インフレ・物価高が大きな懸念…EUの懸念事項(2022年6月調査版)
欧州連合欧州委員会(European Commission)は2022年9月に、同会が毎年2回定点観測的に行っているEU全体における世論調査「Standard Eurobarometer」(※)の最新版となる第97回分の結果を発表した。それによると、現在EU全体の最大の懸念として挙げられたのはインフレ・物価高に関する問題で、全体の34%が懸念を表明していた。国際情勢、エネルギー供給がそれに続いている。
2015年以降外電でたびたび伝えられている通り、欧州諸国の経済問題が最悪期を脱したように見えたことや、中東情勢問題の悪化を受け、EU諸国への移民(難民)問題が大きな社会問題化している。
さらに移民が移民先にたどり着いても地元住民との間での対立も絶えず、文化的衝突も多々生じ、社会的公平性の概念による保護への理不尽さを感じる地元住民の不満の増加も併せ、大きな社会問題の火種となり、物理的衝突が生じている。
他方2020年の春先から新型コロナウイルスの世界的流行により保健衛生への関心が高まり、また生活活動全般において厳しい規制が設けられることで、経済も大きな影響を受けるようになっている。2021年春ぐらいからはワクチン接種の広まりで感染状況も鎮静化に向かい、それに伴い流行で生じた経済の停滞化に注目が集まるようになっている。
一方でロシアによるウクライナへの侵略戦争そのものはもちろんだが、それに伴うロシアの外交的強硬姿勢はEUにおいても大きな懸念となっている。
このような状況の中で調査対象母集団に対し、EU全体における大きな懸念事項は何かについて、選択肢の中から2つ選んでもらった結果が次のグラフ。変化がよくわかるように、過去4回分も併せ都合5回分の動向をまとめている(順位は直近分の回答値順)。また、直近調査の上位陣について、過去の調査分からの動向もグラフ化する。なお保健衛生は93回調査から新規に加わったもの、環境や気候変動は92回まで気候変動・環境問題と別々の選択肢だったものが統合したものである。また国際情勢は97回から追加されている。
回答個数無制限の複数回答ではないため、それぞれの項目の値は多分に相対的な動きを示すことになるが、経済状況や失業、公的債務といった、数年前までEU全体で問題視され、世界経済にも大きな影響を及ぼしていた問題への懸念はかつては低下する傾向にあった。その他経済関連の値も概して鎮静化、つまり強く懸念する状況からは外れつつあった。
それに連れ、相対的に、あるいは経済的な復興感に引き寄せられる形なのか、移民問題への懸念が急激に上昇していたことが分かる。単なる犯罪項目にはほとんど変化がないことから、単純な治安の悪化ではなく、対外組織、あるいは国際問題的な事案への不安が感じられた。
移民問題は2015年11月にピークを迎え、それ以降は下落する動きを示している。状況に改善が見られたわけではないが、これ以上の悪化の動きもないため、少しずつ心境的に慣れてきたのかもしれない。
他方、ロシア・ウクライナ問題に連動する形でエネルギー供給の問題やインフレ・物価高が生じており、それらの値が急激に跳ね上がっているのも確認できる。そしてロシアによるウクライナへの侵略戦争が始まった2022年2月以降はじめてとなる直近の96回調査では、インフレ・物価高やエネルギー供給が大きな上昇を示し、また新たに追加された国際情勢が高い値を示す形となっている。
国単位での動向を見ると、ロシアによるウクライナへの侵略戦争による影響への懸念の違いが微妙に異なることが見て取れる。
いずれの国でもトップはインフレ・物価高で変わらないが、2番目につくのはベルギーとドイツではエネルギー供給なのに対し、ギリシャとスペインでは経済状況、フランスでは保健衛生(新型コロナウイルスの流行関連だろう)となっている。ピックアップした国では度合いの違いこそあれど、ロシアによるウクライナへの侵略戦争による影響として生じたインフレ・物価高が大きな懸念となっているものの、ベルギーやドイツではロシアからのエネルギー供給による問題が頭痛の種となっているのに対し、ギリシャやスペインではそれ以上に経済状況そのものに頭を抱えている。そしてフランスでは自国のエネルギー政策が功を奏しているのか、エネルギー供給に関してはさほど懸念を持たず、むしろ保健衛生への懸念が強いものとなっている。
他方、かつていずれの国でも上位に上がっていた移民やテロへの懸念が大きく減少し、複数の国で上位にすら顔を見せなくなっている(テロは1ケタ%台、移民は10%前後)。相対的に懸念対象としての優先順位が下がっただけなのか、問題が本当に沈静化したからなのかは、今調査だけでは推定が難しい。
次回調査(2023年春予定)ではロシアによるウクライナへの侵略戦争の状況次第で大きな変化が生じる可能性がある。もっとも、たとえ終結していたとしても、大きな影響は生じたままとなっていることだろう。
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※Standard Eurobarometer
欧州連合欧州委員会によって毎年2回行われており、直近分が97回目となる。今調査の直近分は2022年6月17日から7月17日にかけて直接面談のインタビュー方式でEU加盟国および候補国内において行われたもので、回答者数は合計で3万7239人、EU27か国に限定すると2万6468人。
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