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「桜・前夜祭問題」一層巧妙化する安倍前首相のウソ

郷原信郎郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士
(写真:ロイター/アフロ)

「桜を見る会」前夜祭における費用補填をめぐる問題で、東京地検特捜部は、12月21日に安倍晋三前首相本人の事情聴取を行い、同月24日に不起訴処分とし、地元山口の実務を取り仕切っていた配川博之公設第一秘書を、収支報告書不記載罪で略式起訴した。

安倍氏は、24日夕刻に、議員会館で、平河クラブ(自民党本部内と衆議院内にある記者クラブ。平河クラブに所属する記者は、主に自民党・公明党の取材を担当。)加盟社の記者24人を集めて「会見」を開き、前夜祭における費用補填の事実について「説明」を行い、翌25日には、衆参両院の議院運営理事会で、それまで118回も繰り返してきた国会での「虚偽答弁」を「正す」ために、与野党議員の質問に答えた。

記者向け「弁明会」と時間が著しく制約された国会質疑

24日の「会見」は、フリーランスなどのクラブ外記者は排除し、気心の知れたクラブ加盟社の記者だけの質問に答えたもので、しかも、「会場の借り上げ時間」などという全く理由にもならない理由で時間が1時間に制限されるなど、疑問に十分に答えるものとは到底言えないもので、「記者会見」というより、「弁明会」に近いものであった。

また、国会での与野党議員の質疑も、時間が、各院で与野党議員合わせて1時間と限定され、最大でも質問者一人当たり15分という極めて短いものだった。

しかも、与党議員からは、それまでの安倍氏の長期政権による実績の礼賛が長々と行われたり(自民党高橋克法参議院議員)、日本維新の会からは、「安倍先生の説明を信じている」などと、「追及」とは真逆の質問も行われ、それらも含めて衆参両院で合計2時間であり、「首相の虚偽答弁」が発覚した安倍氏に対して十分な「追及」を行う場とは到底言えないものだった。

特に、日本維新の会の遠藤議員の「質問」は信じ難いものだった。総理大臣が国会で度重なる虚偽答弁を行ってきたことについて安倍氏の説明を聞き問い質す場であるはずなのに、「政治資金規正法の欠陥の問題」を持ち出し、「政治資金規正法の大改革を安倍先生がリーダーシップをとってやってもらいたい」などと言いだした。

政治資金規正法が、献金の政治団体等への帰属を前提に、収支報告を義務付けるものであるが故に、政治家本人への「闇献金」が処罰困難であることなど、構造的な問題があることは、私もかねてから指摘してきた。しかし、今回の事件では、そのような「献金の帰属」が問題になったわけではない。また、もう一つの欠陥と言われているのは、会計責任者に義務が集中しているという問題だが、今回は、安倍晋三後援会の代表者であって会計責任者ではない公設秘書が起訴の対象とされており、会計責任者に義務が集中し政治家本人に責任が及ばないことが問題になったわけでもない。(不記載罪ではなく、虚偽記入罪を適用すれば「会計責任者への責任の集中」が回避できることは、【「安倍前首相聴取」が“被疑者取調べ”でなければならない理由】で述べた通り。)

今回の事件とは直接関係がないのに、政治資金規正法の欠陥が今回の問題につながったかのように問題をすり替えて、虚偽答弁には全く触れずに安倍氏にエールを送る姿勢には唖然とした。日本維新の会という政党の「疑似与党」としての性格が端的に表れたものと言える。

では、このようなクラブ加盟社を集めた「弁明会」や、衆参両院で極めて短時間の質問に対して行われた安倍氏の「説明」の内容はどのようなものであったか。

安倍氏は、国会での虚偽答弁を始め、この問題についての「説明」において、その都度、行われている批判・批判を意識して、説明内容を変えたり、加えたりしてウソを塗り固めてきたが、今回の一連の説明でも、その姿勢は全く変わっていない。それどころか、今回の説明では、ウソが一層巧妙になっていると言える。

まず、1年余り前から国会等で「虚偽答弁」を繰り返していた「説明内容」を振り返ってみよう。

2019年11月15日の官邸「ぶら下がり会見」

前夜祭の費用補填疑惑について国会での追及が行われた直後の昨年11月15日夜、安倍氏は、総理大臣官邸で、記者団との「ぶら下がり会見」で、

すべての費用は参加者の自己負担。旅費・宿泊費は、各参加者が旅行代理店に支払いし、夕食会費用については、安倍事務所職員が一人5000円を集金してホテル名義の領収書を手交。集金した現金をその場でホテル側に渡すという形で、参加者からホテル側への支払いがなされた。

