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帰省が離婚の引き金に?女性からの離婚調停申立てが男性の3倍近いそのワケを弁護士が解説

後藤千絵フェリーチェ法律事務所 弁護士
(写真:アフロ)

1 はじめに

日本では、「離婚調停」の申立ては女性の方が圧倒的に多くなっています。

離婚調停とは、簡単に言えば、家庭裁判所を介して離婚の話し合いをする手続きです。協議での離婚ができない時に利用されるのが離婚調停で、離婚全体の約1割が調停離婚となっています。

写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

私は家事事件を中心に扱う法律事務所を経営している弁護士ですが、今年、事務所に離婚相談に来られた方も約8割が女性でした。

最高裁判所では毎年、離婚に関する原因別データを開示していますが、このデータによると、令和2年では男性15,500件、女性43,469件と女性の離婚調停申立ては男性の2.8倍となっており、女性からの調停申立てが圧倒的に多くなっています。(※)

令和3年のデータはまだ出ていませんが、現場感覚としては、離婚調停に関しては引き続き女性からの申立てが多い印象です。

これは一体どのような理由によるものなのでしょうか?

2 女性の離婚原因トップ10

まず、令和2年離婚原因別ランキングの女性部門を見てみましょう。

1位「性格の不一致」

2位「生活費を渡さない」

3位「精神的に虐待する」

4位「暴力を振るう」

5位「異性関係」

6位「浪費する」

7位「家庭を捨てて省みない」

8位「性的不調和」

9位「家族の親族と折り合いが悪い」

10位「酒を飲み過ぎる」

女性の離婚申立ての原因の上位は、「性格の不一致」を除くと、「金銭問題」「モラハラ、DV」「異性関係」となっています。

つまり、「金銭問題」「モラハラ、DV」「異性関係」に悩まされるのは、やはり依然として女性の方が多いという現実があるのです。

写真:アフロ

令和2年のコロナ禍の中では結婚や離婚の「先送り」が多く発生し、結婚や離婚の総数は大幅に減少しましたし、離婚申立て自体も減少しました(令和2年度 男性マイナス6.1%、女性マイナス1.3%、合計マイナス2.6%減少)。

その中で、女性の申立て理由2位の「生活費を渡さない」だけが、プラス2.3%と増加しており、金銭問題が深刻化していることは明白です。

写真:Paylessimages/イメージマート

女性の社会進出が進み、出産後も仕事を続ける方が増えているとは言え、子育てなどでフルタイムの仕事がやりづらい環境は改善されていません。

離婚原因で「金銭問題」が圧倒的に多いのは、依然として男性が経済的に家庭を支えている現実があるからでしょう。

また、モラハラ、DVも男女の特性からか男性側に多く、異性関係の問題も社会での異性との接点は男性の方が多いことが原因の一端でしょう。

こうしてみると、そもそも男性は離婚原因を作りやすい環境にあると言えそうです。女性の離婚原因トップ10は、その表れではないでしょうか。

3 女性の離婚申立てが多いもう一つの理由

実は、妻側から離婚調停を申し立てたようなケースでは、離婚自体には双方が合意しているケースもよくあります。

つまり、多くは条件面で納得できないため、調停を申し立てる結果となっているのです。

特に養育費、親権、面会交流などが話し合いでは決着がつかず、やむを得ず調停に進んでいるケースが多く見受けられます。

写真:Paylessimages/イメージマート

そのような場合、当事者間での話し合いよりも、裁判所を介する方が、条件面でメリットのある結果につながりやすいことが、女性からの申立てが多い理由の一つです。

例えば若い夫婦であれば、財産分与すべき金額も多くはないため、主たる争点は子供がいる場合の養育費の額や終期となります。

養育費の終期を20歳までとするのか、大学卒業までとするのか、養育費以外の学費の負担はどうするのかなど、離婚するにあたり個別に決めるべきことは数多くあります。

一方、子育てが終わった世代では、財産分与が争点となるケースが多いです。

写真:アフロ

財産を夫側が管理していたような場合は、妻側が「こんなに少ないはずがない!夫は財産をどこかに隠しているのでは?」と疑心暗鬼に陥るケースもあり、調停や審判など裁判所を介することで、財産分与の額を明らかにしたいと考えるのです。

このように女性からの申立てが多い背景には、「財産」に関する主導権を夫側が握っている夫婦がいまだに多いことが挙げられます。

しかし、けっしてそれだけではありません。

今も増え続けている「熟年離婚」も、女性からの申出が多いのが特徴とされています。

4 増え続ける熟年離婚の原因とは?

