冷戦終結間際以降の主要国軍事費の動向を自国通貨による上昇度合いでさぐる(2021年公開版)

↑ 巨大な軍事力を持つようになった中国。自国通貨での軍事費の動向は。(写真:ロイター/アフロ)

米ソ冷戦時代が終わるとともに国家間の軍事関係も大きな変化を見せ、軍事費も変容を示している。その実情を国際的な軍事研究機関であるストックホルム国際平和研究所(Stockholm International Peace Research Institute、SIPRI)の調査公開値を基に、それぞれの自国通貨の額面における上昇度合いから確認する。

直近2020年において軍事関連支出が米ドル換算でもっとも大きかった国はアメリカ合衆国、次いで中国、インドが続いている。

↑ 主要国軍事費(米ドル換算で軍事費上位15位、*は推定値、億米ドル)(2020年)
↑ 主要国軍事費(米ドル換算で軍事費上位15位、*は推定値、億米ドル)(2020年)

個々の国の軍事装備はその多くが自国調達のため(一部には他国からの調達が多数におよぶ国もある)、米ドル換算では軍の実情は推し量りにくいとの意見もある。そこで2020年における米ドル換算上の上位10国を対象に、額面が取得可能な1992年分の値を基準値とし(ロシアは1991年分が無く、それ以前はソ連の値なので大きな断絶が生じており、基準値として用いるのは問題が生じる)、その基準値の何倍に当たるかを算出し、その動向を見ていくことにしたのが次のグラフ。

↑ 主要国軍事費(2019年時点の米ドル換算で軍事費上位10か国、自国通貨における1992年分からの倍率)
↑ 主要国軍事費(2019年時点の米ドル換算で軍事費上位10か国、自国通貨における1992年分からの倍率)

ロシアのみが突出した値となり、それ以外の国はほぼ底面にへばりついたグラフが出来上がってしまった。これはソ連邦崩壊後のロシアにおいて、自国通貨ルーブルの大暴落(ロシア通貨危機)が生じたのが原因。少々古い資料になるが内閣府の経済社会総合研究所による【ロシアの為替政策 ロシアの経験から学ぶもの(PDFファイル)】などにその状況が詳しく書かれている。ソ連邦の崩壊と市場経済移行の際の不手際、混乱などで、先進国の現代史の中では記録に残るほどの通貨下落が生じている。具体的な例として

ルーブルの購買力は激減し、1992年初めには100ルーブル紙幣で25個買えた品物は、年末には1個しか買えなくなった。ルーブルの購買力の急低下にともない、ルーブルの対ドル交換レート(以下ルーブル相場)は、1月の1ドル=100ルーブルから、年末には415ルーブルに下がった。それでも、ロシアの消費者物価の値上がりと比べると、ルーブルの相場の下落は小幅にとどまっていた

といった話が挙げられている。その後も右往左往する通貨政策にルーブルは下落を続け、これが軍事費の「自国通貨における額面上の」急上昇の一因となったことは間違いない。

とはいえこれでは少々問題がある。そこでロシアをのぞいて再作成したのが次のグラフ。

↑ 主要国軍事費(2020年時点の米ドル換算で軍事費上位10か国からロシア抜き、自国通貨における1992年分からの倍率)
↑ 主要国軍事費(2020年時点の米ドル換算で軍事費上位10か国からロシア抜き、自国通貨における1992年分からの倍率)

やはり中国、そしてインドの伸び率が著しい。また韓国やサウジアラビアも大きな上昇率を見せている(サウジアラビアは2016年以降上昇の動きを止めたが)。それ以外の国は自国通貨の額面上でも、さほど大きな変化は示していないことも確認できる。

シンプルに差が分かるよう、基準値の1992年と直近の2020年を比較し変動倍率を算出したのが次のグラフ。やはりロシアが特異値を出してしまうため、ロシアをのぞいたグラフも併記しておく。

↑ 主要国軍事費(自国通貨における1992年分からの倍率、2020年時点の米ドル換算で軍事費上位10か国)(2020年)
↑ 主要国軍事費(自国通貨における1992年分からの倍率、2020年時点の米ドル換算で軍事費上位10か国)(2020年)

↑ 主要国軍事費(自国通貨における1992年分からの倍率、2020年時点の米ドル換算で軍事費上位10か国からロシア抜き)(2020年)
↑ 主要国軍事費(自国通貨における1992年分からの倍率、2020年時点の米ドル換算で軍事費上位10か国からロシア抜き)(2020年)

国内通貨上の額面でも中国とインドが大きく増加している状況が改めて確認できる。もちろん30年近くの間にはそれぞれの国でインフレも進行しているため、いくぶん差し引きをする必要はあるが、軍事費上位国のうち少なくともこれらの国が大きく軍事費を上乗せしていることが改めて理解できよう。

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