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ドイツとロシア、イギリスでの組織や制度への信頼度の実情をさぐる(2017~2020年分)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ イギリスで信頼されている組織や制度は。(写真:アフロ)

諸国の人たちはどのような組織や制度に信頼を寄せているのだろうか。最近見聞きする機会が多い国として、ドイツとロシア、イギリスにおける実情を、国単位の価値観を中長期的に定点観測の形で調査報告している「World Values Survey(世界価値観調査)」(※)から確認する。

今回信頼に関する精査対象となる組織・制度は「宗教団体」「自衛隊(国軍)」「新聞・雑誌」「テレビ」「労働組合」「警察」「裁判所」「政府」「政党」「国会」「行政」「大学」「大企業」「銀行」「環境保護団体」「女性団体」「慈善団体」「国連」。

それぞれの組織・制度に対して選択項目に「非常に信頼する」「やや信頼する」(以上肯定派)「あまり信頼しない」「まったく信頼しない」(以上否定派)「分からない」「無回答」が用意されているが、このうち「非常に信頼する」「やや信頼する」を足して、そこから「あまり信頼しない」「まったく信頼しない」を引き、各組織・制度の信頼度(DI値)を算出する。要はこの値が大きいほど、その国では対象の組織・制度が信頼されていることを意味する。

まずはロシアから。

↑ ロシアにおける組織・制度への信頼度(非常に信頼・やや信頼-あまり信頼しない・まったく信頼しない)(2017~2020年)
↑ ロシアにおける組織・制度への信頼度(非常に信頼・やや信頼-あまり信頼しない・まったく信頼しない)(2017~2020年)

ロシアは元々宗教色が強めの国で、ソビエト共産党時代には抑圧されていた状態にあった。そのソ連体制が瓦解したことによる反動が、現在にも続いている感はある。また各種「●×団体」がすべてプラスなのは興味深い。一方で「警察」と「国軍」、二つの「公的実力行使組織」への信頼度がここまで差を見せている国も珍しい。「国軍」の信頼度は「大学」「宗教団体」を超えトップとなる値なのに対し、「警察」はプラス3.5%でしかなく各種団体と同程度の扱いとなっている。また、「裁判所」への信頼度が低くマイナス値を示しているのも特筆すべき状況で、他の国ではあまり見られない。

メディアへの信頼度も低い。「テレビ」はもとより「新聞・雑誌」のそれは「国連」に次ぐ低さである。その「国連」が組織・制度の中ではもっとも信頼されていないのもロシアらしいといえばロシアらしいか。

続いてドイツ。経済の堅実さではヨーロッパ諸国の中で群を抜いている。なお「テレビ」「大学」「銀行」「女性団体」「慈善団体」については現在集計中らしく値が非開示となっている。あるいは元から設問が用意されていない可能性がある。

↑ ドイツにおける組織・制度への信頼度(非常に信頼・やや信頼-あまり信頼しない・まったく信頼しない)(2017~2020年)
↑ ドイツにおける組織・制度への信頼度(非常に信頼・やや信頼-あまり信頼しない・まったく信頼しない)(2017~2020年)

ドイツではトップが「警察」、次いで「裁判所」、さらに「環境保護団体」が続く。「環境保護団体」が公開されている中では第3位についているのはドイツらしさが垣間見られる。他方、「国軍」に対する信頼度はプラス1.6%でしかない。

「政党」に対する信頼度が非常に低いのも特徴的。「行政」はプラス、「政府」「国会」はマイナスだがその幅は「政党」ほどではない。「大企業」がマイナス51.1%なのに対し、「政党」はそれをも超えている。いったいどれほど信頼されていないのか。利己主義的に走るようなイメージが持たれているのかもしれない。

最後はイギリス。先日EUから脱退したことで世界中から注目を集めている。なおドイツ同様に「テレビ」「大学」「銀行」「女性団体」「慈善団体」については現在集計中らしく値が非開示となっている。あるいは元から設問が用意されていない可能性がある。

↑ イギリスにおける組織・制度への信頼度(非常に信頼・やや信頼-あまり信頼しない・まったく信頼しない)(2017~2020年)
↑ イギリスにおける組織・制度への信頼度(非常に信頼・やや信頼-あまり信頼しない・まったく信頼しない)(2017~2020年)

もっとも高い信頼度を得ているのは「国軍」、次いで「警察」。社会情勢の不安定さを感じさせる動きではある。次いで「環境保護団体」がついているのはドイツと似たような雰囲気。

他方、「行政」はともかく「国会」「政府」「政党」などの政治方面が軒並み大きなマイナス値で、特に「政党」はマイナス66.0%を示しているのが目に留まる。一方で「労働組合」もマイナス28.0%と大きなマイナスなのは珍しい。そして「新聞・雑誌」がマイナス72.3%と開示されている中ではもっとも大きなマイナス値となっており、イギリスでの報道メディアのポジションがうかがい知れる。「テレビ」は現時点で非開示だが、いったいどれほどの値となるのだろうか。

いずれの国でも開示されている限りでは「テレビ」「新聞・雑誌」がマイナスであること、「●×団体」に代表される民間集合体への信頼度が比較的高い傾向には注目したいところ。社会がある程度成熟してくると、このような動きを示すのだろうか。

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※World Values Survey(世界価値観調査)

世界100か国以上が参加して実施している国際的プロジェクト「世界価値観調査」によるもの。各国・地域毎に全国の18歳以上85歳以下の男女1000サンプル程度(実際には1000~2000人程度)の回収を基本とした個人対象の意識調査。調査そのものはおおよそ5年おきに実施されているが、調査期間によって一時的に対象外となる国も少なくない。また現時点では集計が完全には終わっておらず、値が掲載されていない国もある。直近の調査結果は2017年から2020年にかけて行われたものだが、記事執筆時点で項目によって調査結果が掲載されていない国が複数確認できる(最終的な報告書は2021年秋に発表予定)。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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