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少しずつ落ちていく部数…ゲーム・エンタメ系雑誌部数動向(2021年10~12月)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
かつてはゲームをする際にも専門誌は必要不可欠な存在だったのだが(写真:イメージマート)

部数公開誌は4誌のみのまま…部数現状

インターネットのインフラ化に伴い速報性が重要視され、ゲーム関連をはじめとしたエンタメ情報の提供媒体として、紙媒体の専門誌の立ち位置が危ぶまれる昨今。ゲームやエンタメ専門誌の部数動向を、日本雑誌協会が四半期ベースで発表している印刷証明付き部数(※)から確認する。

まずは最新値にあたる2021年10~12月期分と、そしてその直前期にあたる2021年7~9月期における印刷証明付き部数をグラフ化し、現状を確認する。

↑ 印刷証明付き部数(ゲーム・エンタメ系雑誌、万部)(2021年7~9月期と2021年10~12月期)
↑ 印刷証明付き部数(ゲーム・エンタメ系雑誌、万部)(2021年7~9月期と2021年10~12月期)

最大部数を示しているのは「Vジャンプ」で14.3万部。このポジションは前期から変わりなし。

2019年10~12月期では「声優アニメディア」「メガミマガジン」「アニメディア」の3誌の部数が一度に非公開化された。いずれも学研プラス発行の雑誌で、現状でも電子版だけでなく紙媒体版でも定期的に刊行が行われている。恐らくは発行元の判断で非公開化が実施されたのだろう。

ともあれ現在印刷証明付き部数を公表しているゲーム・エンタメ系雑誌は、今期でも4誌。すでに公開サイトにおけるジャンル区分で「パソコン・コンピュータ誌」は皆無なのが現状。

精査対象を足そうにも、類似の主旨を持つ雑誌が(印刷証明付き部数の公開誌では)存在しないのが悩みの種。類似・同一ジャンルの雑誌としては例えば「週刊ファミ通」「電撃Nintendo」「Nintendo DREAM」「MC☆あくしず」などが挙げられるが、印刷証明付き部数は非公開なのが実情ではある。

前四半期からの変化を確認

次に四半期、つまり直近3か月間で生じた印刷数の変化を求め、状況の確認を行う。季節による変化が考慮されないため、季節変動の影響を受けるが、短期間における部数変化を見極めるには一番の値となる。

↑ 印刷証明付き部数変化率(ゲーム・エンタメ系雑誌、前期比)(2021年10~12月期)
↑ 印刷証明付き部数変化率(ゲーム・エンタメ系雑誌、前期比)(2021年10~12月期)

ゲーム・エンタメ系雑誌において前期比でプラスを示したのは1誌「PASH!」で、誤差領域(プラスマイナス5%以内)を超えた上げ幅となっている。一方マイナスを示したのは「アニメージュ」「声優グランプリ」「Vジャンプ」で、いずれも誤差領域内にとどまった下げ幅。

ゲーム・エンタメ系雑誌では最大の部数を誇る「Vジャンプ」は特集や付録で大きく上下感を見せるものの、長期的には部数減少の傾向にある。話題性のある付録で一時的な部数の引き上げを果たしても、それが継続するには至らないパターンが続いている。

↑ 印刷証明付き部数(Vジャンプ、部)
↑ 印刷証明付き部数(Vジャンプ、部)

ゲームそのもののプレイヤーが一定数存在することが前提となるが、ゲームと密接な関係にある付録を常につけることで雑誌の集客力を高めさせるのも、雑誌販売の一スタイルとして認識すべき方法論であり、「Vジャンプ」の必勝方程式として定着している。しかし部数動向を見るに、その方程式が必勝とは言い難い状況なのは否定できない。昨今では15万部が底のような部数動向となっている(今期では前期に続きその底を抜けてしまったが)。

なお「Vジャンプ」では電子雑誌方式に関しては、紙媒体誌を購入した人限定で閲覧できる仕組み「購入者特典」の形での提供のため、電子書籍版のセールスが伸びたので今件値(紙媒体として印刷された部数)が減少しているとの解釈は難しい。販売スタイルは今でも原則として紙媒体の雑誌のみ。

プラスは1誌の前年同期比

続いて前年同期比を算出し、状況確認を行う。年単位の動きのため前四半期推移と比べれば長期間の動きの精査となるが、季節変動を気にせず、より正確な雑誌のすう勢を確認できる。

↑ 印刷証明付き部数変化率(ゲーム・エンタメ系雑誌、前年同期比)(2021年10~12月期)
↑ 印刷証明付き部数変化率(ゲーム・エンタメ系雑誌、前年同期比)(2021年10~12月期)

前年同期比ではプラス誌は1誌「PASH!」。それ以外はすべてマイナス。誤差領域を超えた下げ幅を示したのは「声優グランプリ」「アニメージュ」の2誌。

唯一プラスを示した「PASH!」の部数動向は次の通り。

↑ 印刷証明付き部数(PASH!、部)
↑ 印刷証明付き部数(PASH!、部)

「PASH!」は特集記事や付録による部数への影響が大きく、部数変動が他誌と比べると大きくなる傾向がある。例えば2016年1~3月期は「おそ松さん」特需、2016年10~12月期は「ユーリ!!! on ICE」特需によるもの。昨今では2万部を底とする部数動向を示しているが、今期ではそれを上回る結果となった。「劇場版 Free! -the Final Stroke」が特集の2021年11月号と、「プロジェクトセカイカラフルステージ feat.初音ミク」が特集の2022年1月号の評判が極めてよいため、この2誌の好調さが部数を引き上げたのかもしれない。

日本国内の家庭用ゲーム機業界の市場は縮小を続けている。少なくとも利用者人口は堅調な動向にあるスマートフォンアプリ向けの紙媒体専門誌のアプローチも、情報の公知特性を考慮するとビジネス的には難しい。新しい付加価値の創生、アイディアの想起など、あらゆる手立てを講じて有効策を見出さない限り、今後も当ジャンルの低迷は続くことだろう。

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※印刷証明付き部数

該当四半期に発刊された雑誌の、1号あたりの平均印刷部数。「この部数だけ確かに刷りました」といった印刷証明付きのものであり、雑誌社側の公称部数や公表販売部数ではない。売れ残り、返本されたものも含む。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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