スノーボードから生まれたイノベーション、「BONX」は次のGoProになるのか

"ヒアラブル" IoTデバイスのBONXと宮坂CEO

「GoProの創業者はサーファーだった」というのは有名な話だ。Nick Woodmanは、自身がサーフィンをする中で、アクションスポーツの中に潜むニーズを発掘し、「アクションカメラ」という新しい市場を創り、スポーツの世界にイノベーションを起こした。

スポーツをしながら誰とでも会話できるIoTデバイス「BONX」を発明した宮坂貴大は、大学生活の大部分をスノーボードに費やした生粋のスノーボーダーであり、ゲレンデで「滑りながら話す」ニーズの存在に気づき、BONXを創業した。

2014年の立ち上げから2年、昨年12月に一般発売を開始。世界的なウィンタースポーツ系展示会である「SIA Snow Show」や「ISPO」への出展、プロスノーボーダーの集う「天神バンクドスラローム」でのコラボ、「みやじま国際パワートライアスロン大会」のイベント運営に使用されるなどスポーツの現場に入り込んで、繰り返しフィールドテストをしてプロダクトを磨いてきた。

今月7月20日、BONXはグローバル展開を本格化させることを発表。日本ではゼビオグループなど、大手スポーツ量販店で販売が決定している中、北米でもセールスチームを形成するなど、一気に海外市場での成長を図る。

ファウンダーで、CEOの宮坂貴大がスノーボーダーだからこそ気づいたニーズを、長い試行錯誤を経て形にしたBONXは、イノベーションを起こすときにカルチャーの中に深く入り込むことの大切さを教えてくれる。プロダクトが生まれるまでのストーリーと、これからのBONXについて宮坂本人に聞いた。

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宮坂貴大(みやさか・たかひろ)

株式会社BONX 代表取締役CEO

新卒で入社したボストンコンサルティンググループにてハイテク領域・消費材領域のプロジェクトに3年半従事。その後BONXのアイデアを思いついて起業し、CEO就任。東京大学には8年間通ったが、そのうち4年間はスノーボード中心の生活で、北半球・南半球を往復する。一応文化人類学的なことも勉強する。三児の父。

趣味:スノーボード、スケートボード、サーフィン、畑、魚突き、山歩き、バスケットボール

白馬のスキー場で遭遇したGoPro社員からのアドバイス

後藤:長野県の白馬村で、GoProの社員の方とたまたま一緒に過ごしたことが、BONX創業のきっかけの一つになっていると聞きました。どんな出会いだったんですか

宮坂:白馬に、コルチナスキー場っていうスキー場があって、そこでスノーボードをしていたとき、一緒に滑っていた友人が近くにいた外国人を指差して「あの人、GoProの社員だ。昨日の夜、バーのイベントで会った。」って言ったんです。その友だちは英語が得意じゃなかったので、僕が話しかけて、一緒に滑ることになって、晩ごはんを一緒に食べて、帰りも東京までクルマで送ってあげたんですよね。

後藤:どんな話をしたんですか?

宮坂:僕はその当時、前職のコンサルティング会社で働いていて、起業についてもまだいろんなアイデアを出している段階でした。ただ、GoProがCEOのNick Woodman本人がサーファーだったから、自分自身のアスリートとしてのインサイトに気づいてアクションカメラを発明した、というストーリーはよく知っていて、ずっと「GoProみたいな製品を作りたい」と思ってたんです。白馬に行く直前にも、GoProのことをリサーチしていたり。

後藤:そしたら、たまたまGoProの人が白馬にいたと。

宮坂:そうなんです。GoProみたいなことをやりたいと考えてたら、白馬でGoProの社員に出会って、根掘り葉掘り聞くことができた。彼と一緒にいる間は、「GoProの社員は本当にエクストリームスポーツが好きなのか」とか、 色んな会話をしましたね。

実はそのあと、カリフォルニアのサンマテオにあるGoProの本社に行って、彼に会社を案内してもらったり、彼の家にご飯を食べに行ったり、個人的に今も繋がっています。BONXの創業にあたってもいろいろとアドバイスをもらいました。GoProがいかに競合と差別化して今の地位を築いたか、GoProがかなり早い時期からインフルエンサーに使ってもらってマーケティングをしたか、とか、ブランドイメージを守ったまま順序正しくチャネルやマーケットを抑えていくやり方、とか。

もう一つはリテール。日本のスタートアップでリテールマーケティングの重要性が語られることはそう多くないと思うのですが、いかにリテール従業員の教育が大事か、といった話も聞けました。

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まだ誰も気づいていない「瞬間の空気感を伝える」ニーズ

後藤:「BONXが生み出す新しいコミュニケーションや体験」は、アクションスポーツをやっている人ならなんとなく想像できるかもしれませんが、あまりスポーツに馴染みのない生活者にはどのように説明するのが良いのでしょうか?