写真:maroke/イメージマート

厚生労働省が発表している「人口動態統計月報年計(概数)の概況」によると、同居期間20年以上の「熟年離婚」は、1985年は2万434件でしたが、2020年には3万8980件と35年で2倍近くになっています。

また、40代以降の離婚件数も年々増加傾向にあります。

2020年に離婚した19万組のうち、熟年離婚に該当したのは約20%でした。

これからも、熟年離婚はますます増加することでしょう。

熟年離婚が増えている背景には、世の中の風潮の変化も影響しているのではないかと思われます。

かつて夫婦は、我慢に我慢を重ねて一生添い遂げることが当たり前の時代がありました。

しかし現代はすでに「我慢しない時代」に入っているのではないかと考えられます。

子供も巣立ち老後となった時、働きもせず家にいる愛情のない夫の面倒を見たり、介護に明け暮れたりして、残りの人生を無駄に過ごすことが当たり前ではないことに気づいた妻たちが「反撃の離婚」を選択しているのではないでしょうか。

逆に申し上げれば、夫側は真剣に危機感を持って、この対策に乗り出す必要があります。

何もしなければ、妻から愛想をつかされて捨てられることになっても全然おかしくはないのです。

老後の一人暮らしは、家事全般に不自由のない女性は自由を感じ、男性は虚しさが募るというケースが多いようです。

写真:アフロ

円満な夫婦生活を長続きさせるためにも、たまには妻の家事を手伝ったり、同じ趣味を持ったり、月に数回程度は夫婦2人で外食をしたり、一緒に散歩やウォーキングなどされてみてはいかがでしょうか。

5 おわりに

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年末年始は、家族で過ごす時間が多くなります。

普段は向きあわない夫婦が共に時間を過ごす中で、日頃の不満が爆発しやすい状況でもあります。

また、久しぶりに義理の実家に帰省するご夫婦も多いかと思いますが、実はそこでストレスがかかって、離婚を考える女性もいらっしゃるのです。

そのため、年末年始は例年、女性からの離婚相談が増えます。元旦からの離婚相談も珍しくありません。

実家に戻った際に、つい妻をぞんざいに扱ってしまう男性も多いのではないでしょうか。

実家で妻よりも自分の両親を優先する言動は、避けた方が賢明です。

それよりも、年末年始こそ妻に日頃の感謝を伝える機会だと捉え、1年間、家事や育児を頑張ってきた妻にはゆっくりしてもらうように、妻ファーストを心がけてみられることをお勧めいたします。

それが、来年一年を夫婦円満で迎えるコツでもあります。

写真:アフロ

参考データ

※出典:「婚姻関係事件数申立ての動機別申立人別全家庭裁判所」

https://www.courts.go.jp/app/files/toukei/253/012253.pdf

(注)申立ての動機は、申立人の言う動機のうち主なものを3個まで挙げる方法で調査重複集計。

フェリーチェ法律事務所 弁護士

京都生まれ。大阪大学文学部卒業後、大手損害保険会社に入社するも、5年で退職。大手予備校での講師職を経て、30歳を過ぎてから法律の道に進むことを決意。派遣社員やアルバイトなどさまざまな職業に就きながら勉強を続け、2008年に弁護士になる。荒木法律事務所を経て、2017年にスタッフ全員が女性であるフェリーチェ法律事務所設立。離婚・DV・慰謝料・財産分与・親権・養育費・面会交流・相続問題など、家族の事案をもっとも得意とする。なかでも、離婚は女性を中心に、年間300件、のべ3,000人の相談に乗っている。

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