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海外情勢や消費税率引き上げへの不安…2019年6月景気ウォッチャー調査の実情をさぐる

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 景気の実情はどうだろうか。街中の動向でも推し量ることはできるが。(写真:アフロ)

現状は上昇、先行きは上昇

内閣府は2019年7月8日付で2019年6月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DI(※)は前回月比で下落、先行き判断DIは上昇した。結果報告書によると基調判断は「このところ回復に弱さがみられる。先行きについては、海外情勢などに対する懸念がみられる」と示された。2019年2月分までは「緩やかな回復基調が続いている」で始まる文言だったことから、景況感がネガティブさを見せる形が3月分以降、4か月連続する形となっている。

2019年6月分の調査結果をまとめると次の通り。

・現状判断DIは前回月比マイナス0.1ポイントの44.0。

 →原数値では「変わらない」「やや悪くなっている」「悪くなっている」が増加、「よくなっている」「ややよくなっている」が減少。原数値DIは43.3。

 →詳細項目は「サービス関連」「非製造業」が下落。「サービス関連」のマイナス3.5ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は皆無。

・先行き判断DIは前回月比でプラス0.2ポイントの45.8。

 →原数値では「ややよくなる」「やや悪くなる」「悪くなる」が増加、「よくなる」「変わらない」が減少。原数値DIは46.3。

 →詳細項目は「サービス関連」「非製造業」が下落。「サービス関連」のマイナス1.0ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている項目は皆無。

昨今では現状判断DI・先行き判断DIともにやや低迷状態と表現できよう。

↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)

ここ数か月はDIのさらなる低下傾向、つまり景況感の悪化が確認でき、報告書のコメントもそれを裏付けるようなものに変わっている。また冒頭でも触れている概況のフレーズの変化は注目に値すべきもの。景況感の回復の弱さどころか後ずさり感すら覚えるところがある。

DIの動きの中身

次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。

↑ 景気の現状判断DI(~2019年6月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の現状判断DI(~2019年6月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

今回月の現状判断DIは合計で前回月から0.1ポイントのマイナス。詳細項目では「小売関連」「飲食関連」「住宅関連」「製造業」が上昇。もっとも大きな上げ幅は「雇用関連」の3.2ポイント。

景気の先行き判断DIでは詳細項目のうち「小売関連」「飲食関連」「住宅関連」「製造業」「雇用関連」が上昇。上げ幅は「住宅関連」の1.9ポイントが最大。

↑ 景気の先行き判断DI(~2019年6月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の先行き判断DI(~2019年6月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

今回月で基準値を超えている詳細項目は皆無。

国際情勢や消費税への不安

報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして各地域ごとに細分化した上で公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に係わる事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。

■現状

・気温上昇により、エアコンや冷蔵庫、洗濯機などの商材が好調に推移したため、前年比で2けた伸びている(家電量販店)。

・梅雨入りが遅れており、天候もよいため、夏物商材の動きが伸びている。特に、飲料関連がアップしており、生鮮関連でも野菜は安価であるため、販売点数が増えている(スーパー)。

・大型連休の反動もあり、個人の客足が非常に鈍い。また、企業も団体旅行など足踏み状態であり、様子見である。受注状況も含め、景気低迷に変わりはない(旅行代理店)。

・ファッションや衣料関連のカテゴリーで需要が縮小しており、動きも鈍くなっている。父の日ギフトの動向をみても盛り上がりに欠けており、ギフト市場もモノ離れが進んでいる(百貨店)。

■先行き

・長過ぎたゴールデンウィークの影響で、消費が悪くなっていたが、ようやく落ち着いている(一般レストラン)。

・今後2-3か月先となると、消費税増税のタイミングが近づくことから、ある程度の駆け込み需要が見込めるため、食品や化粧品などの消耗品がけん引し、ややよくなる(百貨店)。

・ここ数か月、バス、電車の利用が増えている。バス停や駅のバス乗り場での列が目立つ。交通費を控えた利用が増えているようで、消費税増税になれば今まで以上にタクシー利用は減る(タクシー運転手)。

