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米版SASUKE司会者が語る、長く愛される理由

長谷川朋子テレビ業界ジャーナリスト
第37回大会『SASUKE2019大晦日』12月31日(火)よる7時から放送。

 今年も大晦日に『SASUKE』が放送される。今回も国内外から出場メンバーが集結し、世界で人気を集める番組であることがわかる顔ぶれだ。そもそも国や文化を越えてヒットするコンテンツはそう簡単には生まれないもの。なぜ『SASUKE』はそれが実現でき、長年にわたって番組が続けられているのか?米版SASUKEの司会を務めるアクバル・グバハビアミラ氏が語る言葉にその答えがみえた。

SASUKEが20年続く理由はアメリカの放送がきっかけに

 TBSのスポーツエンターテインメント番組『SASUKE』が初放送されたのは1997年。当時のTBSの看板番組のひとつ『筋肉番付』の特別番組としてスタートし、以降、20年以上続く長寿番組のひとつである。ファンを集めながらも泣く泣く打ち切られた番組が数多くあるなか、『SASUKE』が息の長い番組としてあり続けているのはファン層を日本のみならず、世界にも広げていることが理由のひとつとしてありそうだ。

 世界中で支持されるにはアメリカで放送されるのが手っ取り早い。だが、これは最もハードルの高いプロセスでもあるのだが、『SASUKE』はそれをやってのけてしまっている。

 『Ninja Warrior(ニンジャ・ウォリアー)』の番組名で2006年10月にアメリカのケーブルテレビ局G4(ジー・フォー)の深夜枠で放送がスタートすると、瞬く間に人気番組として認知され、翌年4月からは同局のプライムタイム帯に昇格。2011年夏には『American Ninja Warrior(アメリカン・ニンジャ・ウォリアー)』として、日本の実写番組では史上初めて米4大地上波NBCのプライムタイムで放送実績を作った。高視聴率を獲得するNBCの看板番組のひとつとして人気を継続させ、近年は商品化やゲーム化、出版化、複数の世界的企業や人気ハリウッド映画とのタイアップなど、番組発祥のマルチ展開を実現させている。

 これらの実績から世界のコンテンツ市場では、日本から生まれた世界ヒット番組の代表例として紹介されるだけでなく、世界を代表するエンターテインメントの番組成功例として扱われているほどだ。そのたびに『SASUKE』の世界人気の理由を言及してきたが、今回、来日した米版の司会者であるアクバル・グバハビアミラ氏にお会いする機会を得て、アメリカにおける『SASUKE』の熱量を尋ねた。

来日した米版『SASUKE』司会者のアクバル・グバハビアミラ氏。番組から影響を受けて書き下ろした自著本『Everyone Can Be a Ninja』(2019)もある。
来日した米版『SASUKE』司会者のアクバル・グバハビアミラ氏。番組から影響を受けて書き下ろした自著本『Everyone Can Be a Ninja』(2019)もある。

アメリカ人はカムバックストーリーが好き

 アクバル・グバハビアミラ氏はナショナル・フットボール・リーグ(NFL)の元選手で、現在スポーツキャスターとして活躍する人物。米版『SASUKE』の4代目の司会者で、2013年から7年にわたって務めている。

 なぜアメリカで日本発の番組がウケたのか?そんな質問から始めると、「番組ファンのコミュニティが作られ、アメリカで人気のある番組に育っています。『SASUKE』の人気の理由はストーリー性にあると思います。アメリカ人は何よりカムバックストーリー(=復活劇)が好き。『SASUKE』はセットに仕掛けられた障害物だけでなく、人生の障害物も乗り越えていくことの大切さも伝えています。それが人気の理由のひとつにあると思います」と答えてくれた。