収支報告書への記載は、収支が発生して初めて記入義務が生じる。ホテルが領収書を出し、そこで入ったお金をそのままホテルに渡していれば、収支は発生しないため、政治資金規正法上の違反にはあたらない。

と、説明した。

夕食会の参加費の価格設定も会費の徴収もすべてホテル側が行うという、「ホテル主催の宴会」であるかのように言って、安倍後援会の「収支が発生しない」というのが、安倍氏のすべての「説明」の始まりであった。

これに対して、私は、【「ホテル主催夕食会」なら、安倍首相・事務所関係者の会費は支払われたのか】と題する記事を出し、安倍首相が説明するとおり、ホテル側が会費の設定を行い、自ら参加者から会費を徴収するのであれば、その立食パーティーに参加した「安倍首相夫妻」、「後援会関係者」らからも会費を徴収するのが当然であり、会費を支払った場合は、安倍事務所側に支出が発生するので、後援会に政治資金収支報告書に記載がないことが政治資金規正法違反となると指摘した。

参議院本会議代表質問での安倍首相の答弁

安倍氏は、その後、12月2日の参議院本会議の代表質問において、首相として、以下の答弁を行った。

夕食会には、私は妻とともにゲストとして参加し、挨拶を行ったほか、参加者との写真撮影に応じた後、すぐに会場を後にしております。事務所や後援会の職員は写真撮影や集金等を行ったのみです。このようなことから、会費の支払はしておりません。

ちなみに、私と妻や事務所等の職員は夕食会場で飲食を行っておりません。

いずれにしても、夕食会の費用については、ホテル側との合意に基づき、夕食会場入口の受付において安倍事務所の職員が一人5000円を集金し、ホテル名義の領収書をその場で手交し、受付終了後に集金した全ての現金をその場でホテル側に渡すという形で参加者からホテル側への支払がなされたものと承知しております。

このように、同夕食会に関して、安倍晋三後援会としての収入、支出は一切ないことから、政治資金収支報告書への記載は必要ないものと認識しております。

夕食会の価格設定については、私の事務所の職員がホテル側と各種段取りを相談する中で、出席者の大多数が当該ホテルの宿泊者であるという事情等を踏まえ、会場費も含めて800人規模、一人当たり5000円とすることでホテル側が設定したものであります。

私の事務所に確認を行った結果、ホテル側との相談過程においてホテル側から明細書等の発行はなく、加えて、ホテル側としては営業の秘密に関わることから公開を前提とした資料提供には応じかねることであったと報告を受けております。

安倍首相の国会での虚偽答弁は、この参議院代表質問から始まり、それ以降、118回にもわたって繰り返されていくのである。

しかし、そもそも、立食パーティーについて、主催者が会費徴収に関与せず、ホテル側が直接参加者から会費を徴収するなどということがあり得ないことは、常識で考えれば明らかな話だ。

また、もし、立食パーティーで、ホテル側が参加者から会費を徴収するのであれば、飲食をするかしないかにかかわらず参加者全員から徴収するのが当然だ。安倍首相夫妻は、雛壇に立って乾杯の挨拶をする際に、ホテルスタッフからグラスを受け取っているのであり、それだけ見てもホテルからサービスの提供を受けているのであるから、「私と妻は飲食をしていないから会費を支払わなくてよかった」というのは明らかなウソだ。

つまり、安倍首相の虚偽答弁というのは、答弁の内容自体から明らかだったのであり、その約1年後に、東京地検特捜部の捜査で、ホテルニューオータニから前夜祭に関する資料が提出され、安倍氏側が前夜祭の費用800万円以上を補填していた事実が明らかになったためにウソが判明したという話ではないのである。

