第三波勢い強く現状判断DIは大幅下落…2020年12月景気ウォッチャー調査の実情をさぐる
現状は下落、先行きは上昇
内閣府は2021年1月12日付で2020年12月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DI(※)は前回月比で下落、先行き判断DIは上昇した。結果報告書によると基調判断は「景気は、新型コロナウイルス感染症の影響により、このところ弱さがみられる。先行きについては、感染症の動向に対する懸念が強まっている」と示された。
2020年12月分の調査結果をまとめると次の通り。
・現状判断DIは前回月比マイナス10.1ポイントの35.5。
→原数値では「やや悪くなっている」「悪くなっている」が増加、「よくなっている」「ややよくなっている」「変わらない」が減少。原数値DIは36.5。
→詳細項目はすべての項目が下落。「飲食関連」のマイナス20.5ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は皆無。
・先行き判断DIは前回月比でプラス0.6ポイントの37.1。
→原数値では「ややよくなる」「変わらない」「悪くなる」が増加、「よくなる」「やや悪くなる」が減少。原数値DIは36.1。
→詳細項目は「住宅関連」「雇用関連」のみが下落。「住宅関連」のマイナス2.6ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている項目は皆無。
現状判断DI・先行き判断DIの推移は次の通り。
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、11月では再び失速し基準値割れ、今回月はさらに下落してしまっている。
先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。今回月はわずかに上昇したが、基準値まではまだ遠い。
DIの動きの中身
次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。
昨今では新型コロナウイルスの影響による景況感の悪化からの回復期待で少しずつ盛り返しを示していたが、2020年11月以降は流行の第三波到来が数字の上で明確化されるに従い景況感は大幅に悪化。今回月の12月も全詳細項目において前回月比でマイナスとなった。
なお今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は皆無。10月時点では5項目もあったのだが。
続いて先行き判断DI。
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は皆無。多くの項目で前月比にて上昇しているが、前回月における大幅な下落の反動程度でしかない。
第三波の猛威で大きな悪影響
報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
■現状
・新型コロナウイルス第三波の影響で、ここ最近は客単価の上昇がみられる。家庭内食需要の増加が発生している影響で、食料品類の売上が増加している(スーパー)。
・新型コロナウイルスの感染拡大や、大都市でのGo To Travelキャンペーン一時停止が発表された影響で、新規の申込みがなく、申込済みの旅行の取消しも多発している(旅行代理店)。
・Go Toキャンペーンにより人の動きが出てきていたが、11月下旬より新型コロナウイルス感染者数の増加により、年末の忘年会などの需要が消えた。また、個人の会食も敬遠する傾向が強まった。一方、テイクアウト需要には、弁当以外の増加で再び伸びがみられた(高級レストラン)。
・新型コロナウイルスの第三波の影響が大きく、飲食テナントは元より、アパレルの動きも鈍く、来客数にも大きな影響が現れている(百貨店)。
■先行き
・テレワークが増え、家電量販店の商品の動きは若干よくなる。また、外に出たくても出られない状況や、年末から始まるGo To Travelキャンペーンの一時停止などで、自宅で過ごす人が増え、家での食事が余儀なくされる。その結果、調理家電の動きの増加も見込まれる(家電量販店)。
・新車の受注について、12月も引き続き前年の水準を上回っていることから、この傾向は当面続く。コロナ禍のなか、パーソナルな移動手段である乗用車の需要に底堅さが感じられる(乗用車販売店)。
・もともと年末年始、年明けの客足は鈍いが、新型コロナウイルス感染者数の拡大を受けて、更に鈍くなる可能性がある(コンビニ)。
・Go To Travelキャンペーンの一時停止がいつ解除になるか分からず、新型コロナウイルスの感染拡大が収束するまでは、非常に厳しい状況が続くと予想される(観光型ホテル)。
新型コロナウイルス流行第三波の影響拡大でGo To Travelキャンペーンが一時停止されるなど、具体的な形での施策停止が実施されたこともあり、景況感の足かせがより重たいものとなったことがうかがえる。もっとも新型コロナウイルスの特性を考えれば、元々年末の忘年会や年始の新年会需要は絶望的だったことに違いはない。
他方、テレワークの増加で自宅で食事をする機会が増えることから、調理家電の需要が増加するといった、興味深い指摘も確認できる。個人、あるいは世帯単位での移動手段として乗用車に注目が集まっているとの話も興味深い。
企業関連でも新型コロナウイルス流行の影響が多々見受けられる。
■現状
・自動車関連の増産対応のため、年末年始も工場をフル稼働させて対応する予定である。建設機械関連の仕事では、取引先が社内で対応しきれない仕事への応援加工依頼が来ている(一般機械器具製造業)。
・年末年始の自粛ムードから、経済活動が停滞しており、全体的に取引先企業の売上、収益、資金繰りは悪化している(金融業)。
■先行き
・教育現場にてスマートデバイス端末の導入検討が増えている。また、補助金制度を活用する取引先も増えており、受注は増える見込みとなっている(通信業)。
・英国での新型コロナウイルス変異などにより、欧州市場は再度厳しい状況が続くと考える。米国、国内市場も設備投資意欲が上がってこないとみている(一般機械器具製造業)。
新型コロナウイルス流行の継続化、活性化による社会の変容で生じた影響が具体的な形で出ている。自動車(乗用車)の需要拡大は家計動向でも指摘されており、注目すべき動きには違いない。
雇用関連でも新型コロナウイルスの影響がうかがえる。
■現状
・周辺の中小企業の求人数は、全体でみるとやや減少くらいだが、観光や飲食を中心としたサービス業の求人がほとんどなくなった。以前から人手不足だった介護業界の求人が増えていて、製造業関係は横ばいである。全体の景気としてはやや悪くなっている(求人情報誌)。
■先行き
・新型コロナウイルスの影響で企業活動が停滞するなか、新卒採用枠の拡大は見込めない(学校[短期大学])。
雇用市場は景況感を先読みする傾向があるため、「新卒採用枠の拡大は見込めない」とのコメントは、今後しばらくは景気の落ち込みが継続するのではとの思惑が支配的であることを推測させる。
今件のコメントで消費税率引き上げに関するコメントを「消費税」のキーワードで確認すると、現状のコメントで13件(前回月49件)、先行きのコメントで1件(前回月10件)の言及がある。新型コロナウイルスの第三波の影響が気になり、消費税の話など二の次になっている感はある。
他方新型コロナウイルスに関しては現状で556件(前回月370件)、先行きで990件(前回月656件)。凄まじいまでの言及数で、消費税率の引き上げも米中貿易摩擦もすべて吹き飛んでしまった状態。特に第三波の到来による先行きへの不透明感の強まりが大きな不安を呼んでいるようだ。そのものズバリ「新型コロナウイルスの終息がみえず、先行き不安がまん延していることから、今後の景気は悪くなる」とのコメントもあるほど。
リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ特段の警戒が必要なレベルでの流行の終息とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなり続けるのには違いない。恐らくは通常のインフルエンザと同等の扱われ方となるレベルの環境に落ち着くのが終息点として判断されるのだろう。人の動きは経済に直結することから、「また流行が拡大するかも」との懸念だけでも経済には大きな足かせとなる(実際第三波到来による現状がその通りの構図となっている)。世界的な規模の疫病なだけに、一刻も早い事態の終息を願いたいものだが。
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※景気ウォッチャー調査
※DI
内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。
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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。
(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。
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