半世紀以上にわたる民間・公営賃貸住宅の家賃の変遷をさぐる(2019年公開版)

↑ 賃貸住宅の家賃はどのような推移を示しているのだろうか。(写真:アフロ)

急上昇した民間賃貸と、動きがゆるやかな公営賃貸と

住まいの需要として賃貸住宅は民間・公営ともに大きな需要を持ち、その需要に応えるべく供給が行われている。その賃貸住宅の家賃の実情・推移を総務省統計局の小売物価統計調査(※)の結果から確認する。

精査を行うデータは東京都区部におけるもの(「民間借家の家賃」「公営住宅・都市再生機構住宅の家賃の平均」について、1か月あたり・3.3平方メートル(1坪)の料金。敷金・礼金や共益費、管理費などは含まれていない)。地方の値とは異なることを記しておく。直近の年次公開値は2018年分なので、その値を取得。また2019年分に関しては月次の最新値を暫定的に適用する。

一方小売物価統計調査では、2015年1月から小さからぬ規模の調査項目の差し換えや仕様変更が実施された。今件記事の対象項目でも「公営住宅・都市再生機構住宅の家賃の平均」に該当する項目が調査対象から外れ、データの連続性が失われる形となった。そこで公的借家の代替として、1991年分から計測値が取得可能な都道府県県営住宅の値を公的借家の代表値として反映させている。

↑ 民間・公営の賃貸住宅家賃(東京都区部、1坪=3.3平方メートルあたり、円)(2019年は直近月)
↑ 民間・公営の賃貸住宅家賃(東京都区部、1坪=3.3平方メートルあたり、円)(2019年は直近月)

民間の賃貸住宅は1967年に垂直に近い動きを見せたのちに上昇を続けており、1990年後半になってようやく上昇が止まることになる。一方公営住宅は1975年前後に上昇カーブがやや急になったものの民間と比べれば随分とリーズナブルなままで推移し、やはり1995年以降は横ばい、一時期は減少傾向まで見せている(都道府県営住宅では明らかに減少している)。

1960年代の民間賃貸住宅の家賃急上昇の理由に関して多数資料を当たったものの、確定できる事象は見つからなかった。影響を及ぼしたと思われる原因としては、ベトナム戦争特需に伴う住宅(建売)ブームの到来などで、賃貸住宅の相場も相対的に上昇したことぐらい。もっともそのような時期でも公営住宅の家賃上昇率は穏やかであり、家計に優しい存在だったことが分かる。

一方ここ10年ほどに限れば、民間は漸減、公営は上昇と、過去の家賃推移とは異なるトレンドの中にある。いずれにせよ、両者の立ち位置が変わるほどの変化ではないが、公民の差は少しずつ縮まりつつあり、興味深い動きには違いない。ただし直近の2019年に限ると民間が急な上昇を見せているのが気になるところではある。

消費者物価の動向を反映させると

世帯内における支出の少なからぬ割合を占める家賃の場合、単純に金額の移り変わりだけでなく、当時の物価を考慮した方が道理は通る。家計全体に対する負担は金額そのものでは無く、物価を考慮した上で比べるべきとの意見は説得力がある。例えば同じ家賃にしても、50年前の5万円と今の5万円では大きく価値が異なる。

そこで各年の家賃に、それぞれの年の消費者物価指数を考慮した値を算出することにした。消費者物価指数の各年における値を基に、直近の2019年の値を基準として、他の年の家賃を再計算する。例えばこの試算では1959年における民間賃貸住宅の家賃は1951円との値が出ているが(実測値は337円)、これは「1959年当時の物価が2019年と同じだった場合、民間賃貸住宅の平均家賃は1951円(1坪あたり)になる」次第。

↑ 民間・公営の賃貸住宅家賃(東京都区部、1坪=3.3平方メートルあたり、2019年の値を基に消費者物価指数を考慮、円)(2019年は直近月)
↑ 民間・公営の賃貸住宅家賃(東京都区部、1坪=3.3平方メートルあたり、2019年の値を基に消費者物価指数を考慮、円)(2019年は直近月)

やはり民間賃貸住宅では住宅ブームの1960年代、特に60年代後半において、大規模な家賃の「実質的」値上げが起きていることが分かる。その後は1980年前半までほぼ横ばいを見せたものの、バブル時代の到来とともに一段階上昇し、あとは穏やかな値上げが漸次行われている形だ。ただし上記にある通り、最近の数年に限れば緩やかな値下げの動きも確認できる。

一方で公営住宅ではこの50年強で実質2倍足らずの値上げしか行われておらず、その値上げ時期も1970年代後半から1990年代後半までの間に限られているのが分かる。色々な意味で良心的といえよう。もっとも今世紀に入ってからは、わずかずつではあるが上昇しているが、民間のと比べれば、まだまだ低水準には違いない。都道府県営住宅に限れば、むしろ漸減の傾向を示している。

ここ数年の間に更新料に関する論議が活発に行われ、それに伴い「更新料の廃止=家賃に転嫁」との動きも一部で見られている。他方、賃貸住宅の供給量の大幅増加に連れ、需給バランスがやや崩れ気味なのも事実。家賃動向はほぼ横ばい、新規契約時にも減少の動きすら見られる。これらの動向は家賃にどのような影響をもたらすのだろうか。

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※小売物価統計調査

国民の消費生活上重要な財の小売価格、サービス料金および家賃を全国的規模で小売店舗、サービス事業所、関係機関および世帯から毎月調査し、消費者物価指数(CPI)やその他物価に関する基礎資料を得ることを目的として実施されている調査。

一般の財の小売価格またはサービスの料金を調査する「価格調査」、家賃を調査する「家賃調査」および宿泊施設の宿泊料金を調査する「宿泊料調査」に大別。価格調査および家賃調査については、全国の167市町村を調査市町村とし、調査市町村ごとに、財の価格およびサービス料金を調査する価格調査地区(約27000の店舗・事業所)と、民営借家の家賃を調査する家賃調査地区(約28000の民営借家世帯)を設けている。また、宿泊料調査については、全国の99市町村から320の調査旅館・ホテルを選定している。

価格調査および家賃調査の調査市町村は、都道府県庁所在市、川崎市、相模原市、浜松市、堺市および北九州市をそれぞれ調査市とするほか、それ以外の全国の市町村を人口規模、地理的位置、産業的特色などによって115層に分け、各層から一つずつ総務省統計局が抽出し167の調査市町村を設定している。宿泊料調査では、都道府県庁所在市又は全国の観光地の中から宿泊者数の多い地域を選定し、99の調査市町村を設定している。調査市町村ごとに宿泊者数の多い旅館・ホテルなどを調査宿泊施設として選定している。

価格調査については、調査員が毎月担当する調査地区内の調査店舗などに出かけ、代表者から商品の小売価格、サービス料金などを聞き取り、その結果を調査員端末に入力する。家賃調査については、原則として調査世帯を訪問し、世帯主から家賃、延べ面積などを聞き取り、同様に調査員端末に入力する。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項の無い限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

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(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロで無いプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。