Yahoo!ニュース

開発途上国への開発協力はなぜ必要か? その理由をさぐる(2019年公開版)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 日本の援助でかかる橋。開発協力の日本国民の認識は(画像:外務省)。

日本が開発途上国などに行っている資金協力や技術協力などの開発協力による支援はなぜ必要だと考えられているのか。国民の意思を内閣府の「外交に関する世論調査」(※)から確認する。

日本も含め先進国は開発途上国に対し、資金協力や技術協力などの開発協力を行っている。今件調査ではかつて「ODA」(Official Development Assistance(政府開発援助))との表現を用い、政府あるいは政府の実施機関により、開発途上国や国際機関に供与・貸与される、資金や技術提供による協力行為のことを対象としていたが、2014年調査分からは有償資金協力や技術協力も併せた、より広義な支援を意味する「開発協力」の表現が用いられている。

とはいえ目的はODAと何ら変わるところはない。外務省の解説によると、ODAは国際社会での重要な責務であり、日本の信頼をつちかい、存在感を高めることに資する役割を果たしている。また開発途上国の安定・発展化に寄与することで、国際平和に依拠し、資源・食料を海外に依存する日本にはプラスとなるとも解説している。

この開発協力について、どのような観点から意義がある、実施すべきであると考えているかを聞いたところ、「エネルギー資源などの安定供給の確保に資するから」とする意見がもっとも多く、49.3%に達していた。なおグラフの空欄はその年では該当の選択肢が無かったことを意味する。

↑ 政府による開発協力を実施すべき観点(複数回答)
↑ 政府による開発協力を実施すべき観点(複数回答)

日本は石油、ガス、石炭などエネルギー資源の大部分を海外に依存しており、諸外国の情勢不安定化はそれらの資源の供給が不安定化することにもつながる(前世紀のオイルショックが好例)。この項目への回答者が多いのも納得できる話ではある。

次いで多いのは「災害や感染症など世界的な課題に対して各国が協力して助け合う必要があるから」で46.3%。今や災害や感染症のような社会に災いをもたらすものは、それが生じた国だけで対応できるものではない規模のものが多く、他国の助けが欠かせない。先の東日本大震災がよい例である。

続いて「開発協力は世界の平和と安定を支える手段だから」が41.3%。戦争や国の情勢不安定化は往々にして経済的な問題を起因としている。よって開発協力により経済が安定すれば、平和と安定に寄与するとの考えによるものである。

さらに「国際社会での日本への信頼を高める必要があるから」が40.7%。信頼が無ければ外交交渉も経済的な協力関係も資源の買い入れもスムーズには進まない。海外とのさまざまな関係の維持強化のための基盤が信頼であり、それを高めるのは有意義であるに違いない。

経年推移で見ると直近年でいくつかの項目が大きく減少している。これは2つの選択肢「災害や感染症など世界的な課題に対して各国が協力して助け合う必要があるから」「開発協力は世界の平和と安定を支える手段だから」が加わり、回答が分散したことによるものと考えられる。

直近年分につき年齢階層別に見ると、複数の選択肢で中年層が高い値を示し、若年層と高齢層は低い傾向が見受けられる。

↑ 政府による開発協力を実施すべき観点(複数回答、年齢階層別)(2019年)
↑ 政府による開発協力を実施すべき観点(複数回答、年齢階層別)(2019年)

興味深い動きが2点。1つは若年層は関心度が低いこともあり、複数の項目で18~29歳の値が他の年齢階層と比べて低め。ただし「中小企業を含む日本企業や地方自治体の海外展開など、日本の経済に役立つから」などでは高い値を示している。対外協力に関して、中年層以降とは異なる価値観、判断基準を持っているとの見方もできる。

他方50代では「開発協力は日本の戦略的な外交政策を進める上での重要な手段だから」「先進国として開発途上国を助けるのは人道上の義務又は国際的責任だから」「中国などによる開発途上国への進出が著しく、日本の存在感を確保する必要があるから」において、他の年齢階層よりも高い値を示している。国際社会における日本の立ち位置について、低い評価を受けること、日本企業や自治体の展開の現状に不安を抱いている感はある。この数年、海外における日本企業の入札事案が他国、特に中国に競り負ける報道が相次いでいることから、それを受けての反応だろう。

■関連記事:

アジアやアメリカは安倍外交をおおむね評価、中韓のみ反発

中国・習主席の外交は大よそ否定的、アフリカなど一部諸国では高く評価

※外交に関する世論調査

2019年10月19日から10月30日にかけて、全国18歳以上の日本国籍を有する人の中から層化2段無作為抽出法によって選ばれた人に対し、調査員による個別面接聴取法によって行われたもので、有効回答数は1608人。男女比は748対860、年齢階層別構成比は10代38人・20代126人・30代166人・40代262人・50代263人・60代299人・70歳以上454人。過去の調査もほぼ同様の様式で行われている。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項の無い限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。

(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロではないプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

不破雷蔵の最近の記事