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売上高前年同月比は吉野家のみマイナス…主要牛丼チェーン店の売上動向最新情報(2022年8月分)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
主要牛丼チェーン店の営業成績は?(写真:イメージマート)

主要牛丼チェーン店3社(吉野家、松屋、すき家)の最新分となる2022年8月分の営業成績が公開された。その内容を基に、各社の売上動向を確認する。

3社の「前年」同月比における、公開値による客数・客単価・売上高の動向は次のグラフの通り。特記事項が無い限り既存店(1年前に存在していた店のみの値を集計したもの)の動向を記していることに注意。

↑ 牛丼御三家営業成績(既存店、前年同月比)(2022年8月)
↑ 牛丼御三家営業成績(既存店、前年同月比)(2022年8月)

このグラフで概況をまとめた上で、まずは吉野家の状況の確認を行うことにする。前年同月(2021年8月分)のデータを基に営業成績を比較すると、一年前の前年同月比の客数はプラス7.2%、客単価はプラス0.1%、売上高はプラス7.3%。よって今回月では客数と客単価、売上高でマイナスへの補正がかかることになる。

結果として客数はマイナス8.6%、客単価はプラス8.8%となり、売上高はマイナス0.6%を示した。

昨今の動向を視点を変えて眺めると、興味深い結果も導き出せる。昨今では吉野家に限らず各社とも客単価と客数が大きく動く施策(メニュー全体の価格引上げなど)が相次いでいることもあり、反動による前年同月比の変化の影響が生じている。その影響を最小化するために、前々年同月比を試算したのが次のグラフ。2年にわたった変化率であることから、ここから年平均を求めるにはルート換算をすればよい。例えば吉野家なら、2年前同月比の売上から年平均を試算すると3.3%のプラスとなる。松屋なら3.9%のプラス。

↑ 牛丼御三家営業成績(既存店、前々年同月比)(2022年8月)
↑ 牛丼御三家営業成績(既存店、前々年同月比)(2022年8月)

2年越しに見れば吉野家の今回月の営業成績は、客数はやや軟調、客単価と売上高は堅調と表現できる。

続いて松屋だが、結果として2022年8月の業績は客数がプラス8.3%、客単価はプラス3.7%となり、売上はプラス12.3%に。2年前同月比の年換算では売上はプラス7.9%となり、それなりのプラスに。昨今では新型コロナウイルスの流行による外出自粛の影響を受けていたようだが、今回月は順調な業績となった。

最後にすき家だが、結果として客数はマイナス1.3%、客単価はプラス9.5%となり、売上はプラス8.1%を示した。一方2年前同月比では売上高はプラス8.6%とプラスを示している。

↑ 牛丼御三家売上高(既存店、前年同月比)
↑ 牛丼御三家売上高(既存店、前年同月比)

売上高の中期的動向としては、ここ数年に限れば、すき家の人員不足騒動や吉野家の鍋旋風でそれぞれぶれが生じているが、それ以外はおおよそ横ばいに推移していた。少なくとも震災前のような大幅な上下感は確認できない。松屋とすき家は売上でおおよそプラスを維持しており、調整終了感を覚えさせていた。

吉野家に限ると(鍋以外でも)単月で大きくぶれる傾向があり、全体的にもマイナスの領域にいる機会が多かった。2017年10月のように台風のようなイレギュラー的起因に加えて前年同月における特需の反動があり、目立つ形での大幅減が生じるようなパターンが少なくない。経営施策の上で安定感にやや欠けると解釈することもできる。それゆえに、2018年2月のプラス30%超え(ソフトバンクとのコラボ企画「SUPER FRIDAY」によるもの)がひときわ目立つのもまた吉野家らしいところではある。

もっとも2017年11月以降は(前年同月のマイナスからの反動も一因だが)売上高をプラスのままで維持し続けており、ようやく安定感が見えてきた感はあった。それゆえに2018年10月以降の客数と売上高のマイナスが継続したのは、意外さを覚えざるを得ない。2019年3月では売上・客数ともに、4月以降は客数こそマイナスの月もあるが売上はプラスと示しているのに加え、売上高の2年前同月比では2018年11月分以降、おおよそプラスを継続していたので、杞憂かもしれないが。

一方で2020年3月を起点月としてしばらくの間、新型コロナウイルスによる外出自粛の影響を大きく受け、客数と売上高が大きく減少する動きが生じていた。天災のようなものだから、仕方ないのではあるが。中でも店舗の立地関係から松屋の回復度合いが遅れていたが、ここ数か月で(前年同月からの反動とはいえ)回復を示しつつある。すき家は(売上高の限りでは)平常に復帰したようだ。

前年同月ですでに新型コロナウイルス流行の影響を受けていることから、前々年同月比で勘案すると、喜ばしいことに全社が回復を果たしているように見える。中でもすき家の動きはたくましいものがある。

グラフ化は略するが、店舗数動向においても、松屋では牛丼専門店はほぼ横ばいのまま、フライ系店舗を漸増させており、店舗業態の上でも多様化の方向性にあるようにみえる。あるいはフライ系店舗など牛丼以外の業態店舗への注力増加こそが、次なる施策なのかもしれない。また牛丼店舗におけるセルフサービス化も、割り切りによる業務の効率化の観点では、まさに「次なる施策」の一つに違いない。

他方、2020年3月以降における新型コロナウイルスによる客数への大きな影響は、楽観的に見ても今年中は継続することが容易に想像される。有用な治療薬が開発され重篤化が容易に防げるようになり、ワクチンの普及で感染力を抑えられるような状況にならない限り、客数は戻らないだろう。単に密閉空間への忌避が生じているだけでなく、在宅勤務・リモートワークが急速に進んだことで就業者の需要が大きく落ち込んでいるが、その状況はしばらく続くことになる。

そして在宅勤務・リモートワーク化は、仮に新型コロナウイルスの流行が終わる・問題が解決するようになっても継続され、影響が続く可能性は高い。つまり社会環境そのものの変化が生じる可能性がある(いわゆる「新しい社会様式」である)。家庭向け需要喚起として持ち帰りの強化をしているが、元々足を運ぶ機会が無かった家庭にとっては、よほどの機会がない限り改めて購入を検討することはない(その観点では以前から中食需要を受け止めていた食品スーパーやコンビニ、一部洋食ファストフードには特需状態であり、それが常用化する可能性すら秘めている)。

2009年の春に発生した新型インフルエンザでも、WHOの世界的大流行の終結宣言が出されたのは2010年の8月だが、少なくとも吉野家では終結宣言が出される時期ぐらいまでは客数が軒並み前年同月比で1~2割減を示している。新型コロナウイルスに関してはデルタ株、そしてオミクロン株、BA5系統株のような変異株の猛威の影響もあり、さらに延びることは必至である。

↑ 牛丼御三家客数(既存店、前年同月比)(2009年1月~2011年12月)
↑ 牛丼御三家客数(既存店、前年同月比)(2009年1月~2011年12月)

今回の新型コロナウイルスは以前の新型インフルエンザよりも危険性が高い。いわゆる「三密」へのリスク懸念が指摘されていることから、牛丼チェーン店はもちろん外食産業全体において厳しい状況が続くことになる。疫病、天災だから仕方がないといえばそれまでだが。さらに新型コロナウイルスの流行で大きく変化した社会様式は、仮に流行が終結しても継続する可能性が多分にある。いかに現状を耐えていくか、あるいはこのような状況でも売上をはじき出す仕組みの模索が問われることだろう。

上記は今記事のダイジェストニュース動画(筆者作成)。併せてご視聴いただければ幸いである。

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(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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