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世帯年収と生活習慣の相関関係をさぐる(2020年公開版)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 世帯年収が低いと健康診断を受診している人の割合は低くなる。(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

人は刺激的なイベントが無く平穏な日常生活を過ごす中においても、日々金銭を消費していく。完全な自給自足ができる人はごく少数で、ほとんどの人は資本主義の仕組みの中に取り込まれている。いわば生活の血液的存在がお金であり、その血流としての流れが生産・消費行動の観点としての経済活動であり、生活を支えている。世帯収入が多ければ多いほど選択肢は増え、心身ともに余裕ができていくことを否定する人は少ない。今回は厚生労働省が2020年1月に発表した定期調査「国民健康・栄養調査」(※)の最新版となる2018年分における概要報告書などの公開値を基に、世帯年収別の生活習慣の違いを確認し、相関関係ではあるが、その実情と影響しうる習慣、そうでない習慣の違いを見ていくことにする。

次に示すのは世帯年収別に区分した上で、主要な生活習慣の項目に関して、該当するか否かを尋ねたもの。詳細の解説は無いが世帯年収には就業収入以外に不動産収入、株式による配当、そして年金なども含まれる。年金生活者の多くは貯蓄の切り崩しで生活費を補てんするため、必然的に世帯収入は低めとなる。

ただし今回の世帯年収区分では、年齢階層と世帯員数による多変量解析を行い、各種調整はしてある。つまりそれぞれの世帯年収で、年齢階層や世帯構成人数は同率ずつ存在している状況になっている。世帯年収200万円未満の区分内では高齢の年金生活者の比率が大きいといったアンバランスな状態の統計値ではない。

まずは男性。

↑ 世帯年収別生活習慣(20歳以上、男性)(2018年)
↑ 世帯年収別生活習慣(20歳以上、男性)(2018年)

運動習慣のある無しに関しては、世帯年収との相関関係は無いように見える。一方で習慣的喫煙や健康診断の未診、歯の本数が20本未満は低世帯年収の方が高い値が出ている。あくまでも相関関係であるが、金銭的な余裕が乏しい人ほど、たばこをよく吸い、健康診断を敬遠し(あるいは行く余裕が無く)、歯の治療や管理に疎いからか歯が残っていない人が多いことになる(繰り返しになるが高齢層の比率は各世帯年収層で同率であり、200万円未満で高齢者の割合が多いわけでは無い)。

一方で多飲酒、睡眠不足、肥満者率は高世帯年収の方が高い値が出ている。世帯年収が高くなるほど飲酒率も高い値を示すのは海外でも知られている話だが、飲酒にはそれなりのコストが必要だからかもしれない。また睡眠不足は世帯年収に応じて忙しくなるからだろうか。

女性も男性と基本的には変わらない。

↑ 世帯年収別生活習慣(20歳以上、女性)(2018年)
↑ 世帯年収別生活習慣(20歳以上、女性)(2018年)

運動習慣や多飲酒、歯の本数に関しては法則性は無い。他方、習慣的喫煙や睡眠不足、健康診断未診は低世帯年収の方が高い値。男性では高世帯年収の方が高い値を示していた睡眠不足が、女性では低世帯年収の方が高い値となるのは、共働きが影響しているのだろうか。肥満者率は高世帯年収の方が高めで、これも男性と同じではある。

今件は回答時の状況を確認したものであり、過去の状況までは反映されていない。飲酒の多少、寝不足、喫煙状態などはともかく、肥満であるか否かや歯の本数はこれまでの生活習慣が多分に影響する。とはいえ世帯年収が急激に変化する状況も考えにくいため、現状の世帯年収が継続している状態での結果と見なしても大きなぶれは無いだろう。

繰り返しになるが、今件はあくまでも相関関係の結果を記したもので、因果関係を立証するものではない。高世帯年収者に肥満者が多いのは事実ではあるが、高世帯年収になると肥満になりやすいことを証明するものではない。傾向が確認できること、因果関係がある程度推測できること、そしてその推測を裏付けるための他方面での調査検証のきっかけとなるものと見なせばよいだろう。

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※国民健康・栄養調査

健康増進法に基づき、国民の身体の状況、栄養素など摂取量および生活習慣の状況を明らかにし、国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基礎資料を得ることを目的とした調査。2018年調査分における調査時期は2018年11月中、調査実施世帯数は3268世帯で、調査方法は調査票方式。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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