安倍氏秘書の「大罪」の指摘と、それをすり抜ける巧妙な「説明」

私は、「秘書が、実際には費用を補填しているのに、その事実を秘匿し、安倍氏に報告していなかったので、安倍氏は費用補填の事実を知らなかった」というのが安倍氏側の言い分だと報じられていたことに関して、2020年12月23日に出した記事【安倍氏秘書「独断で虚偽説明」なら、“総理に虚偽答弁させた大悪人”か】で、「公設秘書が独断で安倍氏に虚偽説明をして国会で虚偽答弁させた」ということであれば、総理大臣としての重大な汚点となる虚偽答弁をさせた秘書は「大罪」を犯したということであり、安倍氏はその秘書に対して「激怒」するのが当然であること、「前夜祭の費用補填を独断で行い、それを収支報告書に記載せず、安倍氏から質問されても虚偽説明をして安倍首相に国会で虚偽答弁させ、その後に、今年春、2019年分の安倍晋三後援会の収支報告書を提出するに当たって、独断で前夜会の収支不記載のまま提出した」ということであれば、不記載罪の情状として最悪であり、総額が3000万円程度であっても、罰金刑で済まされるわけがないことなどを指摘していた。

24日の「弁明会」と25日の国会での実際の安倍氏の説明は、

実際に費用補填を行っていたのは、略式請求された地元の配川公設第一秘書ではなく、東京事務所の責任者の秘書であり、安倍氏に対して、費用補填はしていないと虚偽の説明を行っていたのも、その東京事務所の秘書だった。その秘書から、地元の配川秘書への連絡が不十分だったために、配川秘書は、費用補填の事実を明確に認識していなかったが、夕食会について何らかの費用は発生していて記載すべきことを認識していたのに記載しなかったということで、不記載の刑事責任を問われた

というものだった。

この説明のとおりだとすると、安倍氏に虚偽説明をして、総理大臣として国会で虚偽答弁させるという「大罪」を犯したのは、配川公設秘書ではなく、東京事務所の責任者の秘書だったことになる。

その東京事務所の秘書は、安倍後援会とは直接の関係がなく、その政治資金収支報告に関わっていないので、刑事責任を問われることはなく、氏名も明らかにされていない。そのような、ホテル側との交渉等をすべて行っていた東京事務所の秘書が、安倍氏に、費用補填の事実も、ホテル側とのやり取りもすべて秘匿し、国会で虚偽答弁をさせたことになるのである。

しかし、東京事務所の秘書には、安倍氏に虚偽報告をして、国会で虚偽答弁させる動機があるとは思えない。後援会の代表の配川氏のように、前夜祭の収支を政治資金収支報告書に記載していない、という自らの犯罪の発覚を免れるために安倍氏に虚偽説明を行う動機もない。安倍氏に説明を求められれば、ありのままに報告したはずだ。

安倍氏の説明には根本的な疑問があるが、その秘書の名前すら明らかになっていないので、その説明の真偽を確かめようがない。そのような説明で押し通してしまえば、安倍氏の虚偽答弁は虚偽の認識なく行ったもので、その原因となった「秘書の安倍氏への虚偽報告」という「大罪」も誰が行ったのかあいまいにされてしまうことになる。

安倍氏の説明の通りであれば「森友学園問題と共通する『虚構の構図』」

前夜祭夕食会に関する、ホテル側との交渉や支払を担当していたのが、東京事務所の責任者の秘書だとすると、7年以上にわたる首相在任期間において、森友・加計学園問題などで国会で追及を受けた時に繰り返してきたのと同様の「虚構の構図」で、秘書が安倍氏に対して真実の報告ができない状況に追い込まれていた可能性もある。

安倍氏は、24日の「弁明会」で、秘書とのやり取りについて、

私は『5000円の会費で全てまかなっていたんだね』ということを確認し、『そうです』と答えた責任者でございますが、その後も『会場代も含めてだね』ということも確認したんですが、『それはそうです』というふうに答えていた

と述べ、25日の国会での質疑でも、福山哲郎議員の質問に対して、

昨年11月、この問題が国会で取り上げられるようになってから、自分の執務室から電話で秘書に確認した

と説明をしている。

つまり、安倍氏の説明のとおりだとしても、この件についての秘書とのやり取りは、前夜祭について、電話で「5000円の会費で全てまかなっていたんだね」と「確認」し、その後、「会場代も含めてだね」と「確認」したに過ぎない。安倍事務所や後援会としてどのような費用がかかったのか、収支は発生したのかなど、問題とされていることについて「事実を聞き出す」ものでは全くないのである。

安倍首相から、「5000円の会費で全てまかなっていたんだね」と「同意」を求められれば、秘書の方から、「そうではありません。5000円以外に別に支払をしています。」とは、とても言えない。真実がどうであるかとは関わりなく、安倍氏は「すべての費用は参加者の自己負担」と決めつけ、その秘書側が、事実を説明することを抑え込もうとしているに等しい。そのような権力者の安倍氏の意向に、秘書としては従うしかない。

