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2023年の総広告費は7兆3167億円…電通推定の広告費動向をさぐる(2024年公開版)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
街を彩る数々の広告。その広告費の動向は(写真:アフロ)

新型コロナでの落ち込みから回復する広告業界

電通は2024年2月に日本の広告費に関する調査報告書「2023年 日本の広告費」を発表した。それによれば電通推定による2023年の日本の総広告費は前年比3.0%増の7兆3167億円であることが明らかになった。大きく区分した媒体別では雑誌とラジオ、インターネット広告、プロモーション広告が前年比プラスで、新聞とテレビはマイナス。インターネット広告の2418億円のプラスが一番大きなプラス幅となる。

↑ 媒体別広告費(電通推定、億円)(2019~2023年)
↑ 媒体別広告費(電通推定、億円)(2019~2023年)

↑ 媒体別広告費(電通推定、前年比)(2023年)
↑ 媒体別広告費(電通推定、前年比)(2023年)

2023年は2022年と比べれば規制による影響は小さくなっているが新型コロナウイルスは流行を継続しており、さらにロシアによるウクライナへの侵略戦争やそれに大きな影響を受けた物価高騰など、広告市場にはネガティブな材料が多かった。しかし新型コロナウイルスの5類感染症移行によりリアルなイベントの開催数増加や国内外の観光・旅行の活性化が生じており、「イベント・展示・映像ほか」をはじめとしたプロモーションメディア広告費が大きく伸長。さらに社会のデジタル化を背景に「インターネット広告」の成長が好調さを見せ、市場全体が支えられる形となった。総広告費の前年比はプラス3.0%に。新型コロナウイルス流行直前の2019年における6兆9381億円を超えた金額となる7兆3167億円を示した。

媒体別では、紙媒体は「雑誌」がコロナ禍からの回復や高級し好品における需要増が後押しする形でプラス2.0%となる一方、前年の冬季オリンピックからの反動や物価高を背景に「新聞」はマイナス5.0%。「テレビメディア広告」は「地上波テレビ」がレギュラータイムの低調さが影響して大きなマイナスとなり(マイナス4.0%)となり、奮闘した「衛星メディア関連」(プラス0.1%)も穴を埋めきれずにマイナス3.7%。「ラジオ」は外出・行楽需要の高まりなどに乗ってプラス0.9%。「インターネット広告」はプラス7.8%と大きな成長を示している。「プロモーションメディア広告」は「イベント・展示・映像ほか」がコロナ禍からの回復で大いに恩恵を受けプラス28.7%となったのに後押しされる形でプラス3.4%。

2023年の動向としては、全体的には新型コロナウイルス流行の影響の希薄化認識がある一方で、ロシアによるウクライナへの侵略戦争や物価高のような大きなマイナス要因があったが、総広告費はプラスを示した。これは「インターネット広告」の貢献によるところが大きいと解釈できよう。「プロモーションメディア広告」がマイナスどころかプラスになったのも大いに影響を与えている。

1985年以降の動向確認

今資料では1985年以降の主要媒体別の広告費一覧(あくまでも電通の推定によるものだが)も掲載されている。その値をグラフ化したのが次の図。なお2014年分から既存の地上波テレビと衛星メディアが統合されテレビメディアとして扱われることになったため、過去の値も逆算した上で反映させている。

↑ 媒体別広告費と名目GDPの移り変わり(電通推定、左軸:GDP・右軸:総広告費、億円)
↑ 媒体別広告費と名目GDPの移り変わり(電通推定、左軸:GDP・右軸:総広告費、億円)

計測基準の変更により、2004年と2005年との間では厳密には連続性は無い(雑誌、インターネット広告、プロモーションメディア広告の3項目で差異が生じ得る)。特にプロモーションメディア広告では変更年前後に大きな差異が生じている。突然、該当広告部門に大規模な変化が生じたわけではないので注意が必要。

中長期の動向をグラフ化すると、(連続性を欠いた部分は別にしても)オーソドックスな「プロモーションメディア広告」はそれなりに順調な伸びを示していたが、2007年の金融危機勃発以降は下降傾向にあったことが分かる。そして今世紀に入ってから順調に成長を見せているのは「インターネット広告」のみとなる。「テレビメディア」は横ばいから漸減の動きに見えるし、「プロモーションメディア広告」は緩やかな下落の動きを示し、コロナ禍で大きな下落。直近年は前年比でプラスを示したが、コロナ禍での落ち込み度合いと比べれば、ほんのわずかなものに過ぎない。

2020年における総広告費の前年比での下げ幅がリーマンショックに次ぐ大きなものとなった実情も、このグラフから読み取ることができる。特に「プロモーションメディア広告」の下げ方が著しく、特異な動きとなっているのが分かる。直近の2023年では「新聞」「テレビメディア」のみが前年比でマイナスを示してしまっているが、「インターネット広告」以外は低迷状態が継続した中でのわずかな盛り上がりでしかなく、実質的に「インターネット広告」以外は低迷感が強い。

伸び悩んでいる媒体に共通しているのは、1990年代後半(媒体によっては前半)にピークを迎えたあと(広告費の)成長が止まっており、 2002年から2003年あたりから下げ基調を見せていること。この下げ基調の時期は携帯電話やインターネットの普及など、新メディアが世間一般に浸透し始めた時期と一致する。利用者のメディア移行に伴い、広告出稿側も注力・広告費配分のバランス調整を行い、その結果が出たと見るのが無難ではある。

「広告費全体が削られているから4マス、既存メディアの広告費も減っている」との主張がある。しかしそれはさほど筋が通らない。発表資料には総広告費も掲載されており、それによれば総広告費は名目GDPの伸びにほぼ連動する形(起伏率は名目GDPより総広告費の方が大きい)で上昇。1985年と比べると2023年のそれは約2.09倍の増加を示している。

↑ 総広告費と名目GDPの移り変わり(電通推定、左軸:GDP・右軸:総広告費、億円)
↑ 総広告費と名目GDPの移り変わり(電通推定、左軸:GDP・右軸:総広告費、億円)

また、この数年の動きをよく見直すと、冒頭でも言及している通り、新メディアの伸長に伴い、広告を出稿する側の企業による各広告メディアに対するバランス調整が行われているのが確認できる。詳しくは別の機会に譲ることにするが、新メディアとして成長を続けるメディアと、相対的・絶対的広告力が漸減するメディアとの間で、各企業による広告費のウェイトが明らかに変化しつつある(経済産業省の特定サービス産業動態統計調査からもその動きは確認できる)。昨今の金融危機や震災、そして新型コロナウイルス流行やロシアによるウクライナへの侵略戦争を起因とする物価高の影響もまた、それらの動きを加速する一つの出来事に過ぎないと考えれば、この動きも容易に理解できよう。

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(注)本文中のグラフや図表は特記事項のない限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

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(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記のない限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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