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運転免許の自主返納などをした高齢者は不便さを感じているのか

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
自動車が運転できなくなれば歩きなどで日常生活を過ごさねばならなくなるが(写真:アフロ)

高齢者の人口比率の増加や一人暮らし世帯数の増加などを主な原因として、高齢者による自動車の交通事故が社会問題化している。その対応策の一環として進められているのが、高齢者に運転免許の自主返納などを勧める動き。そのような社会の流れに応じる形で運転免許を自主返納などした高齢者は、どのような思いを抱いているのだろうか。自動車が運転できなくなったことで、日常生活に不便さを感じていないだろうか。内閣府が2021年3月に発表した調査「高齢者の交通安全対策に関する調査(令和3年3月)」(※)の結果を基に、その実態を確認する。

最初に示すのは、運転免許を自主返納などした人に限定し、そのことで生活などに不便を感じているかを自分の印象・認識として尋ねた結果。居住地区により大きな違いが生じている実情が確認できる。

↑ 自主返納などにより不便を感じているか(自主返納者など限定、居住地区別)(2020年度)
↑ 自主返納などにより不便を感じているか(自主返納者など限定、居住地区別)(2020年度)

赤系統色が感じている派、青系統色が感じていない派で区分しているが、都市部では25.0%しか感じている派がいないのに対し、過疎地では60.5%と6割を超えるまでになる。感じている派が半数超えなのは過疎地のみ。これは都市部では公共交通機関が充実しているのに加え、日常生活に必要不可欠な店舗や施設が豊富にあり、自宅からの距離もさほどない場合が多いことが理由として挙げられる。自動車が運転できなくなっても、バスなどの代替手段を利用することは容易にできるし、歩きで行ける距離の場合も多々あることだろう。

例えば過疎地において6割強の人が自主返納などにより不便を感じていることになるが、具体的にはどのような不便さなのだろうか。感じている派に限定して上位3つ以内の複数回答で尋ねた結果が次のグラフ。トップには「買い物、お店などに行きにくくなった」がついた。56.8%の人が、自主返納などにより買い物やお店などに行きにくくなったと不便を感じている。

↑ 自主返納などで不便を感じている理由(自主返納者などのうちどちらかと言えば不便を感じている、不便を感じている人限定、上位3つ以内複数回答)(2020年度)
↑ 自主返納などで不便を感じている理由(自主返納者などのうちどちらかと言えば不便を感じている、不便を感じている人限定、上位3つ以内複数回答)(2020年度)

単純に自宅と商店との距離が離れていて歩きで行きにくくなったとの意味合いに加え、第2位についている「荷物を運ぶのが大変」の意味合いも含めて回答した人も少なからずいることが予想される。購入した商品が多い、あるいは重たいと手で持ち帰るのは難儀することが多くなるが、その難儀さは高齢者ならばなおさらだからである。最近では一部デパートやスーパーでは自宅配送サービスも行われているが、何かと制限が設けられていることから、利用できる環境にあっても躊躇してしまうのだろう。

買い物などの商店にではなく、病院への通院がしがたくなったとの意見は35.7%。病気やケガによる通院は治療のためには必要不可欠ではあるが、病院が自宅から遠くにあると、歩きでは行きがたくなる。公共交通機関が使えればよいが、そのような都合のよい場所に病院があるとは限らない。

続いて「出かけたり外出先での滞在時間のハードルが上がった」で32.8%。これは外出先と自宅との距離があると、帰宅するまでにかかる時間を考慮した上で滞在時間を決めねばならないから。例えば自動車で10分で行ける・徒歩だと1時間かかる場所にある友人宅に遊びに行く場合、夕食の準備もあるので18時までに帰宅しなければならないとすると、自動車ならば17時50分ぐらいまでは友人宅にいることができるが、歩きの場合は17時に出なければならない。しかも歩きの場合、疲れた状態での徒歩の帰宅となるため、帰ること自体が面倒になるので、ならばそもそも論として友人宅に遊びにいくのを止めようとの判断すらするかもしれない。

買い物や通院は必要不可欠な行為に違いないことから、不便さを感じても行い続けることに違いはない。しかし移動行為のハードルは上がり、ためらいを覚えるようになるかもしれない。実際、自主返納などをした後に外出頻度が減った人は、都市部で23.6%、過疎地だと55.8%にも達している。

↑ 自主返納などの前後における外出頻度の変化(自主返納者など限定、居住地区別)(2020年度)
↑ 自主返納などの前後における外出頻度の変化(自主返納者など限定、居住地区別)(2020年度)

自主返納などをしたことにより不便を感じた人の傾向とほぼ同じで、都心部では少数だが過疎地では過半数の人が外出頻度が減ったと答えている。具体的にどのような外出行動が減ったのかまでは分からないが、通院を減らすことは難しいので、買い物や趣味の行動、友人との交流などが減ったことが想像される。それらの行為が減ることは、日常生活も不便さを覚えることになるばかりでなく、精神的にもよいとは言えない。生活の質の維持向上のためにも、特に過疎地など生活環境があまり整っていない場所の人に向けて、自主返納などをした場合に代替手段となるものを提示することが必要なのかもしれない。

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※高齢者の交通安全対策に関する調査(令和3年3月)

2020年12月から2021年1月にかけて65歳以上の人に対してインターネット経由で行われたもので、有効回答数は1500人。免許保有者は832人、自主返納者などは668人。都市区分では都市部在住者416人・地方都市在住者416人・その他417人・過疎地251人。都市区分に関しては「都市部」は特別区や指定都市、「地方都市」は中核市や施行時特例市、「過疎地」は過疎地域自立促進特別措置法により過疎地域とされている市町村、「その他」は都市部・地方都市・過疎地以外の市町村。「自主返納者など」は運転免許の全部の自主返納者および一部の自主返納者、免許を更新せずに置いておき、そのまま自主的に失効させた人。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

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(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロではないプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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