけ。軽いものだが約4500個やったらその後はもう運転したくなくなる」(長距離大型冷蔵車)

「毎日インスタント麺とその資材を扱ってます。客先に配送する時は大型車で2000ケース以上積みます。箱の種類が数種類あるのですが、小さい箱の場合、満載すれば4000ケースくらいは積めます」(50代地場大型)

「今までやってたのは30kgのコメ442袋、20kgの肥料600個」(50代大型)

「肥料のバラ積みバラ降ろしよくやります。20kgを600~700袋。工場や肥料倉庫などの降ろしは比較的楽ですが、農家での降ろしは様々で小屋のなかに屋根まで積み上げる」(北海道50代大型ユニック)

「コンテナの場合、30kgの米袋を800個」(50年目大型長距離)

「ジャガイモなら10kgを1200ケース、レタスや白菜なら800~1000ケース積みますね」(30代男性長距離大型)

運転中は長時間立つことも許されない一方、荷主のもとに到着すれば、凝り固まった体に鞭打って、今度は上記のような過酷な積み降ろし作業が待っている。

ただ積めばいいというものではない。

積み方が悪いと、走行中ブレーキを踏んだ時に荷崩れを起こすため、レンガやジェンガのように積んだり、重い荷物とやや重い荷物で軽い荷物を挟むように積んだりと、様々な工夫が必要になる。

「タイヤを荷台の天井まで、サイズの違いを考えながら積んでいます。下から大きい順で積んで、上の方に小さいサイズを積み上げる。そうしないと積んでいるうちに倒れてきてしまうので。普通車のタイヤ10kg、トラックの夏タイヤ50kg、スタッドレス70kg含めて計500本くらい」(関東40代大型)

通称「ピンホール積み」。荷物を崩さぬよう、パレットへの積み付けには多くのパターンがある(読者提供)
通称「ピンホール積み」。荷物を崩さぬよう、パレットへの積み付けには多くのパターンがある(読者提供)

また、数か所の積み降ろし場所を回るドライバーの場合は、積む際に降ろす順番なども考慮しなければならない。

「リネンは件数をこなすんで、最初に降ろす分を一番降ろしやすい場所に積む。また、タオルとシーツだとシーツの方が重いんで下になるように。降ろすときより積む方が頭使いますね」(50代男性4トン地場)

同じものを数百数千と積み降ろすのも過酷だが、サイズや重さが違う荷物の手荷役は、見た目から重さが把握しにくく、持ち上げるまでに体が準備できない。「見た目より重かった」ということがあれば、すぐに腰をやる。

また、一斗缶など硬いものを扱うドライバーの中には、腱鞘炎に悩まされる人も多い。

一斗缶を積み続けて変形した中指(読者提供)
一斗缶を積み続けて変形した中指(読者提供)

とりわけこれからの季節はより過酷だ。

「自分は主に危険物を扱っているんですが、20kg近い一斗缶を夏の炎天下で1000缶積み下ろししたことがあります」(30代長距離)

「すいかのシーズンは体中あざだらけになります。Sサイズ(2個入)で5kgくらい、4Lサイズ(2個入)で20kgくらい。総個数900個」(40代長距離大型)

「夏はアイスなどの需要が増え、冷凍倉庫を行き来することが増える。周囲からは真夏に冷凍倉庫は羨ましがられるが、絶対に溶かしてはいけないアイス類は、より迅速な搬出入が求められるうえ、冷凍倉庫を出入りすると、外気温の差が60度にもなり、自律神経を壊したり、腰を痛めやすくなったりする。3000ケースの積み降ろしをした」(30代大型冷蔵冷凍車)

「コロナ禍の中の手荷役、マスクを外していいという荷主は少なくないですが、今年は去年以上に外でのマスク未装着に対する風当たりが強いので、マスク警察の目が気になる」(20代地場配送)

手荷役を求められる理由

無論、フォークリフトで一気に積み上げたほうが時間も労力も少なくて済む。フォークリフトなら1時間未満で済ませられるものを、手荷役することによって長い時で3時間かかるというケースもある。