宮坂:コミュニケーションは、前提として「伝えたい何か」がもやっと生まれた時に起こりますよね。その「伝えたい何か」が発生したとき、それを伝える手段があれば伝えるし、伝える手段がないと消えていく。例えば人に伝えるメールや電話を使う時もあれば、手元に日記として記録しておく場合もある。人間にとって、自分が考えていたことはとても重要なので、人に伝えたり、残したりする手段はどの時代にもありますが、テクノロジーと共に変わっていっています。紙に記録を残すところから、ツイッターでつぶやくことまで。

でも、例えば、誰かと自転車でツーリングをしている最中に、すごい坂道が目の前に現れた瞬間とか、めちゃくちゃ高い崖が見えたときとか、たまたま胃腸の調子が悪くなって「めっちゃ腹痛い」って思ったとき、誰かに伝える手段って無いんですよね。

どういうことかと言うと、友だちと一緒に自転車でツーリングしているときとか、誰かと何かにチャレンジしている時、すごい場所にいる時、今、後藤さんと話をしているこの瞬間も、誰かと共有しているある意味特殊な「場」が形成されているんです。その空気感や雰囲気を、声を使って、どんな瞬間でもリアルタイムかつ双方向で共有出来るのが、BONXのテクノロジーです。

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後藤:国内外でいろんなIoTデバイスが溢れていますが、BONXならではの、他には無い可能性や強みはあるんでしょうか?

宮坂:今年はデンバーで開催される北米で一番大きいウィンタースポーツ系の展示会「SIA Snow Show」、ドイツと上海で毎年開催される「ISPO」という世界最大のスポーツ用品の展示会、テキサス・オースティンであったテクノロジースタートアップと音楽の祭典サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)など、いろんなところでBONXを見せて来ました。

それらを踏まえて一番感じたのは「意外と誰もやっていない」ということ。

理由は2つあると思っていて、ひとつは、みんな電話とかSkype、LINEで事足りると考えていること。もう一つの理由は、ニーズに気づいたとしても、プロダクトを作る難易度が高いことです。BONXは機能はシンプルですが、屋外で、スポーツをしながら高音質かつ遅延が発生しないコミュニケーションを実現するには、技術のすり合わせがかなり難しい。雑音を排除して、会話の音だけを拾ってBONXの端末・スマホ・サーバーと音声を処理して……。きちんと設計するはマジで大変なんですよ。大変だった。いや、大変です、まだ。

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後藤:プロダクトを出すまでにどのくらいかかったんですか?

宮坂:最初のプロダクトを出すまでに1年ちょっと。それからクラウドファウンディングを開始して、そこからリリースまでにもう1年改善したので、計2年強が必要でしたね。

後藤:GoProはものすごい勢いで成長しましたが、今は中国などで安価な模倣品がかなり多く出回っている印象があります。BONXも、プロダクトとして真似されてしまう懸念があるのかな、と思ったりしますが。

宮坂:簡単には模倣されにくいと思っています。技術特許はもちろん取ってますし、何より、GoProのテクノロジーがハードウェア寄りなのに対して、BONXはソフトウェア寄りなんです。なので、分解して調べられたとしても、ソースコードを取られない限りは真似出来ないと思います。

後藤:競合はいるんでしょうか?

