3月4日夜、SMBC日興証券エクイティ本部の本部長ら4人が、金融商品取引法違反の相場操縦の疑いで東京地検特捜部に逮捕された。

日経新聞(3月5日付け)では、以下のように報じている。

相場操縦の疑いがあるのは、企業の株式を大口で一括で取引する「ブロックオファー」と呼ばれる取引。大株主から株式売却の意向を受け、ほかの投資家に売り渡す。市場で大量の株式を売り出すと需給が崩れ、株価は下がりやすい。これを避けようと大株主が証券会社に依頼し、新たな株主を探してもらう取引だ。

4人は金融商品取引法が禁じる「終値関与」の疑いが持たれて逮捕された。取引時間が終わる「大引け」間際に買い注文を出す行為で、SMBC日興では引き受けた取引の成立を確実にしようと、市場で様々な株式を売買している部門に買い支えを依頼した疑いがある。ブロックオファーの取引価格は終値を基準とするため、終値が高くなるように特定の銘柄を買い支えたとみられる。

証券取引等監視委員会が、金融商品取引法違反(相場操縦)容疑の関係先として同社本社を強制調査し、東京地検への告発も視野に調べていると報じられた昨年11月4日に、【SMBC日興証券事件、相場操縦として刑事立件できるのか?】と題する記事で、報じられている範囲では、一般的な相場操縦である「取引を誘引する目的」で行う「変動操作」(159条2項)の成立には疑問があると述べた。

この「取引を誘引する目的」については、

「人為的な操作を加えて相場を変動させるにもかかわらず、投資者にその相場が自然の需給関係により形成されるものであると誤認させて有価証券市場における有価証券の売買取引に誘い込む目的」

と解するのが最高裁判例だ。

注文の出し方や株価の動きで、株価が上昇するように見せかけて、他の投資家を引きずり込み、株価を上昇させて、自分は売り抜けて儲けようというのが、一般的な相場操縦である「変動操作」の犯罪だ。

SMBC日興証券の社員が、ブロックオファーの取引価格の基準となる終値が下落しないように、特定の銘柄を買い支えたというだけでは、「取引を誘引する目的」の変動操作に該当するとは思えなかった。

むしろ、その時点で報じられているような事案であれば、有価証券の「相場をくぎ付けし、固定し、又は安定させる目的をもって」する「安定操作取引」(159条3項)で立件される可能性があることを指摘した。

安定操作取引は、有価証券の募集や売り出しを円滑に行うため、相場の安定を目的として行う市場での売買取引である。特に、それが必要であり、かつ、合理性が認められるのは、有価証券の募集・売り出しを円滑に行うために、株価の急激な変動を回避し、一定の範囲に収まるようにすることを目的とする場合であり、届出・報告等の所定の手続によって行われる場合には適法とされる。そのような手続を経ることなく、株価が、上限価格と下限価格の間の「一定の範囲」から逸脱しないようにするための安定操作取引が行われた場合には違法となる。

安定操作取引は、有価証券の募集・売り出しの場合であれば、事前に届出を行うことで適法に行うことができる。しかし、単に、大株主から立会時間外で売買の仲介を依頼されたというだけであれば、適法に安定操作を行うことはできない。

本日のSMBC日興証券の社長の記者会見では、同社幹部の逮捕容疑は違法安定操作取引(159条3項)ということであり、上記のような理由で「取引を誘引する目的」が認められないので、159条2項の変動操作取引ではなく、3項の違法安定操作取引で刑事立件されたものと考えられる。

しかし、【前記記事】で、安定操作取引で立件された具体例の「H氏の相場操縦事件」について書いたように、「違法安定操作取引」に関しては、「上限価格」と「下限価格」を定めて、株価がその間に収まるようにした場合に成立するものであり、単に、一定の価格を下回らないように買い支えていたというだけでは犯罪は成立しない。

SMBC日興証券の側は、終値近辺で買い注文を出して株価を買い支えただけであれば、株価の上昇を抑える必要はない。「上限価格」を設定したと言えるのか、疑問だ。

そして、もう一つ注目すべき事実は、以下のNHKの記事で報じられた事実だ。

大手証券会社SMBC日興証券の幹部ら4人が相場操縦の疑いで逮捕された事件で、4人は特定の銘柄について株価の値下がりにつながる「空売り」が行われたため、それに対抗して株価を維持しようと不正に大量の株を買い付けていた疑いがあることが関係者への取材で分かりました。

単に、SMBC側の「不正な買い支え」の動機になったのが、「空売り」だったことを報じているに過ぎないように見えるが、実は、その「空売り」こそが本件の発端となった重大な問題であるように思える。

上記のH氏は、「夢の街創造委員会」の創業者の花蜜伸行氏(その後「幸伸」と改名)である。創業者花蜜氏が、同社の株価が割安に放置されていたことから、僅かな資金を元に、信用取引で上場会社の15%もの株式を保有しようとし、その過程で行った取引について、証券取引等監視委員会に摘発されたのが「H氏の相場操縦事件」だった。