それは、森友学園問題などでも繰り返されてきた、「忖度の構図」と全く変わらない。

森友学園問題では、

私と妻は一切関わっていない。関わっていたら、総理大臣も、議員もやめる

という国会答弁を行ったことが起点となって、佐川宣寿理財局長以下が、その首相答弁が事実であることを前提に動かざるを得なくなった結果、近畿財務局では、決裁文書の改ざんまで行われ、赤木氏の自殺という痛ましい出来事にまで至った。

安倍氏の説明のとおりだとすれば、それと同じ構図が、今回の安倍氏と秘書の関係において生じていたということなのである。

明細書に関する安倍氏の説明の「大ウソ」

安倍氏は、2019年11月15日以降、「主催者の後援会に収支は発生しないため、政治資金規正法上の違反にはあたらない。」という説明を繰り返してきた。それは、安倍氏が勝手に決めつけたことであり、それが事実に反することの認識がなかったとは思えない。それは、24日の「弁明会」での「明細書」についての以下のやり取りからも明らかだ(産経「桜を見る会 安倍首相の説明詳報」による)。

(記者)国会では明細書はないと…

(安倍)明細書がないのは、事務所にないということです。明細書がないということは、私が答えられるわけないのであって、ホテルにあるかないかということであって、普通は明細書はあるんだろうと。 しかし明細書は、今お答えしたのは、明細書がないというのは、私の事務所には明細書が残っていないということであるのと、秘書が明細書を見たという認識がないということを申し上げている。明細書がないということを申し上げたことはない というところだと思います

(記者)なぜホテルに確認しなかったのか

(安倍)いや、だから、その確認というのはですね、確認というのは、明細書を出してもらいたいということですから、明細書は営業の秘密にかかるから、公開を前提とする上において明細書を出すことはできないというふうにお答えをしていると。明細書がないということではなくて、というふうにお答えをしているという ことです

全く支離滅裂である。

そして、25日の国会で、立憲民主党の辻元清美議員が、領収書と明細書がなければ政治資金収支報告書の細かい修正はできないとして、自ら再発行をホテルに求め国会に提出するよう要求したが、安倍氏は、

検察側は明細書等をしっかり把握したうえで今回の判断をしているのであろうと思います。明細書のなかがどうあれ、検察側の判断は変わらない。私たちがことさら明細書を隠さないといけない立場ではない

などと述べて応じようとしなかった。

検察の捜査は、刑事処分のために行われるものであり、不起訴に終わったからと言って、政治的・社会的に問題がなかったことが確認されるわけではないし、刑事事件とは別個に事実を解明する必要性が否定されるわけではない。「検察が、明細書の内容を把握した上で、不起訴の判断をしたので、明細書を隠す理由がない」というのは、国会での説明責任を、不起訴という司法上の判断を盾にとって免れようとするもので、到底許されるものではない。

このような苦し紛れの言い訳までして、明細書の提出を拒むのは、明細書を提示した場合は、安倍事務所側とホテルニューオータニ側との前夜祭についての交渉経過がすべて明らかになり、安倍氏の説明が当初から明白な虚偽であったことが否定できなくなるからとしか考えられない。

費用補填の原資についての苦し紛れの「弁明」

24日の「弁明会」で、記者からの最初の質問は、前夜祭の費用の補填の原資を問うものだった。これに対する安倍氏の説明によって、安倍氏の政治資金の処理に重大な問題があることが明らかになった。

安倍氏は、以下のように説明した。

私のいわば預金からおろしたものを、例えば食費、会合費、交通費、宿泊費、私的なものですね。私だけじゃなくて妻のものもそうなんですが、公租公課等も含めてそうした支出一般について事務所に請求書がまいります。そして事務所で支払いを行いますので、そうした手持ち資金としてですね、事務所に私が合わせているものの中から、支出をしたということであります。

要するに、安倍事務所では、安倍氏の個人預金から一定金額を預かって、安倍夫妻の個人的な支出についても支払をしており、そのような個人預金から、後援会が主催する前夜祭の費用補填の資金を捻出したということなのである。

安倍氏がそのような説明をしたのは、もし、費用補填の原資が、資金管理団体「晋和会」から支出されたとすると、晋和会の収支報告書に記載しなければならかったということになり、それを記載していないことについて、安倍氏自身が代表になっている政治団体の政治資金収支報告書不記載罪が成立することになるからであろう。それを避けるためには、安倍氏の個人資産から「立替え」をしたと説明せざるを得なかったのである。