宮坂:スポーツをしている仲間とコミュニケーションを取る、という同じコンセプトの機能をBluetoothで実現しているプロダクトがあります。BONXが携帯の電波を使っているのに対して、Bluetoothの強みは携帯の電波に依存しないことで、山奥のバックカントリーの環境でもコミュニケーションが出来る。一方で、BONXだと電波が通じるところであればどれだけ離れていても大丈夫で、人数も何人でも大丈夫ですが、Bluetoothだと1kmくらいが限界で、人数も3人くらいになってしまいます。

最も重要な違いは、BONXはアプリに機能を足していけばスポーツ以外の用途にも使えるプロダクトになるのに対して、Bluetoothのデバイスだと、機能の追加ができないので、スポーツをしている時のコミュニケーションという、ある意味「ニッチな」用途に限られたプロダクトになってしまうところです。

後藤:BONXは最初から、スポーツ以外の用途まで見越した製品だったんですか?

宮坂:起業家としてのビジネス視点では、様々なスポーツジャンルをまたがることはもちろん、業務用でも当然使えるだろうと考えていました。GoProも、アクションスポーツで使えるくらい頑丈なプロダクトだったから、月面探査から深海探査までいろいろなシーンで使われていますよね。BONXも同様に、プロダクトを作り込んでいけば、今世の中でトランシーバーを使っているシーンであれば、それをリプレースできるのではないかと考えています。

実際、事業を始める時にBONXみたいなプロダクトにニーズがあるかどうか調べるために、たくさんのスノーボーダーにヒアリングしましたが、一般のスノーボーダーよりも、普段からトランシーバーをよく使っていて、その使いにくさを良く知っているプロのスノーボーダーのほうが「超いいじゃん」と最初から好意的な反応を示してくれました。

今後はスマートフォンの位置情報を使ったり、録音出来る機能、動画やビデオを音声に混ぜたコミュニケーションなど、機能を拡張して、みんなに使ってもらえるプロダクトにしたいですね。BONXをスタンダードなものにして、スノーボーダーが「ゴーグル忘れた、やばい」って思うのと同じような感じで、「BONX持ってくるの忘れた、今日は不便だな」となるように出来たら良いですね。

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「遊びを遊び尽くす」ためのテクノロジー

後藤:テクノロジーの進化で、新しい遊び方とかスポーツが生まれることがあると思ってます。例えば、ドローンが普及してきて競争させる人が出てきたから「ドローンレース」っていうスポーツが生まれた。

BONXをみんなが使うようになったらどんな新しい遊びが生まれると思いますか?

宮坂:自分たちが当初想像していなかった使い方をユーザーさんが教えてくれることが多いです。

例えば釣りでBONXを使うと面白い、ということはユーザーに教えてもらいました。釣りって開始すると、意外とコミュニケーションが出来ないんですよね。BONXを使えば、少し離れた場所で各々が自分の好きな場所で釣りをしていても「調子はどうだ」とか話せます。カヤックやSUP(スタンドアップパドル)に乗って釣りをするのも流行ってきていますが、そういったシーンでも使えます。

あとは、グループで走る時にも使うと楽しいです。早い人も遅い人も自分のペースで走れるけど、話しながらみんなで走っている感覚は共有できる。

家にいる嫁とBONXをつけて、話しながら走ればちょっと楽しくなったりします。(笑)僕も実際この前、四万十川沿いを自転車で漕ぎながら街にいる嫁とBONXで話しました。

旦那が趣味のアウトドアスポーツに出かけるときって、嫁の知らないところでやってるから不満が溜まるんですよね。会話しながらやれば奥さんも一緒に活動してるように感じられて、理解も得られるんじゃないですかね。

BONXは「遊びを遊び尽くせ」っていうブランドコンセプトを掲げています。スノーボードにBONXがあるとより楽しくなるのはもちろんのこと、それこそ街中の鬼ごっこでさえも楽しくなる。是非ユーザーの皆さんに、新しい遊び方をたくさん発見して欲しいですね。

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冒険心と起業家精神

後藤:僕も、スケボー・BMX・スノーボードなど、ストリートスポーツ界隈のアスリートにいろいろ話を聞いてきましたが、「誰もやったことのないことに挑戦する」とか、「人と違うことをやるのがカッコいい」というマインドに溢れていて、起業家精神と通ずるものがあると思っています。

スノーボーダーであり、起業家である宮坂さんには日本のストリートスポーツとか、スタートアップ界隈の人たちはどう映っていますか?

