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岸田首相「首相公邸忘年会」問題が、英国ジョンソン首相辞任の「パーティーゲート」より重大である理由

郷原信郎郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士
(写真:ロイター/アフロ)

 昨年の年末に、首相公邸で岸田総理の親族を集めて忘年会が開かれた件について、拙稿【首相公邸忘年会問題、建造物侵入罪成立の可能性は?】で、首相秘書官だった岸田首相の長男の翔太郎氏が公邸の公的スペースに同年代の親族らとともに立ち入って写真撮影などを行った行為について、岸田首相が、事前に了解していなかったとすれば、建造物侵入罪が成立する可能性があることを指摘した。

 一方、松野博一官房長官は、「岸田総理は、この問題について報道で初めて知った」と会見で説明しているが、仮にその説明が事実と異なっていて、岸田首相が公的スペースへの立入りを事前に了解していたのであれば、建造物侵入罪は問題にならないが、岸田首相には重大な政治責任が生じることになる。

 その場合、この問題の構図は、ジョンソン首相が辞任に追い込まれる原因となった、2022年の英国での「パーティーゲート」と多くの点で共通している。

英国「パーティーゲート」で問題にされたジョンソン氏の国会答弁

 BBCの記事【ジョンソン元英首相、「パーティーゲート」めぐる意図的ミスリード否定 議会特別委】によると、パーティーゲートでジョンソン氏が辞任に追い込まれた経過は概要、以下のようなものであった。

イギリスで新型コロナウイルス対策のために屋内での集まりが制限されていた2021年末以降、当時首相だったボリス・ジョンソン氏が首相官邸などで複数の飲み会やクリスマスパーティーを開いていたことが相次いで発覚。「ウォーターゲート」事件をもじって「パーティーゲート」と呼ばれている。

一連のパーティーが発覚した後、ジョンソン氏は2021年12月に下院で「パンデミック対策のルールは順守されていた」と答弁していたが、ジョンソン氏と当時財務相だったスーナク現首相がロックダウン中のパーティーの開催でロンドン警視庁から罰金を科せられ、野党側が、「ジョンソン氏の答弁は議会に対するミスリードだ」として特別委員会の設置を求めた。

その後、特別委員会でジョンソン氏は、

「ロックダウン中に開かれた首相官邸の集まりでは、社会的距離は『完璧には』守られていなかった」

と認めた上で、

「一連の集会は『必要な』仕事のイベントで、そうした集まりは許されていた。ガイドラインは常に守られていたと自分は理解している」

と述べた。

イギリスでは、議会で閣僚がわざと嘘をついたり、議会をミスリードした場合、辞職・解任理由になる。「ミスリード」とは、議会に虚偽の情報を事実であるかのように提示し、誤った方向へ導くことを意味する。

「当時は、できる限り(感染対策の)ガイドラインに従っていた。それこそガイドラインが定めたことだった」

ともジョンソン氏は述べ、当時の首相官邸では窓を開けたままにしたり、できる限り屋外で仕事をしたり、同じ部屋にいる人数を制限したり、検査を繰り返したりと対応していたと説明。

「それによって、完璧にソーシャルディスタンスを保てないことによる問題の影響を緩和しようとした」

と述べたが、与党保守党の議員からも、

「下院で(2021年末当時に)そのように当初から答弁するべきだった」

と指摘された。

結局、ジョンソン氏は、2022年7月7日に、与党・保守党の党首を辞任すると表明、同年9月に首相退陣に追い込まれた。

ジョンソン氏の「パーティーゲート」と岸田首相「公邸忘年会問題」の共通性

 パーティーゲートで、ジョンソン氏は、国会で虚偽ないしミスリーディングな答弁をしたとして、野党のみならず与党議員にも追及され、首相辞任に追い込まれた。

 岸田首相にとっては、今回、長男の翔太郎秘書官を辞職させる事態となった「首相公邸忘年会問題」も、まさに「首相公邸でのパーティー」の問題であり、「岸田パーティーゲート」とも言える。今後の国会での野党の追及如何では、ジョンソン氏にとってのパーティーゲートと同様の展開になる可能性がある。

