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注目楽曲を数字化…CDやインターネット配信の「ミリオン認定」などの実情をさぐる(2019年公開版)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 並ぶ多数の音楽CD。実態としてどれほど「ミリオン」が登場しているのか。(写真:アフロ)

創作者にとって「ミリオン(100万)」は金字塔的存在であり、ヒットの代名詞に他ならない。日本の音楽業界における「ミリオン」の実情を、日本レコード協会が2019年4月に発表した音楽業界に関する白書「日本のレコード産業2019」から確認する。

書籍やゲームソフト市場でもよく使われている言い回しで、作家・出版元の立場からは夢、目標の一つ「ミリオンセラー」(100万単位以上売れること)。しかし「日本のレコード産業」では数年来この言い回しは使わず、代わりに「ミリオン認定」との言葉を用いている。これは「会員各社からの申請に基づいた出荷枚数」を定期的に確認し、「発売日からの累計正味出荷枚数が100万枚を超えた場合」に認定する称号。累計正味出荷枚数が200万枚に達した場合、その時点で改めて2ミリオンが認定されるとともに、それ以降は100万枚毎に改めて認定が行われることになる(音楽配信の場合は購入のためにダウンロードされた時点でカウントされる)。

ミリオンより下には10万枚以上の「ゴールド」をはじめ、25万枚以上の「プラチナ」、50万枚以上の「ダブル・プラチナ」などがある。これらはあくまでも出荷枚数であり、販売枚数よりはハードルが低いことに留意しなければならない。

次に示すのは、過去の分も含め、経年の「日本のレコード産業」で確認できる限りにおける「ミリオン認定」の推移。例えば「アルバム」はアルバムにおけるミリオン認定の数、「(アルバム2ミリオン以上)」はアルバムのミリオン認定のうち2ミリオン以上の認定作品数を意味する。

↑ 音楽CD・ミリオン認定など
↑ 音楽CD・ミリオン認定など

直近分となる2018年はアルバムではミリオン認定無し、シングルではミリオン認定9本でうち1本が3ミリオン認定。さらに2018年は特殊事例として、過去の白書では計上されていなかったビデオについて1ミリオンが確認できる(グラフには反映させていない)。具体的には次の通り。

●シングル

■3ミリオン

・Teacher Teacher(AKB48)

■ミリオン

・ガラスを割れ!(欅坂46)

・ジャーバージャ(AKB48)

・シンクロニシティ(乃木坂46)

・ジコチューで行こう!(乃木坂46)

・アンビバレント(欅坂46)

・センチメンタルトレイン(AKB48)

・帰り道は遠回りしたくなる(乃木坂46)

・NO WAY MAN(AKB48)

●ビデオ

■ミリオン

・namie amuro Final Tour 2018 ~ Finally ~(安室 奈美恵)

※年月表記が無いのは2018年中発売

報告書の過去グラフの表記にビデオのカテゴリが無かったことからも分かる通り、「namie amuro Final Tour 2018 ~ Finally ~」がミリオン認定となるほどの人気を博したのは、音楽ソフトのビデオにおいては異例中の異例ともいえる出来事。ご承知の通り安室奈美恵氏が2018年9月に引退したことを受け、彼女のファンがこぞって手にした結果に他ならない。またこの好評ぶりが2018年における音楽ソフトの特需の主要因だったともいえよう(シングルも盛況ぶりを示しているが)。

シングルはいわゆる「選挙」や「握手会」との絡みをはじめとするさまざまな「仕組み」もあり、ここ数年来の状況から大きな変化は無く、類似グループが占める形となった。2年前の2016年ではSMAPの解散があり、アルバムだけで無くシングルでも大きなセールスを計上していたが、2018年ではその動きも無い。

2014年に生じた、グラフの緑線の大きなイレギュラー的動きだが、これは2014年発表分からミリオン認定のカテゴリ区分に変更が生じたことによるもの。これまで「着うた」「着うたフル」はCDとは別途「音楽配信」として計上し、さらにパソコンやスマートフォンなど向けの「パソコン配信(シングル)」は今件項目ではカウントしていなかった。しかし2014年分から「着うたフル」「パソコン配信(シングル)」を統合して「シングルトラック(音楽配信)」としてカウントし、「ミリオン認定作品」に計上している。

2014年分では2014年1月において、これまでカウントしていなかった過去の「パソコン配信(シングル)」分の作品が大量にミリオン認定されている。つまり2014年分が跳ね上がったのは、2014年に大量のミリオン認定作が突如出現したのでは無く、これまで未認定だったものが一挙に認定されたことによるもの。

↑ (参考)シングルトラック(音楽配信)における2014年分で認定カウントされた作品一覧(「日本のレコード産業2015」(日本レコード協会)より抜粋)
↑ (参考)シングルトラック(音楽配信)における2014年分で認定カウントされた作品一覧(「日本のレコード産業2015」(日本レコード協会)より抜粋)

2015年以降はそのイレギュラー的な動きも収まり、2018年では全部で6タイトルがカウントされる形となった。ちなみに2018年中に「配信を開始」し、ミリオン認定されたのは1タイトル、2018年2月配信開始の「Lemon」(米津玄師)のみである。

2012年以降は携帯電話市場におけるスマートフォンへのシフトが進み、それに併せてモバイル端末の有料音楽配信市場が大きく変動、従来型携帯電話(フィーチャーフォン)による「着うた」「着うたフル」の需要が大きく減退している。その動向はシングルトラックのミリオン認定数の減少として表れていたが、2014年からカウント形式が変わり、パソコンやスマートフォン向けの有料配信も計上されることで、動きが読みにくい状況となったのは否めない。

直近年となる2018年においてもシングルのセールスで2ミリオン以上のセールスが登場したこと自体は喜ばしいものの、その内情を見るに「音楽業界の伸長による結果」と評してよいのか否か、判断にはやや迷うところがある。

かつて宇多田ヒカルの初アルバム「First Love」は初回出荷280万枚、1999年だけで800万枚を超えるヒットとなった(国外も合わせると1000万枚前後との説もある)。このような「超ヒットセラー」は、現在の市場では登場するのはまず不可能。

2014年に社会現象化した「アナと雪の女王」ですら、アルバムはダブルミリオンに届いていない。趣向が分散し、情報を取得する手法が多様化する以上、同一作品が集中的に売れることが難しくなったのが一因。2013年以降、定額制の聴き放題サービス部門が大きく伸びたのも、その状況変化を示す数字の一つであろう。

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(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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