連休の期待と米中貿易摩擦や消費税率引き上げへの不安…2019年4月景気ウォッチャー調査の実情をさぐる
現状は上昇、先行きは下落
内閣府は2019年5月14日付で2019年4月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DI(※)は前回月比で上昇、先行き判断DIは下落した。結果報告書によると基調判断は「このところ回復に弱さがみられる。先行きについては、海外情勢などに対する懸念がみられる」と示された。2019年2月分までは「緩やかな回復基調が続いている」で始まる文言だったことから、景況感がネガティブさを見せる形が前回月に続き、2か月連続する形となっている。
2019年4月分の調査結果をまとめると次の通り。
・現状判断DIは前回月比プラス0.5ポイントの45.3。
→原数値では「よくなっている」「ややよくなっている」が増加、「変わらない」「やや悪くなっている」「悪くなっている」が減少。原数値DIは47.0。
→詳細項目は「飲食関連」「住宅関連」「雇用関連」が下落。「住宅関連」のマイナス2.0ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は皆無。
・先行き判断DIは前回月比でマイナス0.2ポイントの48.4。
→原数値では「ややよくなる」「変わらない」「悪くなる」が増加、「よくなる」「やや悪くなる」が減少。原数値DIは48.5。
→詳細項目では「小売関連」「飲食関連」「非製造業」が上昇。「雇用関連」のマイナス2.5ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている項目は皆無。
昨今では現状判断DIにおいてやや低迷、ぬるま湯的な軟調さなのが気になるところ。
ここ数か月は現状判断DIのさらなる低下傾向、つまり景況感の悪化が確認でき(今回月は前回月比で上昇したが)、報告書のコメントもそれを裏付けるようなものに変わっている。
DIの動きの中身
次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。
今回月の現状判断DIは合計で前回月から0.5ポイントのプラス。詳細項目では「飲食関連」「住宅関連」「雇用関連」で下落。もっとも大きな下げ幅は「住宅関連」による2.0ポイント。
景気の先行き判断DIでは詳細項目で「サービス関連」「住宅関連」「製造業」「雇用関連」が下落。下げ幅は「雇用関連」の2.5ポイントが最大。
今回月で基準値を超えている詳細項目は皆無。
大型連休への期待VS国際情勢と消費税
報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして各地域ごとに細分化した上で公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に係わる事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
■現状
・ゴールデンウィークが長期にわたることで、旅行時期の分散化が進み、間際需要が増えてきている(旅行代理店)。
・新元号に関連した商戦、ゴールデンウィークの10連休など、消費が活発になるきっかけがあったことから、景気はややよくなっている(スーパー)。
・大型連休を前に旅行関連消費は盛り上がっているが、旅行以外の消費については消費を抑えようとする姿勢が感じられる(百貨店)。
・客単価はよいが、ゴールデンウィークはレジャーに出掛ける人が多く、来客数は減少傾向にある(家電量販店)。
■先行き
・消費税の引上げまでは、富裕層を中心に高級輸入腕時計や絵画などの高額商品は好調に推移していくと見込んでいる(百貨店)。
・改元もあり、新しいものを求める機運がある。自分への御褒美として、少し値が張る商品を購入する客が多い(家電量販店)。
・中国の景気後退で製造業の客からの予約に影響が出てくる(都市型ホテル)。
・5月の10連休でそれなりの出費が発生し、連休後は節約するため、消費が落ち込むと考える(スーパー)。
ゴールデンウィークの10連休化にはポジティブな意見が多いが、一方で旅行をする人が多いために地元の店舗における来客が減ったり、旅行で出費がかさむためにその後は節約志向が生じるとの憶測も見受けられる。世の中すべてが上手くいくとは限らない好例ではある。
