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離婚したい相手をネットで誹謗中傷することのリスクは?弁護士が解説

後藤千絵フェリーチェ法律事務所 弁護士
(写真:イメージマート)

1 はじめに

最近芸能ニュースなどでもよく見かけますが、離婚が成立する前に、ネットで相手を誹謗中傷したり、周囲の人に相手を貶めるようなことを言いふらしたり、またはSNSに投稿したりする人が増えてきています。

写真:イメージマート

例えば、配偶者が不倫していた場合―。

離婚前でも配偶者や不倫相手に慰謝料を請求することは可能です。

そして、配偶者が不倫をしていたのが事実であるのならば、民法上の共同不法行為が成立し、配偶者や不倫相手は慰謝料を支払う義務が生じます。

ただ、いくら憤りを感じたとしても、当事者以外の第三者に不倫の事実を言いふらしたり、ネット上に書き込んだりすることは、それとは全く別の問題です。

相手を誹謗中傷することは、それなりのリスクがあり、最悪の場合には刑事罰も覚悟する必要があるのです。

では、離婚が成立する前に、相手を誹謗中傷するとどんなリスクがあるのでしょうか?

今回は、相手を誹謗中傷することに伴うリスクについて解説します。

2 離婚前に相手を誹謗中傷するリスク

私は兵庫県西宮市で家事事件を主に扱っている法律事務所を経営する弁護士ですが、最近扱った離婚事件では、別居中の夫が、夫婦共通の知人や妻のママ友らに、相談と称して妻を貶めるような内容のメールや電話をしていたケースがありました。

写真:イメージマート

妻の方は、なんとなく周囲の人が冷たくなった気がしていたそうなのですが、ママ友の一人が気の毒に思ったのか、夫が妻の悪口を言いふらしていると教えてくれたそうです。

このことを知った妻は驚愕し、そして激怒しました。

夫は協議離婚を望んでいましたが、妻はとことん争うことを決意し、私の法律事務所に相談に来られたのです。

このように離婚が成立する前に相手を誹謗中傷したりすると、相手の態度を硬化させ、離婚の話がスムーズに進まなくなるリスクがあります。

離婚の種類として、一般に、「協議離婚」「調停離婚」「審判離婚」「裁判離婚」がありますが、割合として最も多いのが「協議離婚」です。

「協議離婚」では、協議に関して双方の親族が同席したり、弁護士を立てて話し合いをしたりすることもありますが、基本的には当事者同士の話し合いで離婚を成立させることができるため、最も簡単でスムーズな方法だと言われています。

写真:アフロ

ところが、離婚前に相手を誹謗中傷する等、相手に不信感を抱かせてしまうと、離婚協議に素直に応じてもらえなくなる可能性が生じてきます。

離婚協議がスムーズにいくかどうかは、相手に不信感をもたせないことが重要です。

夫婦としては破綻していたとしても、人としての信頼感があれば、比較的スムーズに離婚問題を解決することができます。

一方、相手との信頼関係がなくなれば、財産分与についての協議でも、「もっと財産はあるのではないか?」「財産を隠しているのではないか」などといらぬ詮索をされることにもなりかねません。

また、相手を誹謗中傷したという事実は、協議離婚のみならず、離婚調停や離婚訴訟で不利に働く可能性があります。

いくら相手に対して言いたいことが山のようにあったとしても、一方的に誹謗中傷したり、ましてやネット上で悪口を書いて不特定多数の人にプライベートな情報をさらしたりするのは、悪質なルール違反だと言わざるを得ません。

調停委員や裁判官の心証が悪くなることも十分考えられます。

このように離婚前に相手を誹謗中傷することは、離婚そのものを難しくしてしまうリスクがあります。

一時的に気分が晴れるかもしれませんが、メリットは全くないと言っても過言ではないのです。

3 相手を誹謗中傷すると、どのような罪に問われるのか?

写真:アフロ

まず、配偶者を誹謗中傷することは、名誉棄損罪や侮辱罪に該当する可能性があります。

名誉棄損罪と侮辱罪の違いは、「事実」を公表するかどうか。

プライバシーに関わる事実を不特定多数に向けて公表した場合には、仮にその事実が真実であったとしても、名誉棄損罪が成立することがあります。

名誉棄損罪の刑罰は、「3年以下の懲役もしくは禁固または50万円以下の罰金」です。

一方、侮辱罪は、事実を公表せずに、単に「おまえはバカでのろまだ」などと言った場合に成立する可能性があります。

侮辱罪の刑罰は「拘留又は科料」となっています。

名誉棄損罪や侮辱罪以外には、誹謗中傷が相手の社会的信用を害するものであれば、信用棄損罪や業務妨害罪が成立する可能性があります。

これらはいずれも「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」の刑罰となっています。

誹謗中傷に脅迫文言が含まれていれば、脅迫罪が成立する可能性もあります。

4 誹謗中傷をされた場合の対策

写真:イメージマート

最近、特に多くなっているのが、ネット上での誹謗中傷や書き込みです。

配偶者が運営しているブログで誹謗中傷を書き込まれたり、Twitterで悪口を投稿されたり…。

このようなケースに対する対策としては、以下の方法が考えられます。

まず、配偶者から、自分の悪口や個人情報をインターネット上に書き込まれた場合は、法的手段として、大きく分けて、①書き込まれた情報の削除要請、②損害賠償請求という2つの方法があります。

① 削除要請

書き込んだ人物を特定している場合には、その人物に対し、削除要請をすることになります。

ただし、書き込んだ人物が特定できない場合等には、サイトの管理者やサーバーの管理者に対して、書き込みの削除を要請する必要があります。

② 損害賠償請求

書き込んだ人物を発信者情報開示請求により特定し、当該人物により損害賠償請求するという方法があります。

また、最近では、配偶者からのリベンジポルノ(元配偶者が、交際中に撮影した性的な画像を、撮影された人の同意なく、インターネット上で公開する行為)も増加しています。

リベンジポルノに対しては、私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律(通称「リベンジポルノ被害防止法」と言います)が、リベンジポルノなどの行為を処罰するために規定されました。

ただし、被害者の告訴がなければ、加害者を処罰することができない親告罪となっています。

いずれにせよ、心当たりがある方は、早めに弁護士等の専門家に相談することをお勧めします。

フェリーチェ法律事務所 弁護士

京都生まれ。大阪大学文学部卒業後、大手損害保険会社に入社するも、5年で退職。大手予備校での講師職を経て、30歳を過ぎてから法律の道に進むことを決意。派遣社員やアルバイトなどさまざまな職業に就きながら勉強を続け、2008年に弁護士になる。荒木法律事務所を経て、2017年にスタッフ全員が女性であるフェリーチェ法律事務所設立。離婚・DV・慰謝料・財産分与・親権・養育費・面会交流・相続問題など、家族の事案をもっとも得意とする。なかでも、離婚は女性を中心に、年間300件、のべ3,000人の相談に乗っている。

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