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“作品に爪痕を残す”女優・趣里、夢破れ…葛藤した日々

長谷川まさ子フリーアナウンサー/芸能リポーター
数々の舞台やドラマでも注目の趣里さん

 “作品に爪痕を残す”と注目される女優・趣里(しゅり=28)さん。数々の名だたる演出家の舞台を経験する一方で、ドラマ「リバース」や「ブラックペアン」でも特徴ある役柄を演じ、話題になりました。映画「生きてるだけで、愛。」に主演する趣里さんですが、女優になるまでには多くの葛藤があったとか。役柄に見る感情的な一面を想像しながら、その素顔に迫ってみました!

―今回の作品の関根光才監督が「趣里さんが主人公(寧子)に感情移入していて“絶対に自分が演じたい”という熱意を持っていた」と話していましたが、どの部分に感情移入しましたか?

 純粋に、台本の持つエネルギーに惹かれたというのもありましたが、寧子って、外から見たらちょっとエキセントリックで近寄りたくないなと思うけど、ちゃんと彼女の中にも葛藤があって、自分でも分かっていて、必死に前に前に生きようとしている。そんな寧子のことを放っておけないという気持ちになったんです。そういう経験って誰しもありますよね、何か壁にぶつかることって。その時の状態とか気持ちが重なる部分もあって、寧子を通して自分の経験が思い出されたところもありましたし、自分と向き合う時間も多かったです。

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―「生きてるだけで、疲れる」という言葉も出てきますが、そんな経験はありますか?

 たくさんありますよ。思春期の“そういう感情”ってありますよね。コンプレックスもたくさんありますし、「もう疲れた。もう、やだやだやだ」ってなることもあります。あんまりそうは見られないんですけど、私って結構ネガティブなんですよ。だから悩みがちですし。

 一番のそういう経験は、4歳からバレエをしていて、17歳で脚をケガしてしまったこと。自分の身体は自分が一番分かるので、これはもう無理かなって感じたんです。そうなってくると、バレエで生活したいなと思っていたのに、それが全てなくなってしまって「これからどうやって生きていけばいいんだろう…」という時期がありました。なんか覚えていないくらいの毎日を過ごしていましたね。とはいえ、「生きていかなきゃいけない。みんなはどうやって立ち直っているんだろう」って思っていました。

―今回の役は、エキセントリックという意味でも相当大変だったと思いますが、趣里さんは役がすぐに抜ける方ですか?それとも引きずってしまう方?

 私は、カメラの前を離れるとすぐに抜けるタイプで、家に帰ってまでも…ということはないです。今回はもうちょっと役柄に引っ張られるかなと思ったんですけど、スタッフさんもケアしてくださったし、関根監督を信頼していたので、現場では全てを委ねてやりきるという感じでした。

 撮影の合間は、共演者の菅田(将暉)くんがボクシングのミットとグローブを持って来てくれたりしたので、教えてもらいながら身体を動かしたり、お返しに私がストレッチを教えたり、ONとOFFのメリハリがよかったので、集中できたのかもしれません。もし寧子に引っ張られていたら、生活がままならなくなっていましたね。

―そもそも女優意識が芽生えたのは、いつ頃、どんなきっかけですか?

 バレエをあきらめた時、どうしていいか分からなくなって、周りを見ると同世代の人は大学に通っていました。私もそれにならって高卒認定を取って受験して、とりあえず大学に入ったんです。その時に「将来何になろう?」「英語を活かした職業?」とか、いろいろ考えました。

 でも、思い返してみると、小さい時から映画とか舞台とかを観て、その世界にすごく引き込まれる瞬間がありました。つらいことも忘れられた瞬間に、「あー、役者さんって素晴らしい職業だな。私たちの生活に潤いを与えてくれるし、寄り添ってもくれる」と思うようになりました。勇気がいりましたが、バレエで表現するという世界にもいたので、演技のレッスンをしてみようかなと思い、塩屋俊さんの俳優養成所「アクターズクリニック」に行きました。そこでレッスンしてダメだったらやめようと思っていたのですが、塩屋さんは、私のコンプレックスとかを多分見抜いていて、「お前は、お前のままでいいよ」「お前は女優をやった方がいい」ってずっと言ってくれて、背中を押し続けてくれたんです。

 塩屋さんは(2013年に)亡くなってしまったんですが、すごく感謝していますし、塩屋さんに出会っていなければ、もしかしたら女優にはなっていなかったかもしれないです。塩屋さんが気付かせてくれたことは本当に大きいです。

―今、趣里さんは“作品に爪痕を残す女優”と言われていますが、どう感じていますか?

 うれしいですけど、やっぱり「いやいやいや~」って、まだそんな…って思っています。役を通してしゃべることができるっていうのは、すごく私にとってはありがたいことなんです。本当にこの先どうなるかも分からないけど、それでも「お芝居して、お客さまに喜んでもらいたい」という思いはあるので、そこだけですかね。

 大林宣彦監督が、トークショーで「役者さんは絵の具であるべきだ」ということをおっしゃっていて。その言葉にすごく感銘を受けました。作品がキャンバスだとしたら、さまざまな色と混ざり合える人でいたいなっていうのは思います。

―“爪痕”でいうと、ドラマ「リバース」や「ブラックペアン」(共にTBS系)を挙げられることが多いと思うのですが。

 ありがたいですね。寧子もそうなんですけど、そうして挙げていただける役って、どれもちょっと変わっているキャラクターだったりするんですが、それぞれの役なりに理由があってそうなるっていうことが見つけられて演じていたので、そう言っていただけることはうれしいです。キャラクターが報われたと思う瞬間でもあるので、「いやいやいや~」って思いながらも、楽しんでもらえていたら、やっぱりうれしいです。

―“作品に爪痕を残してやろう”…みたいな意識はありますか?