最近、花蜜氏は、自身の著書【僕は夢のような街をみんなで創ると決め、世界初の出前サイト「出前館」を起業した。】で、「夢の街株の買い支え」を行っていた最中に、花蜜氏の持ち株をまとまって購入してくれることになったファンドに、契約締結直後から大量の「空売り」をかけて夢の街株を売り崩されたことについて書いている。

花蜜氏の刑事裁判の少し前の日経ビジネス2016/09/05号の記事【敗軍の将、兵を語る「外資ファンドに相場で負けた」】の該当部分を引用する。

買い付け資金を何とか確保したいと考えていた矢先、ある外資系ファンドが、私の10万株を買うと手を挙げたのです。買い取り価格の条件は、契約日の終値の7%ディスカウント。資金が確保できるのならばと、私は承諾し、5月30日に、その外資系ファンドと10万株の売買契約書を締結しました。

すると、その瞬間から今までにはないような猛烈な売り浴びせが始まったのです。およそ1200円だった株価は急落し、終値は1085円。外資ファンドにはその7%引きで、私の保有していた10万株が渡りました。

私は膨大な追い証を支払わなくてはならなくなりました。その現金の捻出に困っていると、先の外資系ファンドがさらに10万株を買うと申し入れてきたのです。現金を作るにはそれ以外に方法がない。そう判断し、6月2日に私は、そのファンドにさらに10万株を売ることを決断しました。すると、また契約書を締結した直後から猛烈な売り浴びが始まった。株価はついに1028円まで下落しました。もう追い証さえ払えず、信用取引で買った250万株はすべて強制決済されました。そして私は10億円の債務を負いました。

さらに追い打ちをかけたのが証券取引等監視委員会の特別調査です。株価を上げたのが「相場操縦」、株価下落を食い止めたのが「株価固定」だとして、私は東京地検に刑事告発されたのです。

取り調べの中で取引データを見ると衝撃的な事実が判明しました。私が例の外資ファンドに10万株を売却する契約をした瞬間から、その外資系ファンドは、夢の街の10万株を空売りしていたのです。

彼らの売り崩しで私は持ち株を強制売却せねばならず、膨大な損害を受けました。取り調べではその外資系ファンドの売り崩しこそ違法だと訴えましたが、相手にされませんでした。

「夢の街」株を買い進めて資金不足になっていた花蜜氏は、自分の持ち株を、市場外でまとめて買い取ってくれるという外資系ファンドに、その契約日の終値の7%ディスカウントした価格で、売却する契約をしたところ、契約をした途端に、大量の「空売り」で売り崩され、大幅に下落した価格で売却を余儀無くされ、膨大な損失を被った。

「ブロックオファー」と呼ばれる取引も、上記日経記事に書かれているように、市場で大量の株式を売り出すと需給が崩れ、株価は下がりやすいので、これを避けようと大株主が証券会社に依頼し、買い取り先を探してもらうものだ。そこでの売買価格は、特定の日の終値を基準に、その何%かディスカウントした価格だ。もし、この終値が下がれば、買い取り先は、それだけ安く株式を買えることになる。

前記のNHKの記事の「株価の値下がりにつながる『空売り』」というのは、ブロックオファーで買い取る株式で決済するということで、買い取る前に購入者側が「空売り」をかけたのではなかろうか。そうだとすると、「夢の街」株で花蜜氏に「売り崩し」を仕掛けた外資ファンドと同様のことが、今回のSMBC日興証券のブロックオファーの株式購入者側によって行われたということになる。

売買価格の基準となる終値の下落を食い止めるための「買い支え」が問題なのであれば、それを下落させ、自分の買値を意図的に下げようとする「売り崩し」も問題ではないか。

上記の日経ビジネスの花蜜氏が「取り調べではその外資系ファンドの売り崩しこそ違法だと訴えた」というのは無理もないことだ。このように、自分が市場外で安く株式を取得するために、市場での終値を下落させる行為は、「証券市場の公正」を害する行為であり、金商法157条の

「有価証券の売買その他の取引又はデリバティブ取引等について、不正の手段、計画又は技巧をすること」

の一般条項を適用すべきなのではないだろうか。

「空売り」によって、株価を下落させようとする動きがあって、それに対抗した「買い支え」であったこと自体が、犯罪の成立を否定する理由にはならないが、そのような「空売り」が横行しているとすれば、そもそもブロックオファーという手法自体が成り立たないように思える。監視委員会の「違法安定操作」による摘発が、市場の実態に即した金商法の運用という面でバランスを欠いたものであることが、SMBC日興証券幹部が違法性を否定していることの背景にあるのではないだろうか。

今日の記者会見でも、同社の社長が「まず真相解明」と繰り返し、捜査による事実解明に委ねるだけでなく、外部弁護士による調査委員会を立ち上げたことからしても、同社側は、証券取引等監視委員会による摘発、検察による同社幹部の逮捕に、必ずしも納得していないようにも見受けられた。

「前代未聞の大手証券会社幹部の相場操縦による逮捕」が、果たして、金商法の罰則適用として適切なものだったと言えるのか、まだまだ予断を許さない面があるように思う。