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開発途上国への開発協力はなぜ必要か? その理由をさぐる(2024年公開版)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
日本の援助で整備されるカンボジアの港湾施設(画像:国土交通省)

日本が開発途上国などに行っている資金協力や技術協力などの開発協力による支援はなぜ必要だと考えられているのか。国民の意思を内閣府の「外交に関する世論調査」(※)から確認する。

日本も含め先進国は開発途上国に対し、資金協力や技術協力などの開発協力を行っている。今件調査ではかつて「ODA」(Official Development Assistance(政府開発援助))との表現を用い、政府あるいは政府の実施機関により、開発途上国や国際機関に供与・貸与される、資金や技術提供による協力行為のことを対象としていたが、2014年調査分からは有償資金協力や技術協力も併せた、より広義な支援を意味する「開発協力」の表現が用いられている。

とはいえ目的はODAと何ら変わるところはない。外務省の解説によると、ODAは国際社会での重要な責務であり、日本の信頼をつちかい、存在感を高めることに資する役割を果たしている。また開発途上国の安定・発展化に寄与することで、国際平和に依拠し、資源・食料を海外に依存する日本にはプラスとなるとも解説している。

この開発協力について、どのような観点から意義がある、実施すべきであると考えているかを聞いたところ、「災害や感染症など世界的な課題に対して各国が協力して助け合う必要があるから」とする意見がもっとも多く、69.9%に達していた。

なお2020年以降の調査は新型コロナウイルス流行の影響を受けて郵送調査で実施されており(原則は調査員による個別面接聴取法)、「分からない」の項目が値として存在せず、その設問について何も回答しなかった「無回答」が代わりに表示される結果となっている。一部グラフでは「分からない」の項目にこの「無回答」の値を当てはめている。

↑ 政府による開発協力を実施すべき観点(複数回答)
↑ 政府による開発協力を実施すべき観点(複数回答)

トップとなる「災害や感染症など世界的な課題に対して各国が協力して助け合う必要があるから」は前回年の54.0%からは大きく値を増やしている。複数回答とはいえ、第2位の「開発協力は世界の平和と安定を支える手段だから」とともに、世界情勢の変動ぶりに影響されたのだろうか。他方、2020年以降同意する人が増えているのは、調査方法の変更も一因かもしれない。

続く項目は「エネルギー資源などの安定供給の確保に資するから」。日本は石油、ガス、石炭などエネルギー資源の大部分を海外に依存しており、諸外国の情勢不安定化はそれらの資源の供給が不安定化することにもつながる(前世紀のオイルショックが好例)。この項目への回答者が多いのも納得できる話ではある。前回年の50.5%からは値を減らしているが、ロシアによるウクライナへの侵略戦争で、エネルギー資源などの安定供給が不安視される事態による危機感に変わりはないと判断できるほどの高い値ではある。

次いで「国際社会での日本への信頼を高める必要があるから」。こちらも少なからず新型コロナウイルスの世界的流行というイレギュラーな要素が多くの同意者がいる結果に影響していると思われる。信頼が無ければ外交交渉も経済的な協力関係も資源の買い入れもスムーズには進まない。海外とのさまざまな関係の維持強化のための基盤が信頼であり、それを高めるのは有意義であるに違いない。

経年推移で見ると2020年でいくつかの項目が大きく増加し、それが直近年の2023年まで継続している。これは新型コロナウイルスの世界的流行という特異な状況が生じ、考慮すべき要素に大きな変化が生じた結果だと思われる。一方で「開発協力は日本の戦略的な外交政策を進める上での重要な手段だから」「中小企業を含む日本企業や地方自治体の海外展開など、日本の経済に役立つから」が2023年では大きく値を落としているのが気になるところではある。

直近年分につき年齢階層別に見ると、複数の項目で高齢者が高い値を示す傾向が見受けられる。

↑ 政府による開発協力を実施すべき観点(複数回答、年齢階層別)(2023年)
↑ 政府による開発協力を実施すべき観点(複数回答、年齢階層別)(2023年)

興味深い動きが2点。1つは若年層は関心度が低いこともあり、複数の項目で18~29歳の値が他の年齢階層と比べて低め。ただし「国際社会での日本への信頼を高める必要があるから」では高い値を示している。普段から伝えられる日本の外交政策に不安を覚えているからかもしれない。また、「中小企業を含む日本企業や地方自治体の海外展開など、日本の経済に役立つから」も、現状に不安を覚えているとの観点で、同様の理由だろう。

他方高齢層では複数の項目で高い値が出ている。国際社会における日本の立ち位置について、低い評価を受けること、日本企業や自治体の展開の現状に不安を抱いている感はある。この数年、海外における日本企業の入札事案が他国、特に中国に競り負ける報道が相次いでいることから、それを受けての反応だろう。直近年に限れば、ロシアによるウクライナへの侵略戦争で、エネルギー資源に関する日本の立ち位置の弱さ(以前の自分の経験則的な意味でのポジションほどではなかった、実体が違っていたという意味)も影響しているのかもしれない。特に複数項目で70歳以上が突出しているのが気になるところだ。

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※外交に関する世論調査

今調査は2023年9月7日から10月15日にかけて、全国18歳以上の日本国籍を有する人の中から層化2段無作為抽出法によって選ばれた人に対し、郵送法によって行われたもので、有効回答数は1732人。男女比は48.3%対51.7%、年齢階層別構成比は18-19歳1.1%・20代7.5%・30代11.6%・40代16.0%・50代17.6%・60代18.0%・70歳以上28.2%。

調査方法について2019年調査までは調査員による個別面接聴取法が用いられていたが、2020年調査以降では新型コロナウイルスの流行により、郵送法が用いられている。調査方法の変更で一部設問の選択肢や回答傾向に違いが生じていることに注意が必要となる(「分からない」が「無回答」になっている、回答の意思が明確化されたために一部設問で「無回答」の値が以前の調査と比べて有意に少なくなっているなど)。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項のない限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項のない限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。

(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロではないプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記のない限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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