 ないです、ないです!“残してやろう”なんて、そんな(笑)。私は本当に「お芝居させていただいてありがとうございます」という感じです。もしかしたら、そんな風に(爪痕を残してやろうと)思えたら楽なんだろうなと思う時もあるんですけど、“自分が、自分が”みたいなのは性格的にできないです。“気にしぃ”ですし、「自分にできることを精いっぱいやらせていただきます」という感じです。

―先日舞台も拝見しましたが、今の趣里さんがあるのは、舞台で鍛えられたから…というところもありますか?

 舞台もたくさんやらせていただいて、いろんな演出家の方がいて、進め方も全く違うし、海外戯曲もあれば日本の戯曲もあって、オリジナルもある。なかなか台本が上がってこなくて初日1週間前で切羽詰まる時もあったり、すごく精神的に鍛えられましたね。それを1ヵ月~2ヵ月やっていくというのは、いろいろな筋力が鍛えられたというのは実感しています。

 今年7月の舞台「マクガワン・トリロジー」の演出家・小川絵梨子さんとの出会いも大きかったです。「自分でいること。嘘をつかない」ということを身につけました。すごく厳しいですけれど、鍛えられました。厳しいのが好きなのかもしれないですね。

―趣里さんって、声もすごく武器になっているかと。

 えっ、そうですか。「変な声」とも言われていますけど、自分では分からないです。ハスキーっぽいので、よく「スナックのママみたい」「『いらっしゃい』って言ってみて」みたいなことは、バレエの先生からも言われていましたから、子供の頃からこの声なんでしょうね。最近は、より舞台で鍛えられて大きな声も出るようになったので、「集合!」みたいな号令をかける時は役立つかなと思います。

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―エキセントリックな役が多い趣里さんですけど、普段は全然違いますよね。

 あ、ありがとうございます。そうですね、そうだと思います。「第一印象と違うね」って言われます。「雀荘にいそう」とか言われたり。「それってどういうことでしょうか」って思うんですけど(笑)。実際の私は、人の顔色をうかがってしまうし、心配性だし、迷うこととか悩むことも多いんです。かと思えば、「えい、もうしょうがないなぁ」で切り替えることもあったり、行ったり来たりしています。

 私は午(うま)年生まれなのですが、午年って結構繊細だって、この間、お友達に言われたんです(笑)。占いとかも信じてしまうタイプです。寧子じゃないですけれど、自分に振り回されることもありますし、「男っぽいね」って言われることもあったり、自分でもよく分からないです。

―今後女優として、どう進んでいきたいですか?

 最初にお芝居をやるにあたって思ったことなんですけど、観客の皆さんが観てよかったなと思える作品づくりに、全力を出し切って参加していきたいなと思っています。だから「できません」と言うことはなるべく避けたい。やれることがあれば何でもやりたい。…と言いながらも、「この先どうなるか分からない」という恐怖もあります。その連続です。

 やはり一度、いきなりバレエでの夢を失ってしまったという経験があるので、「今こうやってお仕事をできていることが当たり前じゃないんだぞ」というのを常に感じていたいし、実際、未来が楽しみでありつつ、でもどうなるのかなという恐怖もあり…という毎日です。

―“個性派女優”の立ち位置でいいですか?

 ありがたいです。人って1人1人違って、美しい人もかわいい人もいて、いろいろなタイプの人がいますから、その中で「個性派」って言われることはうれしいですし、「何か作品のスパイスになれることがあればいいな」と思っています。作品にスパイスを与えられるような立ち位置っていうのは、自分でやっていても楽しいですね。

 一口にエキセントリックな役と言っても、今回の寧子役のように鬱(うつ)状態で過眠症の「なるほどこっちなのね」ってタイプもあれば、逆にパワフルに振り切れているタイプもあります。その人たちなりのアプローチや葛藤があるから、その人生を生きている時は、とても楽しいです。

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(撮影:長谷川まさ子)

【インタビュー後記】

ドラマ「ブラックペアン」で趣里さんが演じた看護師“ねこちゃん”は、口数が多いわけでもないのに、その存在だけで話題となったし、なんなら私は、それまでのねこちゃんのキャリアや人生までも知りたいと思った。今回インタビューをさせてもらい、そう思った理由が分かったような気がした。趣里さんのスパイスで、その役の人物が実際に存在するかのような錯覚に陥ってしまうからではないだろうか。次はどんな色と混ざり合い、どんな人の人生をどんな形で見せてくれるのだろう。楽しみでしかない。

■趣里(しゅり)

1990年9月21日生まれ、東京都出身。2011年に女優デビュー。NHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」、TBS系「リバース」、「ブラックペアン」での演技で注目を集めたほか、舞台では赤堀雅秋氏、栗山民也氏、串田和美氏、ケラリーノ・サンドロヴィッチ氏、小川絵梨子氏といった、幅広い演出家の手がける作品に出演。近年の映画作品は、「過ちスクランブル」(2017年)、「勝手にふるえてろ」(2017年)など。現在はテレビ朝日系「僕とシッポと神楽坂」に出演中。11月9日からは主演映画「生きてるだけで、愛。」が全国公開となる。

フリーアナウンサー/芸能リポーター

群馬県生まれ。大学在学中にTBS緑山塾で学び、TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」で7年間アシスタントを務める。ワイドショーリポーター歴はTBS「3時にあいましょう」から30年以上、皇室から事件、芸能まで全てのジャンルをリポートしてきた。現在は芸能を専門とし、フジテレビ「ワイドナショー」、日本テレビ「情報ライブ ミヤネ屋」ほか、静岡・名古屋・大阪・福岡の番組で芸能情報を伝える。趣味は舞台鑑賞。

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