・軽減税率もあり、消費税引上げ前の駆け込み需要はなく、消費税引上げ後は消費が落ち込む(スーパー)。

ゴールデンウィークの10連休は前後の休日需要を多分に吸収したようで、6月に入ってようやくその影響が薄れてきたというところもあれば、いまだに影響が生じているところもある。コメントでも「ゴールデンウィークが絶好調だった業界では、夏、お盆の需要を先食いしただけのケースも多くみられる」というのもあるほど。

天候要因で大きな成果を挙げたところも複数見受けられる一方で、景況感の悪化を覚えさせる動きもいくつか確認できる。単なる杞憂、あるいは回答者だけの話で汎用的なもので無ければよいのだが。

企業関連では米中貿易摩擦の激化に伴う世界経済の後退感への不安が確認できる一方で、人手不足の影響に関す言及も見受けられる。

■現状

・米中貿易摩擦の影響により、一部事業について中止ないし遅れが生じている。一方で、国内単独ビジネスや半導体では、車載関連の引き合いが依然として強い(電気機械器具製造業)。

・国内の物量に大きな変化はないが、日中間の輸出入の件数が10%ほど落ち込んでいる。米中貿易摩擦並びに中国の景気の影響と思われる(輸送業)。

■先行き

・消費税増税の影響で、印刷物の特需が発生すると予想している(出版・印刷・同関連産業)。

・最近は順調に受注できているが、配置人員の不足で受注が困難になると予想され、景気はやや悪くなる(建設業)。

米中貿易摩擦による具体的なマイナス影響の言及が複数見受けられる。他方、日本国内のビジネスの盛況ぶりが継続しているのは喜ばしいことである。

雇用関連では景気のよい話が見受けられる。

■現状

・外国人を中心に観光客が増加していることで、宿泊業とそれに付帯するビルメンテナンス(清掃)業の求人が堅調に推移している。小売業についても影響が生じており、前年と比べて求人掲載が増えている(求人情報誌製作会社)。

■先行き

・首都圏を始めとする県外、県内のいずれの企業も求人に対する意気込みが高いようである(学校[大学])。

観光客の増加で宿泊業が活性化するのは容易に理解できるが、それに伴いビルメンテナンス業も需要が伸びる連鎖反応が生じ、それが雇用拡大に結び付くのは思いもよらない話ではある。

雇用関連の話として人手不足はよく聞くところではあるが、この類の話には得てして「現在の雇用市場に合致した対価・条件を提示しているのか」との疑問が付きまとう。人材プールそのものが枯渇しているのなら話は別だが、現状は多分に「適切な対価引き上げをしていないので人手が集まらない」状況に他ならない。一部で「人手不足だが賃金が上がらない」との意見もあるが、責任回避のための表現の差し替えに過ぎない。

今件のコメントで全国分を確認すると、「人手不足」「人材不足」の文言を多数見受けることができる(現状計31件、先行き計29件、合わせて60件)。ただし全国で景気の先行きに限定して雇用関連の印象を確認すると、良好12件、やや良好16件、不変87件、やや悪い38件、悪い12件となっており、イメージされているほど状況が悪いものでも無いことが統計からはうかがえる。

消費税増税に関しては先行きのコメントにおいて「消費税」だけで450件もの言及が確認できる。駆け込み需要や景況感対策の施策への期待の声もあるが、不安や懸念といったネガティブな内容が圧倒的に多く、景況感の悪化が危惧される。どこぞで主張されている「消費税の増税で財政再建が進むので社会保障への安心感が強まり、消費が活性化される」などとの意見は見受けられず、これが現状なのだろう。

また米中貿易摩擦に関しては先行きのコメントにおいて「中国」で27件、「米中」で53件が確認できる。こちらもネガティブな内容がほとんどで、景況感の足を引っ張っていることは間違いない。特に製造業で影響が顕著化しているのが目に留まる。事態の改善が無い限り、今後も景況感に大きな影響を与えることだろう。

もっとも「逆に米国によるイランへの経済制裁で、貴金属相場が上向きになっている」というタナぼた的な業界もあることがコメントからは確認できる。さらに「中国で利用されている部品もある。今後、米中間の対立が受注量に影響することは十分に考えられる。業界全体で国内生産にシフトすることにより、仕事量の確保を進めている」といった、国内需要の喚起につながっているケースも見受けられるのは注目したい。

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※DI

※景気ウォッチャー調査

内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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