しかし、安倍氏の個人資産が補填の原資だと説明すると、もし、それを安倍氏が了承していた場合には、安倍氏自らが公職選挙法の寄附の禁止に違反することになりかねない。そこで、補填は、秘書が無断で行ったと弁解するとともに、もう一つ、補填の正当化事由として「会場費の支出は、有権者に対する寄附に当たらない」という理屈を、自民党議員の質問の助けを借りて出してきた。

自民党高橋克法参議院議員の質問で、

会場費等の計上についてはっきりしたガイドラインがない。そのことも一因だと思う。それをしっかりと整備するべきだと思うが、考え方を伺いたい

と質問され、

総務省の見解で会場費等は寄附に当たらない

などと答えた。

安倍氏は、前夜祭の会費5000円は飲食費の実費で、それ以外の費用補填は(国会答弁時は認識していなかったが、)「会場費等」だったというような説明をした。

これは、公選法の「公職の候補者等の寄附の禁止」(199条の2第1項)では、

「専ら政治上の主義又は施策を普及するために行う講習会その他の政治教育のための集会に関し必要やむを得ない実費の補償」

として行われるものが除外されているから、会場費の負担であれば、公選法の寄附の禁止には触れないと言いたいのだろう。

しかし、桜を見る会の前夜祭は、「政治教育のための集会」ではないことは明らかで、このような寄附の除外規定は問題にならない。また、安倍氏が提示を拒んできたホテル発行の明細書を見れば、費用の補填が、会場費だけではないことが明らかになるものと思われる。

このような全く的はずれの「会場費」の話を、わざわざ自民党の質問者が持ち出し、総務省の見解にまで言及して「寄附に当たらない」と言っているのは、個人資金が原資となった費用補填であることで公選法違反が生じることを避けようとする「苦し紛れの弁明」と言わざるを得ない。

政治資金と個人資金の一体化という重大な問題

安倍氏の説明は、前夜祭をめぐる費用補填について何とかして法律違反をすり抜けようと腐心したのであろうが、その結果、安倍氏に関連する政治資金の処理に関する重大な問題が明らかになった。

つまり、安倍事務所で、安倍氏の個人預金から一定金額を預かって、安倍夫妻の個人的な支出の支払をしていたということは、事務所で扱う政治資金と個人の資金とが一体化し、最終的に、政治資金としての支出と個人の支出とに振り分けるというやり方がとられていたことになる。

しかも、そのようなやり方によって、前夜祭の費用補填については、合計800万円もの費用を、後援会として費用負担すべきところを、資金の拠出者の安倍氏が認識しないまま、個人資金で負担していたということなのである。

ということは、安倍氏については、政治資金と個人の資金の区別すらついておらず、どんぶり勘定になっていたということであり、逆に、政治資金が個人的用途に使われる可能性も十分にあるということだ。これは、「昭和」の時代の政治家の政治資金処理であり、政治資金の透明化が強く求められる21世紀においては、全くあり得ないことだ。

前夜祭の費用負担に関連する安倍氏の説明は、ひたすら、自らの犯罪・違法行為の疑いをすり抜けようと、なりふり構わず、巧妙に説明を組み立てたのであろうが、それが、かえって、安倍氏という政治家にとっての根本的な問題を露呈することになった。

このような「巧妙なウソ」で、総理大臣の国会での度重なる虚偽答弁が見過ごされてよいわけがない。自民党として、中立的・客観的立場の第三者による調査を実施して、事実を明らかにすること以外に、この「憲政史上最悪の総理大臣の虚偽答弁」の問題で失われた信頼を回復する手立てはない。

郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士

1955年、島根県生まれ。東京大学理学部卒。東京地検特捜部、長崎地検次席検事、法務省法務総合研究所総括研究官などを経て、2006年に弁護士登録。08年、郷原総合コンプライアンス法律事務所開設。これまで、名城大学教授、関西大学客員教授、総務省顧問、日本郵政ガバナンス検証委員会委員長、総務省年金業務監視委員会委員長などを歴任。著書に『歪んだ法に壊される日本』(KADOKAWA)『単純化という病』(朝日新書)『告発の正義』『検察の正義』(ちくま新書)、『「法令遵守」が日本を滅ぼす』(新潮新書)、『思考停止社会─「遵守」に蝕まれる日本』(講談社現代新書)など多数。

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