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一人暮らしと世帯持ちで大きく異なる「遺産」への考え方(2020年公開版)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 小説やドラマでは騒動のきっかけになることも多々ある遺産だが。(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

単身世帯は使い切り、夫婦世帯は子供へ残したい

自分が亡くなった後の自分の財産を遺産と呼ぶ。その処分方法には人それぞれの考え方がある。その実情を金融広報中央委員会の「知るぽると」が毎年実施している調査「家計の金融行動に関する世論調査」(※)の公開結果から確認する。

今項目では「遺産についてどのような考えを抱いているか」を、主に財産処分方法と、子供に残すか否かの2つの視点から複数の選択肢を提示し、回答者にもっとも自分の考えに近いものを選ばせている。つまり自分が財産を残す立場となった時、該当する資産をいかなる方法で子供に財産として残すか、それとも残さないかを選んでもらったもの。当然回答者の中には現在財産を残すどころか受け取る立場的な年齢の人もいるが、将来そのような立場の年齢になった場合を想定し答えてもらっている。単身世帯・二人以上世帯それぞれの世帯主に聞いた結果が次のグラフ。なお二人以上世帯には「無回答」の回答もあるが、今件グラフでは除外している(全選択肢を足しても100.0%にはならない)。

↑ 遺産についての考え方(択一)(2019年)
↑ 遺産についての考え方(択一)(2019年)

単身世帯での最多回答は「子供がいない&人生を楽しみたいので財産使い切り」派。一方二人以上世帯では「老後の世話か稼業引き継ぎなどの条件無しに、子供に財産を残したい」派。それぞれ「一人身」か「子供がいる(今はいなくとも将来的な話も含む)」かによって、遺産への考え方が大きく異なってくる状況がよく分かる結果である。要は「残す相手がいなければ手持ちの資産は自分で全部使い切りたい」「残す相手がいればとにかく残したい」。

他方、「家業引き継ぎ」を遺産相続の条件に挙げている人はごくわずか。元々引き継ぎが必要な家業をしている人が少数なのも一因だが、遺産を取引材料として家業引き継ぎを「強要」することを是とはしていないようだ。一方で交換条件的に何かを要求する選択肢としては、「老後の世話をしてくれれば遺産を」とする意見が、二人以上世帯で2割近くに達している。子供を持つ親の考え方としては現実的。

気になるのは「子供はいるが、自分の人生を楽しみたいので(財産は残さず)使い切りたい」との意見。単身世帯(将来結婚して子供をもうけるとの仮定、あるいは諸事情で子供と別居中)はともかく、二人以上世帯でも14.6%もの人が同意している。

また「その他」の回答率が単身世帯で3割超え、二人以上世帯でも1割台もいるのも目に留まる。具体的にどのような考えを持っているかについては尋ねていないが、個々の状況によるところがあるのだろう。あるいは例えば半分を寄付、半分を子供にといった形で、どれか一つの選択肢には当てはまらない考えを持っているのかもしれない。

年齢で遺産への考え方は変わる

直近年分につき、回答者の年齢階層別に動向を確認したのが次のグラフ。

↑ 遺産についての考え方(単身世帯、択一、世帯主年齢階層別)(2019年)
↑ 遺産についての考え方(単身世帯、択一、世帯主年齢階層別)(2019年)
↑ 遺産についての考え方(二人以上世帯、択一、世帯主年齢階層別)(2019年)
↑ 遺産についての考え方(二人以上世帯、択一、世帯主年齢階層別)(2019年)

大勢はそれぞれの世帯構成における全体値と大きな違いはない。一方で詳細を見ると、年齢階層により考え方にいくぶんの違いが生じているのが分かる。単身世帯の場合、回答後に結婚をして子供をもうける可能性があることから、「老後の世話をしてくれるならば、子供に財産を残してやりたい」が高めだが、これも年齢とともにおおよそ減少。他方、子供はいるが使い切りたいとの回答は、若年層の場合回答者が単身赴任か何かで単に子供と一時的に離れている可能性が高いため少数だが、年を取るに連れて別居状態が継続している場合が多くなるため、値が高くなる。

二人以上世帯の場合は、子供が同居している場合が多々あり、また自身の体の衰えを実感することも併せ、「老後の世話をしてくれるならば、子供に財産を残してやりたい」が50代以降は年齢とともに上昇する。他方、「老後の世話をしてくれるか、家業を継ぐかなどにかかわらず、子供に財産を残してやりたい」は30代をピークとしてそれ以降は年齢とともに減り、70歳以上になると約3割に留まる。「老後の世話」の増加と併せ、歳を重ねて自分の衰えを実感するに連れて、遺産を世話のための交換条件・材料とする思惑が強くなるようすがうかがえる。同時に世話をしてもらう必要の無い高齢層が増えてくるからか、「子供はいるが使い切りたい」との意見を積み増ししてくるのも興味深いところではある。

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※家計の金融行動に関する世論調査

直近分となる2019年分は二人以上世帯においては、層化二段無作為抽出法で選ばれた、世帯主が20歳以上でかつ世帯員が2名以上の世帯に対し訪問と郵送の複合・選択式で、2019年6月14日から7月23日にかけて行われたもので、対象世帯数は8000世帯、有効回答率は40.3%。単身世帯においてはインターネットモニター調査で、世帯主が20歳以上70歳未満・単身で世帯を構成する人に対し、2019年6月21日から7月3日にかけて行われたもので、対象世帯数は2500世帯。過去の調査も同様の方式で行われている。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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