宮坂:僕がやってたスノーボードは、着地に失敗したら死んでしまうかもしれないくらい大きなジャンプをすることもあります。死ぬかもしれないシチュエーションに毎日向き合っているという意味では、普通のメンタリティとはまず違うし、起業家精神と近いものがあると言えるかもしれません。

ストリートスポーツとは少し違いますが、僕が影響を受けた本に、南極大陸を犬ぞりで横断した植村直己さんの『青春を山に賭けて』とか、日本のカヌーイストの草分け的存在であり、エッセイストでもある野田知佑さんの『少年記』があります。野田さんのエッセイには周りが大学に入って、普通に就職していくなか、自分は好きなカヌーで生きていく選択をする葛藤が描かれていたりします。僕もスノーボードをずっとやっていくか、企業で働くか、葛藤した時期があったので、共感できる部分があって。

先日、ある起業家の先輩が「起業家は特殊な生き物で、『こうじゃないと生きられない何か』を持っていて、希望がないから起業しているんだ」という話をしていたのですが、そういう起業家はいま少なくなってるんじゃないかと思います。もう少し、ストリート的で、冒険家的な起業家が多いほうが、尖ったスタートアップが増えて面白いのに、と思いますね。

ただし難しいのは、起業の世界って学歴とか経歴とか、「ソーシャルキャピタル」と呼ばれる社会的要素がものを言う世界でもあるんですよね。僕はたまたますごくラッキーで、大学とかコンサルティング会社で視野を広げる機会があって、その上にスノーボードのカルチャーにどっぷり浸かって打ち込んだ4年間があったんですけど、カルチャーとビジネスの両方をバランスよく持ってる人というのは、少ないかもしれませんね。

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自分ごとにしないと、新しい事業やサービスは作れない

後藤:GoProはサーフィンのカルチャーから「自分のアクションを動画で残す」というニーズを、BONXはスノーボードのカルチャーの中にあった「誰かと共有している場の空気をリアルタイムで共有する」というニーズを掘り起こしています。

企業で「新規事業」と言うとき、潜在マーケットサイズの議論ばかりになってしまうことが少なくないと思います。カルチャーの中に確実に存在するけど、その外側の人には見えないインサイトを中に入って掘り起こすというのは、新しい事業を創り出す時に重要な考え方だなと思いました。

宮坂:新しい事業を作るのは相当大変なことです。死ぬほど面倒くさいことが次から次へと発生するなかで、やり抜くにはかなりのパッションや執着心が必要になる。こうした気持ちは「自分ごと」でしか生まれないはずなんです。自分が「こんなものを使いたい」「こんなサービスが欲しい」もしくは「顔が見えるあの人が助かるようなものを作りたい」と強く思わないとそういうパッションを持ち続けるのはかなりしんどくなるんじゃないですかね。

自分が必ずしもユーザーじゃないときはあると思うので、そのときはユーザーの近くに行く。僕も事業を始めるときには、潜在的なBONXのニーズについて、スキー・スノーボードをやっている人たちにヒアリングして回りました。

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自分がカルチャーの中の人間で、そういう本気のパッションを持ってるかどうかは相手にもすぐに勘付かれます。例えば「トランシーバーをリプレースする」という事業のゴールイメージを持って、市場規模がそこそこ大きそうだからという理由で参入してきた、スノーボードにはなんの興味もない企業があったとします。そういうよそ者には基本的にスノーボーダーの人たちは協力してくれないです。

実はBONXも最初はスノーボードカルチャーの中の人たちからそういうふうに受け止められることも少なくなかった。でも、「天神バンクドスラローム」っていう群馬県のスキー場でやったイベントで、BONXで拾ったプロスノーボーダーの声をスピーカーで流して、滑りながらMCと掛け合いをしてもらうっていう取り組みにトライして、イベントを盛り上げたりとか、カルチャーの中の人ときちんとコミュニケーションをしてプロダクトを作っているところを見てもらうことで、ちょっとづつ理解してもらえるようになってきました。最近では、大手スノーボードメーカーを辞めて入社してくれた人もいるんですよ。

スキー・スノーボード・スケボー以外にも、自転車、釣りなど、いくつかBONXのキーマーケットとなるカルチャーがあることが見えてきました。今はそこにしっかり入って、カルチャーい根付いたプロダクト、ブランドを作っていきたいですね。

Content fromCOTAS| Photos by Naomi Circus