 岸田首相は、5月26日の参院予算委員会での田名部匡代議員の質問に対して、

「厳重に注意した」

と述べて更迭することを否定していたが、週明けの29日月曜日には、

「ケジメをつけるため」

として、翔太郎秘書官を6月1日付で辞職させ、事実上更迭する方針を明らかにした。また、5月26日の官房長官会見で松野官房長官は

「岸田総理は、この問題について報道で初めて知った」

と説明しており、岸田首相は、翔太郎氏などの公的スペースへの立入りを事前には了解していなかったことが前提とされていた。

 しかし、もし、事前に了解していなかったとすれば、翔太郎氏が公的スペースについて秘書官として独自の管理権を有していたのでない限り、建造物侵入罪が成立する可能性がある。

 この場合、翔太郎氏の建造物侵入罪について告発が行われる可能性もあり、岸田首相が、公的スペースへの親族の招き入れを容認していたと認めない限り、刑事責任は簡単には否定できない。岸田首相の後継者として指名されている翔太郎氏が刑事事件の捜査の対象となることは、政治家一家である岸田家の「世襲政治」にとって大打撃となることは間違いない。

 岸田首相は、翔太郎氏が忘年会後に親族らを公的スペースに招き入れるのを事前に了解していたという「真実」を述べざるを得なくなるかもしれない。そうすると、松野官房長官の説明とは全く異なることになる。首相公邸に親族を招いた忘年会という「パーティー」について、国会での答弁に重大な問題があったことになり、まさにジョンソン氏の「パーティーゲート」と同様の展開となる。

英国と日本の議院内閣制のもとでの民主主義の成熟度の違い

 問題は、英国と日本とでは、同じ議院内閣制を採用している国であっても、「民主主義」の成熟度が大きく異なることである。

 議院内閣制では、内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で指名され、内閣は、行政権の行使について国会に対し連帯して責任を負う。内閣の国会に対する責任は、国会の場での質問に対して誠実に真実を答弁することが大前提であり、国会での答弁で閣僚が意図的に虚偽答弁をしたり、議会をミスリードした場合、国会に対して重大な責任が生じ、辞職・解任理由になるのは当然のことと言える。

 ジョンソン氏が首相辞任に追い込まれた「パーティーゲート」も、コロナ下とは言え、官邸内でのパーティーの問題であり、ジョンソン氏が言うように首相の仕事にも必要だったとの説明も可能だったのであれば、日本では、国会で首相が政治責任を追及される程大きな問題とはされないだろう。しかし、英国の議会では、ジョンソン氏の説明が、当初の国会での説明から変わったことに対して、与野党を超えて首相の国会答弁を問題視した。

 保守党のジェンキン議員は、

「もし下院で(2021年末当時に)あなたがそう答弁していたなら、私たちはおそらく今ここでこうしていない。けれどもあなたは当時、そう言わなかった」

と述べた(前記BBC記事)。英国では、首相が、国会で誠実に真摯に答弁する義務は極めて大きなものであり、それを求めることは党派を超えた国会議員としての責務と認識されているということなのであろう。

日本の民主主義を崩壊させた安倍氏の「国会での虚偽答弁」

 日本では、国会での首相や閣僚の虚偽答弁に対する対応は全く異なる。それが決定的となったのが、第二次安倍政権で、森友学園・加計学園・桜を見る会問題と、首相をめぐるスキャンダルが相次いで表面化した際の政権側の対応だった。

 私の新著【「単純化」という病 安倍政治が日本に残したもの】では、これらの問題を通して、「法令遵守と多数決による単純化」が進んだ経緯を分析している。

 森友・加計学園問題を「多数決の力」で乗り切った安倍氏だが、2019年11月以降国会で追及を受けた「桜を見る会」問題で、公選法違反と政治資金規正法違反の両面の法的問題に直面し、将棋で言えば明らかに「詰んだ状態」になったが(【「桜を見る会」前夜祭、安倍首相説明の「詰み」を盤面解説】)、それでも、明らかに虚偽だと思える説明・虚偽答弁を繰り返した。

 2020年8月末に首相を辞任した後、検察捜査で明らかになった事実から、安倍氏が首相として国会で118回もウソの答弁をしていたことが否定できなくなり、答弁の訂正に追い込まれる事態となった。

 2020年12月25日の衆参両院の議院運営理事会が答弁訂正の説明の場として設定されたが、そこでも安倍氏は、国会での虚偽答弁の際の認識などについて明らかにウソの説明をした。しかし、国会での野党からの追及の場は極めて短い時間に限られ、自民党や維新の会などからは、虚偽答弁を批判するどころか、違法とされた法律の建付けがおかしいかのような発言すらあった。