 また元スポーツ選手ならではの視点でスポーツエンターテイメントとしての人気の理由も考察してくれた。

 「『SASUKE 』は選手に親近感を抱かせることができることも人気の理由にあると思っています。スポーツは人を夢中にさせ、素晴らしい成績を残すことで感動を与えるものですが、プロのスポーツ選手はどうしても遠い存在にも映ります。例えばですが、私は小さいころ、歌手のマイケル・ジャクソンに憧れていて、マイケルがシャワーを浴びることさえも想像できないほどでした。つまり、スポーツ選手もセレブリティ化すると、日常の生活とかけ離れた存在として思われてしまいがちです。『SASUKE』は老若男女のいろいろな方が参加できるスポーツプログラムであり、視聴者にも近い存在に思えるからこそ、人気があるのだと思います」。

キッズ版も人気、助け合いの精神論を学べる番組に

 ここまでの話から、アメリカ人好みの要素とスポーツの楽しみ方を広げている点がアメリカでの人気を支えていると考えてよさそうだ。気になるのは日本から生まれた番組としての影響度である。そんなことも聞いてみると、アクバル・グバハビアミラ氏は来日した時のエピソードを交えて答えてくれた。

 「日本語も話せず、身体の大きいアフリカン・アメリカンである私は、日本人にとって話しかけにくい存在なのだろうと思うのですが、日本で道に迷った時に丁寧に道を案内してくれたり、親切にしてもらったりと、さり気ない気遣いに日本人の精神を感じることが多々あります。『SASUKE』はそんな日本人の助け合う精神を学ぶことができる番組です。選手同士が応援し合い、ファンも熱心にひとりひとりの選手を応援してくれる。10年以上にわたってアメリカで放送が続けられ、愛されている理由は日本人の持っている精神論が伝わっていることもひとつの理由にあるのではないでしょうか」。

 アメリカではキッズ版も作られ、人気を得ているという。「次世代を担う子ども達が番組を通じて助け合い精神を学ぶことができることも大事なこと」と話を続け、「アメリカ人は物事に対して批判的になりがちですが、失敗しても助け合いながら、成功することができることを『SASUKE』は証明してくれています。キッズ版が作られてから『SASUKE』を目指す子ども達がたくさんいます。これもまた良い影響を与えていると思います」と語った。

米版『SASUKE』の人気の理由について独占インタビューに応じてくれたアクバル・グバハビアミラ氏。
米版『SASUKE』の人気の理由について独占インタビューに応じてくれたアクバル・グバハビアミラ氏。

 また、これまで最も印象に残った米版『SASUKE』の場面も聞くと、2014年にケイシー・カタンザロさんが女性選手で初めて予選を完全制覇したことを挙げた。それ以降、女性の参加者も増え、新たなスター選手が番組から次々と誕生している。そのひとりのであるジェシー・グラフさんは今回の日本第37回大会にも出場する注目選手のひとりである。

 最後に日本人に向けてメッセージを求めると、「選手生活を終えて、こんなに長く続いた仕事は私自身初めて。『SASUKE』から多くのことを学ばせてもらっています。感謝の気持ちでいっぱいです」と答えた。その言葉からアクバル・グバハビアミラ氏自身も番組ファンのひとりであることが伝わってくる。番組の世界人気もそんな支え合いによって続き、番組の魅力である「助け合う」精神がそのまま反映されているのではないか。

Copyright : (c) David Becker / NBC | 2016 NBCUniversal Media, LLC(画面トップ)

TBS提供(アクバル・グバハビアミラ氏1枚目)/筆者撮影(アクバル・グバハビアミラ氏2枚目)

テレビ業界ジャーナリスト

1975年生まれ。放送ジャーナル社取締役。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、テレビビジネスの仕組みについて独自の視点で解説した執筆記事多数。得意分野は番組コンテンツの海外流通ビジネス。仏カンヌの番組見本市MIP取材を約10年続け、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動。業界で権威あるATP賞テレビグランプリの総務大臣賞審査員や、業界セミナー講師、行政支援プロジェクトのファシリテーターも務める。著書に「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)、「放送コンテンツの海外展開―デジタル変革期におけるパラダイム」(共著、中央経済社)。

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