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即入居可能な物件とそうでないものと…空き家数増加の実態をさぐる(2019年公開版)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 空き家のすべてが居住可能なわけでは無い。(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

空き家問題に関して一般には「居住可能な物件が山ほど余り、それがますます増えていくのは問題だ」との認識が多々見られるが、それは正しいのだろうか。総務省統計局が2019年4月に発表した、2018年時点における住宅・土地統計調査(※)の速報集計結果から確認する。

2018年時点の空き家数は846万戸、総住宅に対する空き家率は13.6%との結果が出ている。

↑ 空き家数・空き家率(万戸)
↑ 空き家数・空き家率(万戸)

この空き家だが、実は次のような区分種類があり、846万戸はこれらすべてを合わせた数になる。

・二次的住宅…

 別荘…週末、休暇時に使う住宅。普段は人は住んでいない。

 その他…普段住んでいる住宅とは別の、たまに寝泊まりしている人がいる住宅。仮の宿。残業などで使う一時的な宿泊の場。

・賃貸用の住宅…賃貸のための空き家。

・売却用の住宅…売却のための空き家。

・その他の住宅…上記以外の住宅。転勤・入院などで居住世帯が長期にわたって不在な住宅、建て替えなどのために取り壊すことになっている住宅※

  ※「住宅・土地統計調査」の説明ではこれのみだが、建て壊し・撤去費用が捻出できずに放置されている事例や、税金対策のために放置されている住宅も含まれる。

実質的に即時入居が可能な、第三者がすぐに住めるとの観点での空き家は「賃貸用の住宅」「売却用の住宅」のみ。世間で騒がれている「空き家」のイメージはこれが強い、つまり「なぜ他人がすぐに住める住宅が846万戸もあるのに云々」というものだが、実態は大きく異なっている。

↑ 空き家内訳(2018年)
↑ 空き家内訳(2018年)

今件について「空き家」を細分化し、その動きを見たのが次のグラフ。第三者が即居住可能か否かとの点に重点を置いているため、「賃貸用」と「売却用」を足して1つの項目とし、各項目の動向を見定めている(1973年以前は統計値自身の区分が大雑把で、今件グラフには適用できないため除外してある)。

↑ 空き家(構成別、万戸)
↑ 空き家(構成別、万戸)
↑ 即入居可能な空き家率
↑ 即入居可能な空き家率

第三者が即居住可能な空き家はあまり増えておらず、住宅全体に占める比率はむしろ低下。二次的住宅も数は横ばい。「その他」のみが大きく増加し、全体数を引き上げている。当然住宅総数に占める比率は増加。

つまり最近における空き家率の増加、空き家数の増大は、実質的には「第三者が即居住可能な空き家」の増加では無く、「その他区分の(第三者は居住できそうにない)空き家」の増加であることが分かる。

それではなぜ第三者が住めないような住宅が放置されているのか。普通に考えればだれも住めない・住まない住宅は固定資産税(+都市計画税)がかかるばかりで、何も収益が発生せず、持ち主にとっては単なる負債となるのみ。

しかしこの固定資産税が大きな問題となる。単なる更地の場合に比べ、住宅がその上に建っている場合、「住宅用地の特例措置」が認められ、大幅に「固定資産税」が軽減される(土地の面積・住宅の規模にもよるが(住宅建物にも課税標準額を基に固定資産税はかかる)、固定資産税は最大で1/6にまで軽減される)。さらに「現時点では」空き家でもこの特例が適用されるため、下手に空き家を解体して更地にすると、固定資産税が跳ね上がるリスクが生じることになる。無論、解体時の費用もばかにならない。

一方で空き家の増加は景観上・都市計画上の問題だけでなく、防犯・防災の観点からもさまざまな問題を抱えることになる。今回の「住宅・土地統計調査」における「その他」項目の空き家住宅の急増は、その問題が顕著化していることを表す一つの指針といえよう。

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※住宅・土地統計調査

5年毎に行われているもので、今回発表分は2018年10月1日時点のデータを計測したもの。約22万単位区・計約370万住宅・世帯を対象に、対象世帯に調査員が調査票を配布・後日回収する方式で行われている。今件における「空き家」とは、居住世帯が無い住宅のうち、建築中や一時現在者のみの住宅を除いたもので、賃貸用・売却用・二次的住宅・その他の類すべてが含まれている。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項の無い限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。

(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロで無いプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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