 結局、首相の立場で国会での虚偽答弁を繰り返したことが発覚しても、安倍氏の政治責任には全く影響がなく、自民党の最高権力者であり続けたのである。

安倍氏が旧統一教会関連団体にリモート登壇する決断を行った理由

 2021年9月12日、安倍氏は統一教会のフロント団体・UPFが主催した国際イベントにリモート登壇し、冒頭で

「日本国、前内閣総理大臣の安倍晋三です」

と名乗った後、

「朝鮮半島の平和的統一に向けて努力されてきた韓鶴子総裁をはじめ皆様に敬意を表します」

と韓鶴子総裁を礼賛した。

 このような、安倍氏のあまりにも大胆で無神経な行動によって、統一教会の霊感商法等の反社会的行為の被害者や宗教二世から強い反感と憎悪を持たれることになり、山上徹也が手製の銃で安倍氏を狙撃する犯行の動機となった。

 第二次安倍政権の間に、森友学園問題・加計学園問題・桜を見る会問題と、安倍氏自身が追及される問題が表面化し、野党・マスコミからの追及が続いたものの、結局、常に「強気」で押し通した結果、実質的に問題なく収束することができた。

 桜を見る会問題での「虚偽答弁」問題をも、さしたる苦労もなく乗り切ったことで、UPFの国際イベントに登壇してもそれ程大きな問題にはならないと高をくくっていたのかもしれない。

 そういう姿勢で史上最長の総理大臣の在任期間を「全う」した安倍氏を、「国葬」を行って弔ったのが岸田首相なのである。

 日本では、首相や閣僚の議会への説明・答弁の誠実性・真実義務という議院内閣制の大前提が、全く形骸化している。ある自民党議員と、この岸田首相公邸忘年会問題について話す機会があり、英国でのパーティーゲートと同程度の重大な問題なのになぜ大きな問題として取り上げられないのかと尋ねたところ、

「日本では、首相や閣僚がウソをつくことに有権者が慣れ切ってしまっているので、どうにもならない」

という言葉が返ってきた。

 あまりに悲しい、日本の政治の現実である。

「首相公邸公的スペースでの悪ふざけ」は国民への重大な背信行為

 今回の「首相公邸忘年会問題」というのが、国民にとってどういう問題なのか、改めて考えてみる必要がある。それは、英国でジョンソン氏が首相辞任に追い込まれた「パーティーゲート」と比較しても、決して軽々に扱える問題ではない。

 現在の首相公邸は、昭和4(1929)年に竣工された旧首相官邸を曳家・改修したもので、現在の首相官邸が竣工した平成17年(2005年)から「公邸」として使用されている。

 首相官邸だった時代には、5・15事件、2・26事件の舞台にもなり、壁面には、その時の銃弾の跡も残っているという。まさに、昭和・平成の歴史を刻んできた貴重な遺産であるからこそ、首相官邸新築にあたって、総重量2万トンの建物を、東に8度回転させるとともに50メートル南に移動させるという大工事を行ってまで、歴史遺産として保存された。今でも、外国からの賓客の接遇や、内閣の重要行事等に活用されている。その膨大な曳家・改修の費用も年間1億6000万円に上るとされる維持費も、すべて国民の税金によって賄われている。

 現在の首相公邸は、そのような国民負担によって維持されている歴史的遺産なのであり、その一部に首相の「私的スペース」が設けられているのも、基本的には、首相官邸に近接した場所に居住して首相としての職務を全うするために提供されているものであり、一般的な公務員の「宿舎」などとは全く性格が異なる。

 岸田首相の長男の翔太郎秘書官が行ったことは、その歴史上の遺産としての首相公邸に親族を招いて忘年会を開き、公的スペースに立ち入って、「悪ふざけ」で、組閣の記念撮影や内閣の記者会見の真似をしたり、赤じゅうたんに寝そべっているポーズをとって写真撮影したりしたのである。

 まさに、国民の貴重な財産である首相公邸の公的スペースを辱める行為に他ならない。

 そのような行為のそもそもの発端となった「親族を招いた忘年会」について、当初、岸田首相は

「私も私的な居住スペースにおける食事の場に顔出しをし、あいさつもした」

と述べていたが、その後、写真週刊誌FRYDAYの記事(【やっぱりあった!岸田首相が「息子大ハシャギ公邸忘年会」に「ご満悦参加写真」独占入手】)で、岸田首相本人が「記念写真」の中心にご満悦で収まっていることが明らかになり、岸田首相自身が「主催者」であった疑いが濃厚になった。

