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2021年4月度外食産業売上は前年同月比でプラス36.7%

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 新型コロナウイルスのワクチン接種は進んでいるが。(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

日本フードサービス協会は2021年5月25日付で、同協会の会員会社で構成される外食産業の市場動向調査における最新値となる、2021年4月度の調査結果を公開した。それによると同月の総合売上は前年同月比でプラス36.7%を示した。一部地域で新型コロナウイルス流行による緊急事態宣言やまん延防止措置が発出され客足は大きく鈍ったが、比較対象となる前年同月の2020年4月は今調査史上最悪の落ち込み(総合売上は前年同月比マイナス39.6%)を示しており、それとの比較となるため大きなプラスとなった。なお発表では但し書きとして「新型コロナウイルス流行前となる2年前同月との比較ではマイナス19.5%」とあり、今回のプラスは反動の領域内の動きでしかないとしている。

全業態すべてを合わせた2021年4月度売上状況は、前年同月比で136.7%となり、36.7%の増加を記録した。これは前回月から転じる形で14か月ぶりの増加。前年同月と比べると日取り(休日や土曜日の日数)の上では休日・土曜日いずれも変わらず、売上には影響なし。気象環境では雨天日は東京は少なく大阪は多く、平均気温は東京・大阪ともに高めのため、客足への影響判断はややプラスと解釈できる。

また、新型コロナウイルスの流行による外出自粛や多人数が集まる場所への忌避感は強い。まん延防止措置や緊急事態宣言が一部地域に対して発出され、該当地域では営業時間の短縮要請や酒類の販売提供に関する自粛要請が行われ、客数の大幅減が生じる状況となっている。就業者の在宅勤務も継続され、就業者相手の業態では苦戦が続いている。

業態別に詳しく動向を見ると、ファストフードは全体では前回月から継続する形で2か月連続のプラス(プラス17.6%)。ハンバーガーチェーン店がメインの洋風だが、そのメイン企業となるマクドナルドは、2014年夏からの相次ぐトラブルをきっかけとした多様な問題点の露呈による低迷から復活の動きを見せている。今回月では「引き続きテイクアウトが堅調、昨年は中止していた店内飲食を再開したところもあり」とあり、テイクアウトやデリバリーの選択肢を持つことへの奏功の影響が大きく、また他業態とは異なり緊急事態宣言すらもプラスに作用し、売上はプラス10.0%に。なお2年前同月比、つまり新型コロナウイルス流行前となる2019年4月との比較では、全業態で唯一のプラス(プラス14.0%)を示している。

なおマクドナルド単体の2021年4月における営業成績はプラス9.2%(売上、既存店、前年同月比)とプラスを示している。客数がプラス20.9%と大幅に伸びており、持ち帰り需要を上手くこなしたようだ(マクドナルドの月次報告書にも「安全で利便性の高い店舗でのアクション、ドライブスルー、デリバリー、デジタルの強化、バリュープログラムの継続やお客様との繋がりを強化するマーケティング活動といったこれまで実施してきた取り組みにより、ベースセールスが着実に上昇しています」との表記がある)。

牛丼チェーン店を含む和風は、客数はプラス3.5%、客単価はプラス5.2%となり、売上はプラス8.9%。麺類は客数プラス75.1%、客単価はマイナス1.4%となり、売上はプラス72.5%。和風は「高付加価値志向の新メニューの提供により客単価が上昇」とある一方で「コロナ前の一昨年の91.5%にすぎない」とも付け加えられており、前年同月の落ち込みからの反動によるもの以上ではないようだ。持ち帰り米飯/回転寿司は売上がプラス21.9%。「持ち帰りが定着」とあり、洋風同様に巣ごもり需要の恩恵を受けたようだ。

パブ/居酒屋部門では、パブ・ビアホールの売上はプラス484.2%、居酒屋の売上はプラス174.2%。部門全体では売上はプラス204.9%を示した。「事実上の活動停止状態となった昨年と比較すると」「度重なる酒類提供の制限(時間制限・提供禁止)のあおりを受け、休業店舗も多く、いずれもコロナ以前の20%台で低迷」と説明されており、新型コロナウイルスの流行と業界の体質との相性の悪さのダメージが継続中で、今回の大幅なプラスも反動でしかないとしている。

↑ 外食産業前年同月比・全店データ(2021年4月分)(日本フードサービス協会報告書より抜粋)
↑ 外食産業前年同月比・全店データ(2021年4月分)(日本フードサービス協会報告書より抜粋)

↑ 外食産業売上前年同月比(業態別)(2021年4月)
↑ 外食産業売上前年同月比(業態別)(2021年4月)

↑ 外食産業売上2年前同月比(業態別)(2021年4月)
↑ 外食産業売上2年前同月比(業態別)(2021年4月)

現在は可処分所得の減少、中食へのシフト、お酒を飲む機会の変化など、居酒屋にはマイナスとなる環境の変化の真っただ中にある。もっとも居酒屋の業態そのものが時代に取り残されたわけではない。牛丼チェーン店の吉野家が展開している「吉呑み」が堅調さを示し、適用店舗数を続々と増やしている。

牛丼業界の動きやディナーレストランの動向を併せ見ると、外食産業でも消費の二極化が進んでおり、中庸的なポジションの市場が縮小している感は否めない。また消費者の中食志向の拡大や高齢化により、客の一部が奪われている・遠のいている雰囲気も見受けられる(特に持ち帰りができないファミリーレストラン)。吉野家やマクドナルドが夕食メニューに力を入れているのも、高齢化に合わせた動きの可能性も否定できない。さらにこれらの動きは総じて、客単価の引き上げという戦略目標にもつながっているとの解釈もできる。客単価の引き上げはファミリーレストランにも生じており、こちらも結果としては売上維持、さらには売上増につながる成果を示している。

新型コロナウイルスの影響だが、そもそも論として店舗が自主休業していれば客が来るはずもなく、営業しても(場合によっては自治体からの要請に従う形で)時短や販売品の制限を行うところも多く、イートインは客同士の距離を取るために収容効率が悪化、さらに来店客数そのものが三密忌避気運で少ないことから、客数は激減する形となった。企業も従業員のリスク回避で集団での外食をひかえたり、リモートワークの浸透で出社する人が少ないため催しで外食を使う機会が無くなり、これも大きなマイナスの影響を与えている。疫病の影響である以上、仕方がないとはいえ、衝撃的な値には違いない。特にその店舗スタイルや就業者向けのビジネスの色合いが強いパブや居酒屋は大きな痛手が継続している。さらに営業時間の短縮要請や夜の酒類提供時間の短縮・自粛要請がダメージをより大きなものとしている。

次回月の2021年5月分では、新型コロナウイルスの流行状況は4月から継続しており、まん延防止など重点措置や緊急事態宣言が一部地域で発出中など、外食産業には厳しい環境が続いている。他方今回同様、前年同月の2020年5月ではすでに新型コロナウイルス流行による大きな影響(総合売上は前年同月比マイナス32.2%)が生じており、それとの比較となるため、大きなプラスを示すかもしれない。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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