企業関連では米中貿易摩擦の激化に伴う世界経済の後退感への不安が強く表れている。
■現状
・ゴールデンウィークが10連休となるため、連休に備えるための注文が例年以上に多く、前年比120%の販売量となっている(食料品製造業)。
・改元に向けた期待感や、イベント等に伴う経費の支出、販促での臨時の投資が増えている。3か月前に比べて、客からの受注金額などの増加が感じられる(広告代理店)。
■先行き
・旺盛なオフィス需要は当面続くと思われるので、特に都心部において賃貸業を営む当社の将来における景況感はよい(不動産業)。
・当社は部品製造だが、受注量や内示が急にストップしている。当社だけでなく他社も同じ状況の会社が多い(金属製品製造業)。
家計動向もあわせ、今回の改元では自粛などの動きによるネガティブな話はほとんどなく、ポジティブな話が多々見受けられ、今回の改元の流れが正しいものであったことを再確認させられる。他方、世界的な景況感、特に中国における後退ぶりを受け、守りに入るなどの対応を示す企業の動きが確認できる。
雇用関連では世界的、特に中国の景況感の動きが雇用にも影響を与え始めている言及が見受けられる。
■現状
・一部の電機、部品メーカーから採用抑制の意向が出てきている。携帯電話の販売状況や米中貿易摩擦の影響が出ており、これまでの採用計画を抑える状況にある(民間職業紹介機関)。
■先行き
・景気の先行きが不透明のため、今後、募集に対して慎重になってくる企業も出てくる(求人情報誌製作会社)。
景気の先行きが不透明という不安感によって経営陣に決断、選択に二の足を踏ませている状況は、経済循環の停滞を引き起こしかねない、大きな懸念材料に違いない。
雇用関連の話として人手不足はよく聞くところではあるが、この類いの話には得てして「現在の雇用市場に合致した対価・条件を提示しているのか」との疑問が付きまとう。人材プールそのものが枯渇しているのなら話は別だが、現状は多分に「適切な対価引き上げをしていないので人手が集まらない」状況に他ならない。一部で「人手不足だが賃金が上がらない」との意見もあるが、責任回避のための表現の差し替えに過ぎない。
今件のコメントで全国分を確認すると、「人手不足」「人材不足」の文言を多数見受けることができる(現状計29件、先行き計35件、合わせて64件)。ただし全国で景気の先行きに限定して雇用関連の印象を確認すると、良好13件、やや良好23件、不変81件、やや悪い35件 悪い12件となっており、イメージされているほど状況が悪いものでも無いことが統計からはうかがえる。
コメントには人手不足の現象が、多分に労働環境の改善が求められているとの労働市場のシグナルであるにもかかわらず、雇用市場の変化に対応しようとしない、できない企業において、人手不足感が強いとの印象を受けるものが少なからず見受けられる。上記で触れているが、「人材不足は賃金不足」である(賃金だけに限らないが)。他方、現状を見据えた上で問題意識を明確にし、状況改善へとかじ取りをする企業の動きや状況認識もある。
消費税増税に関しては先行きのコメントにおいて「消費税」だけで282件もの言及が確認できる。駆け込み需要や景況感対策の施策への期待の声もあるが、ネガティブな内容も多く、景況感の悪化が危惧される。どこぞで主張されている「消費税の増税で財政再建が進むので社会保障への安心感が強まり、消費が活性化される」などとの意見は見受けられず、これが現状なのだろう。
また米中貿易摩擦に関しては先行きのコメントにおいて「中国」で23件、「米中」で15件が確認できる。こちらもネガティブな内容がほとんどで、景況感の足を引っ張っていることは間違いない。特に製造業で影響が顕著化しているのが目に留まる。
なお先行する形で内閣府から2019年5月13日に発表された景気動向指数では、国内景気の基調判断が6年2か月ぶりに悪化となった。外需低迷が大きな要因となっている。次回月の景気ウォッチャー調査でも同様の判断が示される可能性は高いだろう。
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※DI
※景気ウォッチャー調査
内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。
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