Yahoo!ニュース

ヘビーユーザーを規制してもヘイトが減らないヤフコメという場

韓東賢日本映画大学教員(社会学)
(写真:アフロ)

「コリアン」に的を絞った調査

Yahoo!ニュースのコメント欄について、立教大の木村忠正教授とYahoo!ニュースが共同で分析した結果が報じられた。嫌韓・嫌中の言説がはびこる現状が浮かびあがるとともに、「1週間で100回以上コメントを投稿した人が全体の1%いた。この1%の人たちの投稿で全体のコメントの20%が形成されていた」という事実が注目されている。

一見、この1%について対策すれば現状が改善されるのではないかと思える。だが、Yahoo!ニュースの場合、そう一筋縄ではいかないという分析結果もある。

立教大学で木村教授と同じ研究グループに所属するチョウ・キョンホ氏の「インターネット上におけるコリアンに対するレイシズムと対策の効果」(『応用社会学研究』2017年第59号)は、同じルートで入手した別の期間のデータを利用し、とくにコリアンに関するコメントに的を絞った分析を行った。

その結論は、大量に投稿する一部のヘビーユーザーがヘイトスピーチの常連であることは間違いないが、そのような大量投稿者のヘイトコメントのうちの少なくないものはすでに運営側によって削除されているのが現状で、ヘビーユーザーを中心とした対策には、効果があまりないというものだ。

全体の8.3%、常連の15%は削除

2016年7月の2週間に配信された76,012件のニュース記事と245,536人による3,129,588件のコメントを分析した同論文ではまず、「コリアンに関するコメント」として、コメント本文に「在日」「韓国人」「朝鮮人」「チョン」のいずれかを含むものを抽出した(35,834件、投稿者は11,496人)。

ここでもコメントの25%は全投稿者の1%にすぎない114人の投稿者によって投稿されていた。だがこの論文において重要なのは、コリアンに関する悪質なコメントへの対策の効果が分析されていることだ。

Yahoo!ニュースのコメント欄においては、「禁止語」使用などの理由から運営側が削除の判定をし、実際に削除しているが、コリアンに関するコメントについてみると、全体の8.3%が削除されている。

また前述したように投稿コメント数が投稿者によって大きく偏っているため、同論文では1人当たりコメントが多い層から「最上位1/4」「上位1/4」「下位1/4」「最下位1/4」にわけて分析しているのだが、この層別に見ると、「最上位1/4」の削除率が他の層に比べて15%と著しく高い(とくにこの層の「侮辱語」コードに該当するコメントの削除率は22.2%にのぼる)。

ライト層もコリアンには否定的

だがYahoo!ニュースのコメント欄では、「そう思う」の赤ポチがつくほど上に表示され、閲覧者の目に触れる。「そう思う」がつくのは、先の層別で見ると「最下位1/4」「下位1/4」「上位1/4」「最上位1/4」の順だ。つまり、ライトユーザーのコメントほど多くの人々の賛同を得て、人々の目に触れていることになり、ヘビーユーザーのヘイトコメントは仮に削除されなくても人目につかない。

なお、コリアンに関するコメントのうち1,000ケースを無作為抽出し、当該コメント内容のコリアンに対する態度をポジティブ、ニュートラル、ネガティブの3タイプに分類したところ、ネガティブな態度を示すものが9割近くにのぼる一方で、ポジティブな態度を示すものはきわめて低かった。

先ほどの層別に見ても、「最下位1/4」のライトユーザーであってもネガティブが77.7%という高い数字で、ポジティブは0.7%にすぎない(ちなみに「最上位1/4」のネガティブは94.9%。下位に行くほど下がってはいく)。

つまり、ヘビーユーザーの悪質なコメントをいくら削除しても、ライトユーザーが広くコリアンへのネガティブな態度を共有している限り、効果的な対策を探るのが困難なのが現状だ。

民間、そして国や行政も対策を

被害当事者でもある筆者の立場からすると、ライトユーザーこそが元凶だという指摘には暗い気持ちにならざるをえない。だが同論文によれば「コリアンに関するコメント」の8.3%、ヘビーユーザーについては15%が削除されているのだから、運営側がただ手をこまねいているわけではないのはわかる。何よりも、専門家らとこのような共同研究を実施していること自体が、対応に苦心していることの証左だろう。

来月、ヘイトスピーチ解消法成立から1年を迎える。法務省の調査でも、ネット上の差別がコリアンなどのオールドカマー外国人に集中しているという結果が出ている。Yahoo!をはじめとしたネットメディアにはさらなる研究と対策を期待しつつ、国や行政によるより抜本的な施策を求めていきたい。

日本映画大学教員(社会学)

ハン・トンヒョン 1968年東京生まれ。専門はネイションとエスニシティ、マイノリティ・マジョリティの関係やアイデンティティ、差別の問題など。主なフィールドは在日コリアンのことを中心に日本の多文化状況。韓国エンタメにも関心。著書に『チマ・チョゴリ制服の民族誌(エスノグラフィ)』(双風舎,2006.電子版はPitch Communications,2015)、共著に『ポリティカル・コレクトネスからどこへ』(2022,有斐閣)、『韓国映画・ドラマ──わたしたちのおしゃべりの記録 2014~2020』(2021,駒草出版)、『平成史【完全版】』(河出書房新社,2019)など。

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