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世帯主の年齢階層別・貯蓄総額の実情をさぐる(2020年公開版)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 貯蓄はいくらあっても足りない、あればあるほど嬉しいものだが。(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

世帯数と貯蓄総額を全体比率で確認すると

日本における高齢化社会の進行とともに論議される話題の一つに、年齢階層間の資産格差がある。元々年数の経過に伴う蓄財があることから、高齢者の方が貯蓄が多いのは当然の話なのだが、現実問題としてどの程度の年齢階層間による格差が生じているのだろうか。今回はその指針の一つとして、2020年5月に公開された総務省統計局による家計調査の「貯蓄・負債編」最新版速報値などを用い、二人以上世帯における現状やこの数年における変移を確認する(「貯蓄・負債編」では単身世帯は対象としておらず、その値を精査することはできない)。

今回用いる各値は家計調査の「貯蓄・負債編」の最新版および過去の値を引き継いだもの。なお「貯蓄」とは負債を考慮しない、単なる貯蓄の額。預貯金だけでなく、生保の掛け金、有価証券、社内貯金、さらには共済などの貯蓄の合算。また負債をいくら抱えていても相殺されることはない。

次のグラフは「該当世帯数全体における、各世帯主年齢別の世帯数比率」、そして「各世帯主年齢階層別の、貯蓄総額に占める金額比率」を算出したもの。

↑ 世帯数割合(二人以上世帯、世帯主年齢階層別)
↑ 世帯数割合(二人以上世帯、世帯主年齢階層別)
↑ 貯蓄分布状況(二人以上世帯、世帯主年齢階層別)
↑ 貯蓄分布状況(二人以上世帯、世帯主年齢階層別)

これらのグラフには当然ながら単身世帯は含まれていない。従って日本全体の状況を指し示しているわけではないが、昨今の状況における概要的なものは十分把握できる。

元々若年層は蓄財の機会・期間が少なく、収入も少ない。当然貯蓄も少なくなる。さらに高齢者世帯が増加し、若年層世帯の数が減少しているので、世帯数割合が減少する。結果として「年齢階層別の貯蓄総額比率」も、高齢層が増えていく結果になるのは明らか。

直近の2019年においては、二人以上世帯に限れば、今や貯蓄総額の4割近くが70歳以上の世帯で占められている。60歳以上に区切れば7割近くとなる。

高齢層全体の貯蓄額増加の実情は

上の2つのグラフから(特に2番目のグラフを見て)「世帯主が高齢層の世帯は皆が皆、ますますお金持ちになっていく」「若年層がさらに年々圧迫を受けている」と誤解をする人がいる。しかしこの結果は、2002年以降時間の経過とともに個々の高齢者世帯が富んでいくことを意味しない。それは次のグラフを見れば明らかである。

↑ 貯蓄額(二人以上世帯のうち勤労者世帯、世帯主年齢階層別、万円)
↑ 貯蓄額(二人以上世帯のうち勤労者世帯、世帯主年齢階層別、万円)
↑ 純貯蓄額(貯蓄額-負債額)(二人以上世帯のうち勤労者世帯、世帯主年齢階層別、万円)
↑ 純貯蓄額(貯蓄額-負債額)(二人以上世帯のうち勤労者世帯、世帯主年齢階層別、万円)

つまり「所属年齢階層全体では無く、個々の1世帯単位で比べれば、元々高齢層は若年層と比較して貯蓄額が大きい。その高齢層の世帯数が増加し、若年層の世帯数が減っているのだから、二人以上世帯全体に占める高齢層世帯群の貯蓄額比率が増えても当然」となる。「個々のお年寄り世帯がますます裕福になっている」とは構成要素一つ一つの値の比較と、各年齢階層全体による値の比較を混ぜ合わせてしまうことで生じる、誤解の一つである。

↑ 世帯あたり貯蓄額(二人以上世帯、世帯主年齢階層別、万円)
↑ 世帯あたり貯蓄額(二人以上世帯、世帯主年齢階層別、万円)

一方で同時に、年齢階層別全体で見た場合、直近2019年では「二人以上世帯の総貯蓄の7割近くは、60代以上の世帯だけで保有されている」「二人以上世帯の総貯蓄の約83%は、50代以上の世帯だけで保有されている」ことになる。

さらに付け加えるとすれば、今件は単なる「貯蓄」であり、上記にある通り負債の考慮はない。そして負債の多くは住宅ローンであり、50代前後にはほぼ完済していることから、実質的な「純貯蓄額」(貯蓄から負債を引いた額)の総量はさらに50代以上に偏ることになる。

内需喚起が叫ばれる昨今だが、若年層に無理な支出を強いるより、「60代以上で7割近く」「50代以上で約83%」(二人以上世帯のみ)の貯蓄を市場に、無論サービスなどの対価として、吐き出させるかについて考えた方が効率はよく、確実性は高い。やせ細ったまだ成長過程の樹木から未成熟の果実をもぎ取るより、熟した果実が実った大人の木々から収穫を得た方が、はるかに健全なのは誰の目にも明らか。

誤解を受けかねないので付け加えておくが、これは「高齢層に無駄遣いをさせろ」を意味しない。支払いの価値がある効果・満足感を得られる商品・サービスを考察し、提供していき、お財布のひもを緩められるだけの社会的安心感を提供し、さらには資産を市場、そして特に若年層に還流させる仕組みを多数創り上げることを意味する。

それこそが社会全体の活力・生産力を底上げし、高齢者の満足感と、後に続く世代に直接の資産だけでなく、将来に続く国富をも手渡せる道につながるはずである。

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(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

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(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロで無いプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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