各国の合計特殊出生率の推移と現状をさぐる(2019年公開版)
国の人口の増減に関連する指標となる合計特殊出生率。この値の各国におけるこの値の現状と推移を2019年6月に内閣府が発表した、2019年版となる「少子化社会対策白書」から確認する。
「合計特殊出生率」とは一人の女性が一生のうちに出産する子供の平均数を示している(計算対象を一般的に出産可能年齢である15~49歳にの女性に限定している)。単純計算でこの値が2.0なら、夫婦二人から子供が二人生まれるので(男性は子供を産まない)、その世代の人口は維持されることになる。実際には多種多様なアクシデントによる減少があるため、人口維持のための合計特殊出生率は2.07~2.08といわれている(これを人口置換水準と呼ぶ。若年層の死亡率の低下とともに減少する)。
「少子化社会対策白書」で公開されている資料を基に、まずは欧米と日本に限定し、主要国の値の確認を行う。
1960年代までは主要国はほぼ人口置換水準を超えていたものの、経済発展やそれに伴う子供の養育コストの増大、結婚や出産に対する価値観の変化、避妊の普及、そして出産後の乳幼児の死亡率低下の影響があり(出産した子供が命を落とさなければ夫婦はその子を養育する必要が生じるため、再び出産へリソースを投入する余裕が無くなる)、一様に低下。そして前世紀末期あたりからは国毎に異なる動きを見せているが、差異はあれど一部では回復傾向にある。
特に大きな上昇が確認できるフランスやスウェーデンでは「嫡出で無い子」の割合の増加、子育てや就労に関する選択肢の増加と、環境の整備(経済面だけで無く保育サービスの充実や社会制度上での補助)、高齢出産に係わる技術的な進歩が大きく貢献している。白書でもこの点に関して、経済支援から保育の充実、出産・子育てと就労にかかわる選択肢を増やすなどの環境整備、いわゆる「両立支援」の強化によるものと解説している。ドイツでもここ数年有意に数字が上昇しているが、これについても「依然として経済的支援が中心となっているが、近年、「両立支援」へと転換を図り、育児休業制度や保育の充実等を相次いで打ち出している」と説明し、「両立支援」が成果を上げた結果であると示唆している。
ただしフランスやスウェーデンではここ数年、再び低下傾向に転じており、各対策も付け焼刃でしか無かった可能性が示唆されている。
なお日本では1966年に特異な下落が見られるが、これは丙午(ひのえうま)による減少に他ならない。他国で同様の動きが無く、日本独自の動向であるのが分かる。
続いてアジア諸国の動向。収録データの事情で、やや年数経緯が粗めとなっている。またタイのデータは白書の2019年版では非公開となってしまったため、同様の時系列データが抽出可能な世界銀行のデータベースからの値を適用している。
アジア諸国に限定しても動向はあまり変わりは無い。経済的な伸張が進むとともに合計特殊出生率は減少し、いずれも人口置換水準を割り込んでしまっている。出生率の低下は日本だけの問題では無いことがあらためて認識できる次第ではある。
なおアジア諸国の出生率の低迷に関して白書では「アジア圏では、婚外出産が少ないことにも一部起因しており、未婚化や晩婚化が出生率変化の大きな決定要素となっていると指摘されている(United Nations “World Fertility Report 2013”を参照)」の指摘をしている。また「韓国の2018年の合計特殊出生率は0.98と、1970年以降で初めて1を下回った」との特記事項があり、韓国の急激な減少ぶりにスポットライトが当てられている。
出生率の低下は経済発展に伴う子供の養育コストの増大、結婚や出産に対する価値観の変化、乳幼児の死亡率低下など、先進国共通の傾向を起因とし、いわば先進国病とも呼べるもの。そしてそれを補いうるものとして一部諸国で顕著化しているのが、「嫡出で無い子」の増加。また、最後のグラフにあるように、アジア諸国では婚姻内での出生にこだわる社会文化の影響が強く、それが経済発展とともに出生率が低下したままの状態を生み出しているものと考えられる。
人口少子化傾向を食い止めるには、日本のかつての風習を再度活性化する、今風にアレンジする、欧米の手法を参考にする、色々な手立てが想定でき、そしてどれか一つのみに限る必要は無い。少子化対策は中長期的・戦略的な視点で先人の成功例を参考にし、断行すべき問題ではある。即効性は無く、劇的な変化が見られないので敬遠されがちだが、優先すべき事項に違いない。
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