誰かを教えたり支援したりするとき、「この人はこういうやり方が合う」「この人はこういうやり方は合わない」といったことがあるのではないでしょうか。それぞれ個性があって、いろいろな理解(インプット)の仕方、表現・行動(アウトプット)の仕方があります。たとえば説明。文字だとわかりやすい人、データを示すとわかりやすい人、絵に描くとわかりやすい人、先にやらせてみるとわかりやすい人などいろいろです。この“いろいろ”をつかむと、コミュニケーションがとりやすくなります。

頭の使い方からみたいろいろ

理解や表現、行動の “いろいろ”をとらえるにはどんな見方があるのか。

見方の一つに、多重知能理論(Multiple Intelligences: MI)という考えがあります。知能は、かなり大雑把にいえば「頭を使って問題を解決する能力」というようなことです。多重は「いくつも」という意味でつかわれています。たとえば人の大きさを例に考えると、ものさしが身長だけの場合、170cmの人はみんな同じ大きさです。でも、体重というものさしを一つ増やすと、同じ170cmでも60kgの人と80kgの人は違うことがわかります。

MIの提唱者ハワード・ガードナーは、知能をはかるものさしを1つから7つに増やしました(のちにさらに増加)。そうすることで頭の使い方をいろいろな点から評価することが可能となり、単に「優れているかどうか」ではなく「どの点が優れているか」という見方ができるようになりました。この見方は、その人なりの「上手く頭を使えている」分野をみつけ、その人の力をより引き出し発揮しやすくするサポートへつながります。

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MIを参考に人を観察してみると、その人のインプットやアウトプットの“いろいろ”な特徴が見えてきます。たとえば教えるとき、あなたが論理知能の強い人なら、データを使った合理的な説明が多くなるでしょう。しかし聞く人の論理知能があまり強くなければ、むしろ伝わりにくくなるかもしれません。その場合「相手の理解力が低かった」という解釈ではなく「チャンネルが合わなかった」と捉えると、こちらの伝え方を調整することもできます。

MIをチャンネルとして考えてみると、人にはいろいろなチャンネルがあることがわかります。言葉、データ、絵、音などできるだけいろいろなチャンネルから働きかけた方が、こちらも伝えやすいですし、相手も消化し行動にうつしやすそうです。これは、プレゼンテーションの基本としてよくいわれることでもありますね。

頭が良いか悪いか→どの点が良いか

ガードナーは知能を「その文化のなかで価値のある問題を解決したり、なにかを創造したりするのに役立つ能力」と考えました。この考えによれば運動や絵、楽器などで人を喜ばせたり感動させたりする人たちは、それぞれ知能を発揮しているということになります。こうした見方の変化は、人の強みを見つけるという点で、画期的なことだと思います。

もちろん、「分け方が主観的」、「客観的に測定する方法が確立されていない」といった批判はあります。先ほどものさしにたとえましたが、実際にはものさしのように客観的にはかる手段は少なく、観察して探すのが基本とされます。

しかし批判を差し引いても、「どんな人も何らかの点で優れている」という考えは魅力的に感じられます。実際、発達障がいの方を支援しはじめたころの未熟な私(今でも未熟ですが)は「この人たちの強みがみつけられない」と思うことがよくあり、「それでも確かに強みはある」という考えに勇気づけられました。

人とお会いするとき、「この人のMIはなんだろう?」とか「この人のチャンネルにどう合わせていけばよりわかってもらえるか」と考えてみることにしています。MIというメガネをかけて見てみると、人の“いろいろ”が少しはっきり見えてくる気がしています。

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参考にした主な文献

・MI:個性を生かす多重知能理論 ハワード・ガードナー著 新曜社

・発達障害の子どもたち 山崎晃資著 講談社

・実践知 金井壽宏/楠見孝編 有斐閣