中には、発荷主でパレットの上に積まれていた荷物をわざわざバラにしてトラックに積み、着荷主で再度、現地のパレットの上に積み直しさせられるドライバーも少なくない。

そこまでして荷主が「手」で積み降ろしさせたがるのはなぜなのか。

最も大きな理由は、「空気を運ばせたくない」からだ。

先述通り、荷物をパレットに積んで、フォークリフトなどで一気に積み込めば時間はかなり短縮されるのだが、その反面、パレット同士の間にはどうしても無駄な隙間ができる。

限られた荷台スペースの中、1つでも多くの荷物を積みたい荷主は、できる限り隙間を作らぬようドライバーに手荷役させるというわけだ。

パレットに積み付けると、パレット分の空間が奪われるだけでなく必然的に無駄な隙間もできる(読者提供)
パレットに積み付けると、パレット分の空間が奪われるだけでなく必然的に無駄な隙間もできる(読者提供)

もう1つ大きな理由として挙げられるのは、「パレットを流出させたくない」という理由だ。

パレットに荷物を載せて運ぶと、着荷主の元に自社パレットが行ってしまい、荷物が降ろされるまで長時間手元から離れてしまうことになる。

そのうえ、ようやく荷物が降ろされる頃には、倉庫の中で他社のパレットとごっちゃになり戻ってこなくなったり、戻ってきたとしてもその回収のためにトラックを手配しなければならずコストがかかる、というのが彼ら側の事情だ。

最近ではパレットの貸し出しや回収、管理を担うレンタル会社も出てきているが、自社が扱う荷物に合ったサイズのパレットを使いたがる荷主の場合、「規格違い」からこうしたレンタルサービスを敬遠しがちでなかなか足並みが揃わず、結局ドライバーにしわ寄せが及んでいるのが現状なのだ。

手当が付かないのに弁償のリスク

この手荷役に対する負担は、実は作業そのものだけではない。

手荷役作業がもたらす様々な弊害に対しても、現場からは悲痛の声があがる。

中でも深刻なのが「荷待ち時間」の発生だ。

積み降ろし作業をするのは、何も自分だけではない。

同じ荷主のもとに集まったトラック1台1台が、同じように手荷役をすることによって、後続のトラックドライバーたちには「荷待ち時間」が発生する。それは荷主から指定された到着時間から数時間、時には半日以上待たされるケースもある。

以前、「トラックが路上駐車する理由」を解説したが、彼らが長時間列をなして路駐する原因の1つには、こうした「荷待ち」が大きく関係しているのだ。

手荷役がもたらす弊害はこれだけではない。「弁償」のリスクも伴う。

ドライバーの中には、「荷役までは我々の仕事だ」と割り切る人も少なからず存在するのだが、「タダ働き」なうえに、作業中の破損で弁償させられるリスクまで負わされることが多くある。後日詳述するが、しかもその「破損」の程度はあり得ないほどに厳しい。

こうした過酷な労働環境から、周囲の同業者からは、

「運転手は汗だく、冬場でも半袖で頑張っている。(荷主元で働く)リフトマンは暇そうに眺めている。時間の無駄。最初からパレットでの積み降ろしにして、かつ倉庫作業員に積み替えさせるべき」

「段ボール5000個手積みで手当て付かないとか、好きでもやれないよ。自分は荷物が自分でトラックに乗ってくれる新車輸送担当でよかった」

といった同情の声も上がる。

「送料無料」という表現を変えるべきだと主張すると、世間の一部からは「無料と言っても、本当は無料じゃないことぐらい誰だって知っているから細かいことはどうでもいいじゃないか」という反論を受けることがある。

しかし、彼らBtoB輸送のトラックドライバーたちが強いられているこうした過酷な「タダ働き」の実態を日々聞かされると、やはりこの「無料」という言葉の罪深さを感じずにはいられないのである。

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フリーライター

フリーライター。大阪府生まれ。元工場経営者、トラックドライバー、日本語教師。ブルーカラーの労働環境、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆・講演などを行っている。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)。メディア研究

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