 それにもかかわらず、岸田首相は、私的スペースでの忘年会については

「親族と食事を共にした。私的なスペースで親族と同席したもので不適切な行為はない」

などと述べるだけで、詳しい説明も国民に対する謝罪も全く行っていない。

 翔太郎氏の「公的スペースへの親族の招き入れ」については、当初は「厳しく注意した」と述べるだけだったが、その後「公的立場にある秘書官として不適切であり、けじめをつけるため交代させる」として、翔太郎氏の秘書官辞任を明らかにした。

 しかし、「更迭」ではなく、あくまで「自主的辞職」である。首相秘書官として重大な問題を起こしたことについての責任を問い、制裁を科すことは何一つ行っていない。岸田首相自身の責任についても、何一つ発言せず、国民に対して謝罪もしていない。

 このような「首相公邸忘年会問題」に対する、岸田首相のあまりに無責任かつ無神経な対応に対して、野党もマスコミも、国会の場や会見などで十分な追及が行われているとは到底言えない。

 なお、【前掲拙稿】で、

首相秘書官の職務は、内閣総理大臣に常に付き従って、機密に関する事務を取り扱い、また内閣総理大臣の臨時の命により内閣官房その他関係各部局の事務を助ける役職であり、固有の権限を有しているわけではない。首相自身からの指示なく、自分の判断で行えることは基本的にないはずだ。翔太郎氏には、首相秘書官だった時も、首相公邸の公的スペースについての管理権はなかったと考えられる。

と述べたが、元NHK解説委員の岩田明子氏が、この問題が週刊文春で報じられた直後のテレビ番組出演で、以下のように述べていたことがわかった(【岩田明子氏、「ウェークアップ」で岸田翔太郎氏の首相官邸での不適切行為を解説…「セキュリティーに問題がある」】)。

赤じゅうたんの階段がある公的ゾーンは「ここって入れるのは通行証を持っている総理と総理SPと秘書官だけなんです。官房長官とか副長官ですら勝手には入れない。(公的ゾーンに)誰を入れるかは、政務の秘書官が判断をする」とし、プライベートゾーンと公的ゾーンへの通行移動時に「セキュリティーが解除されますので、第三者の移動の許諾権限は政務の秘書官と警察出身の秘書官が持っている。その権限を肉親が持っている部分は、ちょっと…」と疑問を投げかけていた。

 仮に、岩田氏の発言の通りだとすると、岸田首相の政務秘書官だった翔太郎氏には、「公的スペースに誰を入れるか」を判断する独自の権限を持っていたことにはなるが、それは当然のことながら公的な必要性があることが前提であって、管理権を有する岸田首相の了解なく、忘年会の流れで親せきを連れて入る権限ではない。建造物侵入罪が成立する可能性があることに変わりはない。

「公邸忘年会問題」が未解決のままの岸田首相による解散総選挙はあり得ない

 この問題は、岸田首相にとって、ジョンソン氏のパーティーゲート問題以上に、深刻かつ重大な問題である。それは、まさしく、日本にはびこる「世襲政治」の悪弊が一気に顕在化したものである。

 この「首相公邸忘年会」の問題が、国会での追及もなく、曖昧なまま幕が引かれるとすれば、ジョンソン首相が国会での説明の在り方を与党議員にまで追及され辞任に追い込まれた英国とは、同じ議院内閣制であっても、民主主義のレベルにあまりに大きな落差があることになる。

 このような重大かつ深刻な問題が追及されることもないまま、岸田首相が今国会末に国会を解散し総選挙に打って出ることは決して許してはならないことだ。それが現実に行われ、その選挙で、岸田首相が目論見どおり勝利を得るような結果になるとすれば、それは、日本の民主主義の「実質的な終焉」を意味するものとなるだろう。

郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士

1955年、島根県生まれ。東京大学理学部卒。東京地検特捜部、長崎地検次席検事、法務省法務総合研究所総括研究官などを経て、2006年に弁護士登録。08年、郷原総合コンプライアンス法律事務所開設。これまで、名城大学教授、関西大学客員教授、総務省顧問、日本郵政ガバナンス検証委員会委員長、総務省年金業務監視委員会委員長などを歴任。著書に『歪んだ法に壊される日本』(KADOKAWA)『単純化という病』(朝日新書)『告発の正義』『検察の正義』(ちくま新書)、『「法令遵守」が日本を滅ぼす』(新潮新書)、『思考停止社会─「遵守」に蝕まれる日本』(講談社現代新書)など多数。

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